異世界メンタル・クリニック 〜共感スキルで心の傷を癒やします〜

四月

第0話 心の痛みは、誰にも見えないけれど

大学を辞めてから、もう9年になる。


それからの俺は、働きもせず、家族ともろくに話さず、ただ自室で動画を眺めるだけの日々を送っていた。

YouTubeのおすすめに出てくるのは、心理学の解説動画、HSPの自己診断、毒親との距離の取り方。

見たところで何が変わるわけでもない。

でも、それを流しているだけで、「何かしてる気」になれた。


外に出る理由もない。誰かに会いたいとも思わない。

──ただ、寂しさだけは、どうしても消えなかった。


他人の悩み相談の動画を見ながら、ふと考えることがある。


もし、あのとき誰かに話を聞いてもらえていたら。

もし、自分にも「ここにいていい」と言ってくれる誰かがいたなら。

俺は、こんなふうにはならなかったのかもしれない。


そんなとき、画面の右下にふと現れた広告が目に入った。


「あなたの“共感力”、異世界で求められています」

その下にあるボタンには、こう書かれていた。


【▶ スカウトを受ける】


ふざけた広告だと思った。

でも、なぜか目が離せなかった。

──まるで、“お前にしかできないことがある”と語りかけられているようで。


気づけば、俺はクリックしていた。


ほんの軽い気持ちだった。

そう、それだけのはずだったのに。


次の瞬間、光に包まれて、世界が、弾けた。


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