第13話 風神の体育祭

雲一つない晴天のもとサエキの通う仏教高校の、体育祭が執り行われていた。白と赤の組に分かれて順位を競い合う。

サエキ『今年は赤かぁ。』

500m走に出走するサエキは出走メンバーの中で出番を待っていた。

サエキ『高校生活、最後の体育祭だ。いいとこ見せたいとこだぜ。』

サエキは応援席の、日射病対策の麦わら帽子に赤い鉢巻きをしたフシミを見た。薄着で下のブラジャーのラインがくっきりしている。

フシミもサエキと目が合うとサエキを応援した。

フシミ「頑張れー!サエキくーん。」

サエキはその声援に手を降って応えた。

ヌキナ「サエキくーん!頑張ってー!」

ワカマツ「1位取れよー!」

同じ赤組のヌキナもワカマツもグラウンドに並べられた席から応援してくれている。

次、サエキの出走の番が回ってきた時、サエキの内なる声が囁いてきた。

???『私の出番です。』

サエキ『何の声だ?』

???『早く。印を。臨兵闘者皆陣烈在前。です。』

サエキは手印を素早く作った。声の主に確認する。

サエキ「これで良いのか?」

???『よーし。お任せあれ!』

「位置についてー、よーい!」

サエキは慌ててコースについた。

パン!

サエキの体はサエキの意思とは関係なく勝手に走り出した。今まで味わったことのない感覚。自分の意識ではない誰か別の人が体を使っている。サエキは風をまとい、体が宙を浮くような感覚を覚えた。どんどん加速する。

ワカマツ「おいおい、あんなペースで最後までもつのか?」

ヌキナ「サエキくーん!持久走よー!ペース落としてー!」

見てる方が心配しているが、それをよそにサエキは呑気に構えていた。

サエキ『とは言ってもなぁ、動かしてるの俺じゃないし。』

1位に躍り出たサエキは後続をみるみる引き離していく。

フシミ「……あれは……」

司会進行『ゴール!一着は3年のサエキリョータ選手!2位以下を何馬身も引き離して余裕のゴールです!』

???『どーよ!』

内なる声は、ドヤっている。

席に戻るとサエキの頭にフォックスの声が響いた。

フォックス『風神!やめなさい!』

風神『え?いやです。このまま、全部ぶっちぎりです!』

サエキ『風神?フォックス?どこから?』

サエキはあたりをキョロキョロ見渡した。

フォックス『そんなことより!風神!その子の体が持たないわよ!?』

風神『大丈夫です!私に任せてください!』

サエキは体を誰かに揺すられてることに気がついた。

ワカマツ「おい!おい!サエキ!」

ヌキナ「大丈夫なの?!サエキ君!」

サエキ「あれ、二人ともいたのか。」

サエキは今頃になって酸欠で頭がくらくらし始めた。

フォックス『ほれ、見なさい!』

風神『すぐ、直りますよ、若いからこの魄(からだ)!』

フォックス『やっぱり、この子には陰陽道は無茶なのよ!!』

サエキはその言葉に反論した。せっかく手にした力、せっかく手にした居場所を守りたかった。

サエキ『コレは予行演習みたいなもんだ。風神がいれば、ソッカーに勝てる!使いこなしてみせます!先生!』

サエキの頭の中に映るフォックスはキューンっとなったのか、たじろいでいる。

フォックス『……わかった。そこまで言うなら、止めはしないわ。頑張りなさい、少年。』

サエキ「はい!」

それまでボーッとしていたサエキがいきなり返事をするものだからワカマツとヌキナはサエキに注目した。

ワカマツ&ヌキナ「「?」」

サエキ「なんでもないよ!それより、ワカマツの出番だぜ?行ってこいよ!」

ワカマツ「お、おう。」

息も整って、なんともなさそうなサエキを見ても、まだワカマツは心配そうにその場を立った。


昼の休み時間。コレがすぎれば、残す所あと、応援合戦と2競技、綱引きと騎馬戦だけだ。

サエキは売店の近くの階段に座り、焼きそばパンを3つ早食いした。今はバランスよりエネルギーを体が欲していた。

サエキ『よし!午後も頼むぞ!風神!』

体のうちにいる風神に声を掛ける。

風神『お任せあれ!』

そこへフシミが通りかかる。香水の香りを漂わせて。

フシミ「サエキ君、すごいわね、アナタは。すべての出場競技が1位ですもの。」

サエキ「そうですかね?ヘヘヘ……。」サエキはいい香りを深く、深呼吸して堪能した。

フシミ「……むちゃしちゃダメよ?」

他の競技も風神をコントロールできずに暴走気味だったが、回を重ねるごとにコントロールをつかめてきていた。サエキは自信があった。

サエキ「午後の部も観ててください!先生!きっといいとこ観せます!」

サエキはフと気になってフシミに質問してみた。香水の件だ。

サエキ「フシミ先生のつけてる香水、俺の知り合いも使ってるんですが、流行ってるんですか?」

フシミは突然の質問にキョドった。

フシミ「さ、さぁ?近くのデパートで手に入るから、誰でも使ってるんじゃないかしら?」

フシミは何事か考えてサエキに聞いてみた。

フシミ「……あの、サエキ君は、その人のこと、どう思ってるの?」

サエキは顔を赤くして応えた。

サエキ「あー、いやぁ、そのー。気になってはいます。素敵だなぁって。」

フシミ「そ、そうなの。いいな、その人、なんだか焼けちゃう。」

フシミが余裕がなさそうに、いたずらっぽく笑う。

サエキ「い、いや、その、フシミ先生みたいだなって、その人……。」

フシミ「え?」

2人の沈黙を始業のベルが騒ぎ立てる。

サエキ「そ、それじゃ行ってきます!」

フシミ「あ、頑張って……。」

走り去るサエキの後ろ姿にフシミは今にも消えそうな声しか、かけれなかった。


昼1の応援合戦か終わり、次は綱引きだ。

サエキ「ワカマツはドラムもやれるんだな。」

ワカマツ「一応、どの楽器も卒なくこなせるぜ?器用貧乏ってやつさ。」

ヌキナ「私、今度、ギター習おうかしら、ワカマツくんに。」

ワカマツ「え?俺に?まぁ、いいけど。」

サエキ「次の競技の出場者並んでるぜ?俺達も行こう。」

綱引きは白組対赤組の年別対抗戦となっていた。サエキ達は3年の綱を握った。

風神『今度のは力比べですね。頭の中で帝釈天印を作ってください。』

サエキ『こう?』

サエキは頭の中の誰かの手を動かして帝釈天印を作った。

風神『そうです、そうです。では、行きます。』

ズヒュゥゥン!

風神が体の外に出る。

他人には見えてないが、サエキにひっつくような形で風神が、手綱を握っている。

フシミ「!」『現し世で式神を外に出し始めている!?早い!なんて子なの!』

旗振り「よーい、どん!」綱の真ん中の旗振りの合図で一斉に生徒たちが綱を引く。

風神『お?相手もなかなか。やりますねぇ。』

ギチギチ

白組はいくら力いっぱい引こうとも綱はびくともしない。

サエキ『コントロール、コントロール。力加減は……こんなもんかな?』

綱は赤組の方へゆっくり引き寄せられていった。

試合終了の合図が鳴る。

司会進行『綱引き、3年の部は赤組の余裕の勝利だー!』

フシミはその光景に息を呑んだ。

フシミ『この日だけで、しっかりコントロールできるようになるなんて……』


サエキ『相性がいいんだな、俺達。』

風神『ですね?さぁ、次で最後です。』

騎馬戦で上に騎乗したサエキはどうやって立ち回るかを頭で考えていた。

風神『そうですね。時間差で側面に回りましょう。』

サエキ『?』

サエキそうすることでどうなるかよくわかってなかった。

パン!

試合開始の合図で中央が激突する。

サエキ&風神「俺達もいくぞ。」

サエキ達は中央を避け、グルリと側面に回った。

味方は押され気味で押し込まれて、広がっていた。そして、砂ぼこりで真ん中あたりは、よく見えないでいた。

慢心、白組はそのまま押し切れると思っていたが、側面に回ってきたサエキの一団に強襲され、陣形を乱した。

サエキ「今だ!一気に押し込め!」

正面の敵と側面の敵の対応を迫られた白組は次々に討ち取られていった。

サエキ『風神って頭もキレるんだな!』

風神『専門の式神には劣りますが……。いやぁ、照れるなぁ。』

その時、サエキのハチマキを後ろから掠め取ろうとする手があった。

ガシッ!

白組騎馬「う!腕がっ!」その腕は見えない何かに掴まれて動きを止める。

サエキは振り向いてその騎馬を倒した。

サエキ『卑怯だったかな?』

風神『お互い様です。』

こうして、騎馬戦は赤組の勝利で終わった。

風神の活躍により、体育祭は赤組の圧倒的勝利に終わった。

サエキ『陰陽道、すげーわ。』

サエキは確かな手応えを感じていた。

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