青のアウトライン -after story- 天才の描く未来を凡人が超えていく方法

日日綴郎

プロローグ『ただ歩き続け、ただ前に進んでいるの』 ジョージア・オキーフ

上を向かなければ、星は見えない。

 何かに真剣に取り組んでいる人間なら、こんな夜は定期的にやってくるのではないかと思う。


 叫び出したくなるような焦燥感。将来のことを考えて眠れない不安。


 自分が今やっていることはすべて無意味なのではないか、ただ時間を無駄に費やしているだけではないかという負の感情が湧いてきては、体を覆いつくして精神を蝕んでいく。


 早く朝になってほしい。この漠然とした不安は不思議と朝になれば解消されるとわかっているのに、なかなか眠れないのも厄介な難点だ。


 こんな夜を乗り越えるための方法として、俺はいつも眠くなるまで、または寝落ちするまで絵を描き続けることで対応していた。


 だけど今の俺には、新しい療法がある。


 散歩に行くために、ベッドから起き上がった。




 北海道の夏はとても短い。六月になってようやく、夜に半袖で出歩いても体が冷えなくなった。


 ひとりで星空を見上げながら、うろ覚えの知識を脳の奥底から引っ張り出す。


 夏の大三角形は、シリウス、ペテルギウス……は、違うか。これは冬の大三角形だったっけ?


 詩子うたこの話を聞いているうちに少しは星に詳しくなったとはいえ、俺の星に対する知識も情熱も、彼女からしてみればミジンコのようなものだろう。


 ――詩子が母親の鎖を自分の力で断ち切った、あの夜。


「舞森の星は綺麗」だと詩子が目を輝かせて言うものだから、俺も意識して夜空を見上げるようになった。星を見ると力を貰える気がすると言っていた彼女の影響で、俺もそう信じるようになった。


 そもそも、口実を作ってでも上を向くという行為が、俺の性に合っている。


 どんなに辛くても苦しくても強制的に上を向くことは、俺の目指す夢の延長線上に不敵な笑みを浮かべながら立っている、あの天才から目を逸らさないためにも必要だからだ。


 上を向かなければ、星は見えない。俺がやるべきこととリンクする。


 大きく息を吸って、吐く。初夏の夜風は生暖かく、誰にでも優しいから好きだ。


 さて、帰るか。気持ちは前向きな方向に切り替えることができたし、明日の朝も早い。


 俺の……いや、俺たちの未来はどうなっているのだろう。


 真っ白なキャンバスに思い描いた未来を載せるために。


 俺たちは明日も、それぞれの一日を好きな色に染めていく。

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