第2話 こまるなあ
(こまるなあ・・・・・。)
梅雨の六月。
じめじめして気もふさぐ午後、断れない用事に追われて電車に乗ったんだよね。
つり革につかまったんだけど、前に座っていた女がじっと見上げてるんだ。
初めは、知り合いと勘違いしたのかなと思ったけど違うみたい。
女は紺色のカーディガンを羽織って、膝の上でスマホを握っていてね。カーディガンの下には、白いブラウス少し覗いていて、スマホの下には折り畳みの小さな傘が見えていたんだ。スカートは落ち着いた紺色でね。そして、擦り減ってそうな黒いパンプスで、髪は肩にかからず、地味な装いなんだけど、どこか清潔感が漂って見た目の印象はよかったよ。
彼女は無表情にただこっちの顔を見上げていてね。その目は暗く沈み、何ひとつ感情を映さず、射抜くように見つめ続けているんだ。それはまるで、蛇が獲物を逃さずににじり寄るように、じりじりと追い詰めるようだったなぁ。いつの間にか、背中には冷や汗が流れ始めてたよ。
駅に着いたらしく、電車のドアが開き乗客が乗り下りしていてね。
(どうしよう。)
(降りて、車両を変えようかな。)
(でも、なんかそれも、いやだなあ・・・・・。)
(男だったら、バチバチのガンつけで(古いか)、大騒ぎもんだけど。)
(困ったなあ・・・・・。)
発車のアナウンスがあり電車のドアが閉って、大きく揺れながらゆっくり動き始めたんだ。
「あの・・、何か。」、意を決して、女に小さな声で聞いてみたんだ。
女の目はみるみるうちに大きく見開かれ、異常なまでに大きく見開かれていったんだ。その黒い瞳孔は、白目までを吸い込み、目の全てを染めて、真っ黒な空間が広がってね。そして、閉じられていた口は徐々に大きく顎が外れそうになるまで、開かれていったんだ。
その深い井戸のような口の中の暗闇に、二つの赤い輝きが浮かび上がってじっとこちらを見つめていたんだよ。
その時、空間が粘りつくような奇妙な「ブニュブニュブニュ」とかいう音がして、ふいにその音と共に、うさぎの顔が目の前に大きく現れてきたんだ。
(うわぁ。うさぎかぁ…。)
その両目は炎のように赤く、左耳はぴんと立ち、右耳は途中で垂れていてね。
(こまるなあ…。これでは喧嘩にもなりやしない。)
うさぎは、まるで私を品定めをしているかのように、鼻を不気味にもぞもぞ動かしたんだ。
(今晩は、ラーメンに餃子を追加しよう。そうそう、チャーハンも追加ね。)
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