米子へ
鳥取市内観光は先を急ぐからパスにした。だって鳥取と言っても砂丘と梨ぐらいしかないじゃない。
「鳥取の人に失礼だろ」
じゃあ、他に何があるか言ってみろ。
「ラッキョ」
そんなものが特産だったとは。でもさぁ、千草もだけどコータローもラッキョはあんまり好きじゃないのよね。カレーの付け合わせで福神漬けとラッキョなら福神漬けしか選ばないぐらい。というかさ、ラッキョ料理って他に何があるんだろ。
「知らんわ」
梨にしたってラッキョにしたって神戸で普通に食べられるから、鳥取はもう終わりで良いだろ。
「因幡の白ウサギがあるで」
たしかに。鳥取は因幡だし、因幡と言えば白ウサギだよね。ワニと大国主命が出て来る冒険ファンタジーだったはず。あの話だけど白ウサギはワニに皮を剥かれちゃうのだけど、どうして食べられなかったの?
「言われてみればそうなるよな。ワニならウサギを食うし、それよりわざわざ皮を剥かなくても頭から丸かじりやろ」
そうなんだよ。
「もっともワニなんか日本におらんからサメやとするのもあったはずやけど」
サメでもワニでもウサギを食うのは同じだし、わざわざ皮を剥いたりするものか。だいたいだぞ、ワニやサメがウサギの皮なんて剥けるほど器用なはずがないじゃないか。てな話で盛り上がってるうちに白兎海岸に到着、白兎神社にお参りだ。これでもかってぐらいウサギのオブジェがあって可愛いよ。
「千草は八上姫やな」
誰だそいつ。それより千草は白ウサギじゃないのか。これだけは千草のマシな点なんだけど色白なんだ。
「中学の時は黒かったぞ」
あれは男子バレー部が悪い。女子バレー部は弱かったのだけど、男子バレー部はむちゃくちゃ強かったんだよ。強いなんてものじゃなくて、県大会を勝ち抜いて全国大会まで進んだぐらい。
その代わり殺されるんじゃないかと思うほど練習してたけど、男子バレー部が強すぎて、体育館のバレー部の割り当てがすべて男子バレー部になっちゃってたんだもの。
「そう言えば、いっつも運動場のバレーコートで練習しとったな」
そうなのよ。毎日毎日外で練習していたら黒くなるしかないでしょうが。その代わりに男子バレー部は色白だったでしょうが。
「そやった、そやった。そう言うたら剣道部まで外で練習させられとった」
剣道部だけじゃないよ、体操部だって体育館は殆ど使わせてもらえなかったはずなんだ。バスケ部もそうだった。あんだけの成績を挙げてるから文句も言えなかったけどね。そんな話はともかく八上姫ってなんだ。
「因幡の白兎は求愛神話なんよ」
大国主命が因幡の八上姫に欲情して求愛し、その仲立ちをしたのが因幡の白ウサギだったのか。だから白兎神社も縁結びの神様の理由がやっとわかったぞ。コータローとの縁が絶対に切れないようにお願いして出発。
これで鳥取観光はコンプリートのはず。そう言えば妙な名前の空港があったな。鳥取砂丘コナン空港だったっけ。鳥取砂丘はそれしか売り物が無いから良いとしてどうしてコナンなんだろ。あれかなネーミングライツってやつ。
「そうやのうて作者の出身地にちなんだんやろ」
そっちか。そうだよな。漫画家が空港のネーミングライツなんかするはずないものね。でもさあ、でもさぁ、コナンで良かったのじゃないかな。たとえば鬼滅の刃だったら、鳥取砂丘鬼舞辻󠄀無惨空港になっちゃうじゃない。
「あのな、わざわざ鬼舞辻󠄀無惨にせんでも竈門炭治郎でエエやんか」
それもそうだ。禰󠄀豆子空港なら可愛いかも。とにかく海岸線沿いを西にひた走るツーリングなのだけど、向こうにみえるでっかい山はなんなんだ。
「大山や。伯耆富士ともいうで」
あれが大山なのか。大山と言えばジャージー牛乳だったよね。
「あれは蒜山やろ」
そうだっけ。蒜山って大山の南側に広がる高原らしいけど、それだったら大山の一部みたいなものじゃない。そうだそうだ、蒜山と言えば、
「ジャージー牛のソフトクリームやろ」
それも魅力的だけど、それより蒜山やきそばだろうが。
「明石公園で食べたな」
たまたま明石にツーリングに行ったら、B級グルメフェスみたいなのを明石城でやってて、あれこれ食べ歩きしたんだよ。あれも惜しかった。だって、そもそも明石に行った目的が玉子焼きを食べようだったんだ。それも二軒もハシゴしたものだから、フェスの会場に行った頃にはお腹がいっぱいで、
「そう言いながら、ひるぜん焼そばと富士宮焼きそば食べてたやんか」
何を言うか、横手焼そばと横須賀海軍カレーを食べ損ねてしまったじゃないか。宇都宮餃子は根性で食べたけどさすがに苦しかった。女だから小食なのがあの時ほど悔しいと思ったことはないもの。
「小食ねぇ」
愛する妻が小食だと言ってるだから小食なんだよ。たかが夫の分際で口答えするとは不届き千万。そこに直れ、成敗してくれる。ちょん切って、穴掘って、処女をぶち抜くのは格別の憐憫で許してやるから、釘バットのドタマ百発で許してやるか。
「釘バットの方が死ぬわ。ちなみに大食いの目安は?」
ギャル曽根以上が神代の昔から決まってるだろうが。そんな仲の良い、いかにも同級生夫婦みたいな穏やかな会話をしながらひた走った。大山はさすがの雄大さだけど、鳥取から米子って遠いよな。さっき見えてた半島みたいなものはどこなの。
「あれは弓ヶ浜半島や。あの半島の向こうが中海になるねん」
その弓ヶ浜半島の付け根ぐらいが米子だったはず。そうだそうだ、島根にも有名なB級グルメってないの?
「出雲ぜんざいってなっとったけど・・・」
甘いのは好きだけど、今日はぜんざいの気分じゃないな。そうだそうだ、出雲なら出雲そばがあるじゃない。
「米子にあるかなぁ」
どうしてよ、米子だって島根でしょ。
「米子は鳥取じゃ」
へぇ、そうなんだ。ちなみに弓ヶ浜半島も皆生温泉も鳥取だとは初めて知った。
「そのうち鳥取の人に半殺しにされるぞ」
反省した。鳥取県恐るべしだ。
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