第12話 俺を管理する男

 白い蛍光灯の光が、やけに冷たく感じられた。

 翔真は病院のような無機質な検査室で、金属の診察台に座っていた。


 腕には数本のコードが繋がれ、機械がピッ、ピッと規則的に音を立てる。


 脇腹や肩口、喉元――いくつもの場所に小さなセンサーが貼り付けられ、それが細かく脈動や血液の変質を計測していた。


 黒瀬はモニターに映る数値を見つめ、何度も書類にメモを走らせる。


 その顔は真剣で、けれど一切の情はなかった。


「……どうなんだよ。俺は、治るのか」


 思わず声がかすれる。

 冷え切った部屋に、自分の声がひどく頼りなく響いた。


 黒瀬はモニターから視線を外し、ゆっくりとこちらを見た。


「――君の身体は、既に通常の人間の細胞構造じゃない。

 スーツと融合して以降、筋繊維や骨格に硬質化が進んでいる」


「それって……つまり、どういう……」


「簡単に言えば、人間としての構造が書き換わっているということだ」


 黒瀬の瞳は氷のように冷たかった。


「いずれ君は、完全に“ヒーロー”になる」


「完全に……?」


「今のように自分で自分を抑えられるうちはまだいい。だが、制御が効かなくなれば――ただの破壊装置だ」


 翔真は喉が詰まったように息が苦しくなった。


(俺が……ただの、破壊装置……?)


 手が震える。

 硬質化した部分がわずかに反射して、小さな光を跳ね返した。


 黒瀬は椅子に背を預け、脚を組む。


「ヒーローは、国家の資産だ。

 君が壊れた時には、代わりが必要になる。それだけの話だ」


「……っ……!」


 その言葉が、胸に深く突き刺さる。


 (代わりが……?)


 自分はただの道具で、異常が進めば廃棄されるだけ。


 分かっていたつもりだった。

 でも、こうして真正面から言われると――心がどうしようもなく冷たくなった。


 黒瀬は立ち上がり、書類を閉じた。


「次の戦闘に備えろ。近いうちにまた出動だ」


 それだけを言い残し、無言で部屋を出て行く。


 翔真は一人、冷たい金属の診察台の上で小さく息を吐いた。


 コードを繋がれたままの自分は、まるでただの実験体だった。


(……まだだ。まだ、人間のままで……)


 ポケットに忍ばせた雪乃から返されたシャープペンを、そっと握り締める。


 痛いほど強く。

 自分が、まだ“痛み”を感じる人間であることを、確かめるように。

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