そして僕らは逆立ちしたカバを見る
みなかみもと
仁義なき闘い編
「いっそ殺せ」
激しい羞恥、恥辱に苛まれた際、よく物語の中で「いっそ殺せ」と登場人物が叫ぶ。この辱めから逃げられるのならば、死のほうがいっそマシだと思うのだ。
……分かるよ、その気持ち。
いつも通りに食事の準備をしていると、推し(家族)が嬉々とした様子で紙の束を手に現れた。
それをあろうことか、心を込めて我が相方に朗読している。
身に覚えのある内容だった。
瞬間血の気がひく。
そう、とても、身に覚えのある内容だが、相方には内緒にしているものだった。
推し(家族)に寝物語で語りかけたものを、文章になおし、とある賞に応募した写しだった。
ついでに一次審査で落選し「いやぁ、駄目だったよ」と推し(家族)に苦笑いで説明したところ
「もとさん(私のことだ)、次いける!」
と励ましてくれたが、取り敢えず推し(家族)にも相方にも目につかない場所にしまい込んでいたのだが。
ナゼそこにある?
ナゼしまった場所を知っている?
そして何故、今この時間に、それを取り出して、感情をこめて読み上げている?
「もとさん……」
相方が全てを察したのか苦笑いしてくる。
こちらも直ぐ様、推し(家族)から取り上げたいところだが、挽き肉を捏ねている手では不可能。
そんな時は僅かなプライドを奮い立たせ
「ああそれ? 応募したやつだよ、落選したけどね!」
と笑顔で応えるのだが。
どうしようもない羞恥に心の内ではずっと捕らわれた諜報機関員が、拷問されながら叫ぶ姿がリフレインしていた。
いっそ殺せ。
こそこそ物を書いている人々には、誰しも起こり得る恐怖と悲劇だと思うのだが、いかがか。
取り敢えず、現在書いているものは全て二重パスワードで開かないようしているが、それもいずれ破られるのではと気が気でない。
お陰様でこちらの隠す力もパワーアップしております、ありがとうございます……。
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