第25話 ファンタズ魔
サエキはワカマツグループが経営している病院に運ばれた。全治数カ月の両足の傷。
サエキ『俺の受験。負け組確定だわ……。』
両親は見舞いに来たが、仕事があるからと、サエキにいるものを聞くと、そそくさと仕事へ行ってしまった。
父「限度額の申請とかあるから、俺はこれで行く。」
母「また来るからね?」
外科病棟の四人部屋、両親と入れ替わる形でリハビリの技師が入ってきて、隣の患者を車椅子に乗せてリハビリセンターへ連れていった。
サエキ『……そんなもんだよな、老後はアニキにおんぶに抱っこしてもらえばいいし、俺の扱いなんて。』
そこへワカマツとヌキナも来た。
サエキ「シッダー先生は?」
ワカマツ「葬式は家族でやるそうだ。」
ヌキナ「大丈夫?サエキ君。」
サエキ「俺もヌキナさんにならって自由に生きようかな?」
サエキは精一杯の強がりをしてみせた。
サエキ「ワカマツ、俺の分の線香もあげといてくれるか?」
ワカマツ「いや、無理だ。こうなったのは俺たちのせいだと言って、ご家族から来るなと言われている。」
サエキ「……そうか、そうだよな。」
ヌキナ「それって私も?」
ワカマツ「ナンマイダー関係者だし、いったら殴られるぞ?」
ワカマツは赤く腫れた左の頬を撫でてみせた。
ヌキナが一層悲しそうな顔をする。
そこへ、フシミが血相を変えて病室へ入ってきた。
フシミ「あぁ、よかった!」
言うと同時にサエキのベッド脇にかしずいて、布団に顔をうずめて、大声で泣きじゃくった。
サエキ「ごめんよ、先生。」『体も、受験も』
フシミはサエキに抱きついた。サエキもその肩に腕を回した。
色々、察したワカマツはヌキナを連れて外に出た。
フシミ「……もう、むちゃしちゃダメよ?私を一人にしないで。」
嗚咽混じりのその言葉、それよりもサエキリョータにはフシミの心の声のほうが響いた。
愛してる。
その言葉にサエキは今まで抑えていた感情が噴き出して二人して抱き合って泣いた。
ワカマツはグループ関連の研究所にヌキナを連れて車で向かった。
ヌキナ「ブラックボックス?」後部座席に隣り合った2人は顔を見合わせて話をしていた。
ワカマツ「あぁ、モーゴとキーゴの頭の中には記憶媒体が入ってた。今頃はそれらを取り出して、解析が済んでる頃さ。」
ヌキナ「私たちで、弔いしなくっちゃね?シッダー博士やモーゴとキーゴの。」
研究所につくと2人は腕を組んで施設の中へ入っていった。
研究員「音声データのみで、雑音もひどいです。どちらも同じ内容ですが……?どうされます?」
ワカマツ「モーゴのを。」
研究員「分かりました。」
ガラスの向こうで研究員達がブラックボックスをたくさんのコードがついた装置に置くと。
激しい機械音が響いた。
ワカマツの隣りに座ってその様子を見ていたヌキナが咄嗟に耳を塞ぐ。
研究員「失礼しました。」
ワカマツ「いい、再生してくれ。」
モーゴ『(ガー)お前ら!一体どこから?!』
(ガビー!)
キーゴ『アニキ!?』
オウムマン『お前ら、こんなところにいたのか。』
シッダー『モーゴ!』
(バキッ!)
一撃を食らったシッダーの声はそれが最後だった。気絶したのだろう。
モーゴ『逃げろ!キーゴ!(踏みつけられる音)うぐ!ナ、マイダー達に……!』
ここで背景の雑音はさらに酷くなる。
キーゴ『アニキ!!』
ガチャッ
オウムマン『あ!まて!』
(ザーッ)
激しい雑音に小さくキーゴの悲鳴らしきものが聞こえる。ヌキナは凄惨な現場を想像して口を押さえる。ワカマツも苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
ケンドーン『(ザーッ)つ、があま、ぞ。オウムマ……。』
オウムマン『…………ファンタズ魔…………』
(ブツッ!)
ここでブラックボックスの音声データは終わっていた。
ワカマツ「……ファンタズ魔?」ワカマツは口元を押さえて黙り込んだ。
オウムマンはこれから何かをするつもりだ。それだけは確実に言えた。
考え込んでいたヌキナも重い口を開いた。
ヌキナ「ねぇ、オウムマンとケンドーンの二人だけだったっぽいわね襲撃は。」
ワカマツは頷いた。
ヌキナ「ハカイソーは?」
ワカマツはハッとした。こんな汚れ仕事を幹部怪人だけでやる?そして、倉庫での出来事。
ワカマツ「……もう、ハカイソーがいないんだ。」
その晩、痛みでなかなか眠れないでいたサエキは天井を眺めていた。
サエキ『左足の弾、か。確か、手術の予定日は来週だったか?』
陰陽S「その予定はキャンセルだ。」
四人部屋のカーテンで仕切られた空間。
サエキが上体を起こしてカーテンを見やると、陰陽Sの他に紙のお面で顔を隠した陰陽師(?)達が二人入ってきた。
陰陽S「サエキ。声を出すなよ?やれ。」
お面の陰陽師達が印を結んで何かを唱えると、サエキの左足から弾が取れた。その激痛に、サエキは口を押さえて悲鳴を我慢した。ブワッと顔全体から脂汗が出る。
サエキ「う!ぐ!……。と、れた?」(はぁ、はぁ)
傷口もみるみる塞がっていく。
サエキ「すげえ……。」
陰陽S「右足のは貫通してるのか……。そのくらいならもう、一週間で退院だろう。」
サエキ「ありがとうございます!」
隣の患者「うるせーぞ!!」
陰陽Sはお前のほうがうるさいと小言を言う。まぁ、消灯時間を過ぎてるのにサエキが大声を出すのが悪いのだが。
陰陽S「いいか、ソッカーを倒せるのはお前だ。サエキリョータ。」
サエキ「先生達は?」
陰陽S「気にするな、俺たちには俺たちでやることがある。」
お面の陰陽師A「陰陽S。」
お面の陰陽師B「事は済みました。」
陰陽S「うむ、じゃあな。」
三人がカーテンの外に出ると、その影はフッと消えた。
隣の患者のナースコールと物音に駆けつけた看護師にサエキは取れた弾を見せた。
大パニックを起こした看護師は当直医も呼んで、サエキはどうしてこうなった?と、問い詰められた。
サエキ『うわー、どうしよう?陰陽パワーとか信じてもらえるか?』
布団も血だらけになっていたのでシーツを交換するやら、着替えるやら、その日は朝方まで大騒ぎになった。
リハビリもそこそこに退院になったサエキはその足でワカマツやヌキナに連れられてシッダー博士の眠る霊園にタクシーで向かった。
シッダーの墓前につくと3人は手を合わせた。
ヌキナ「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」
サエキ「あの人、真言宗だろ?釈迦如来云々言ってたし。」
ヌキナ「大事なのは、マカった人への気持ちよ。」
サエキ「まか?」
ワカマツ「マカル。死ぬってことだ。授業で習っただろ?」
受験勉強には関係ない知識とサエキは情報をシャットアウトしてたかもしれない。サエキは少し顔をあかめた。
ワカマツ「シッダー博士、俺たちがあなたの意思を引き継ぎます。」
ヌキナ「だから、化けてでないでも大丈夫です!」
ヌキナは一心に願った。
その日、学校では2年生たちがスキーの楽しい修学旅行にバスで出かけていた。一行を乗せたバスはトンネルの昼間なのに真っ黒な闇にのみ込まれるように消えていった。
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