部屋の前で倒れてたお姉さんを助けたら、何故か同棲が始まった。
天空セツナ
第1話 隣人は僕の部屋で眠る
小雨降りしきる梅雨のある日の午後11時。
僕、
普通深夜にコンビニなんかで買い物をするのは、酔っ払いくらいなもので、基本的に商品棚に商品を補充したりするだけの簡単な仕事だ。
しかし、そんな深夜のコンビニに、毎日のように訪れる女性が1人いた。
名前も知らない彼女はいつも、エナジードリンク3本と栄養補助食品、重めのタバコ一箱と度数9%のお酒を一本そして苦し紛れのサラダを買っていく。
「29番」
「わかりました。合計2134円です」
「poipoiで頼むよ」
「こちらにお願いします」
会計完了の軽快な音楽が店内に響き渡る。彼女が店から出て行き、僕は店内の時計を確認した。
時刻は0時。退勤時間になっていた。
タイムカードを切り、私服に着替え、帰宅する。外ではいまだに雨が降っていた。すっかり暗くなった街には車はおろか信号すら点灯していない。
バイト先のコンビニから5分ほど暗闇を歩くと、自身の住む集合住宅「プトリア清水五条」に辿り着く。
かなり豪華な外見であるものの、5年も見続けると流石に見慣れてくる。
家賃は10万ちょっとだが、親にそのほとんどを払ってもらっているため特にこれまで不自由を感じたことはない。
階段を登り自室の鍵を鞄から取り出しつつ部屋に近づく。すると柔らかい暖色の蛍光灯に照らされた共通廊下の向こうで、何者かが倒れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
思わず黒い塊のようにも見えるその人に声をかける。
しかし返事は返ってこなかった。近づいてみると、そこに倒れていたのはコンビニのカウンター越しに幾度と見ていた例の女性だった。
左手にはついさっき自分が渡した商品の袋が掴まれている。
「あ、あなたはよくコンビニに来る……」
アッシュブラウンの前髪が雨に打たれ目元にもかかっているせいではっきりとは見えなかったが、ゆっくりと彼女の目が開くのが見えた。
「……君は……コンビニの?…」
それだけを言って、彼女の目はまた閉じてしまった。
救急車を呼ぶべきだろうか……一瞬迷ったのち、僕は自室のドアを開けた。
彼女を自室のソファに横たわらせ、額にタオルを乗せる。
依然として目は閉じているが、顔色はさっきよりかなりマシになった。
その頃僕はキッチンでお湯を沸かし、インスタントのコーンスープを準備していた。
「いい匂いだ……」
ソファの方から声がした…振り返ると、先ほどまで辛そうな顔をしていた彼女がゆっくりと身体を起こしこちらを見ていた…
「コーンの甘い香り……生き返るねぇ」
彼女は目を細めながらポツリとつぶやいた。
「少し冷ますので待ってて下さい」
「わかった…」
彼女の持っていた栄養補助食品とコーンスープを一つのお盆にのせ、彼女の元へと運ぶ。
彼女はコーンスープを一口すすり、ほっと息をついた。
「すまないね、迷惑かけてしまって」
彼女がコーンスープに視線を向けながらそう呟いた。
「いえ全然……あ、自分は西宮です。西宮玲」
僕が名乗ると、誇らしげな顔で一言。
「もちろん、知っているよ」
正直、彼女がいっている意味が全くわからなかったが、彼女の次に発した一言で僕は全て納得してしまった。
「コンビニでよく見かけるからね」
目の前の人を助けねばという気持ちばかりが先走り、彼女が僕の働いているコンビニの常連客であるということをとうの昔に忘れてしまっていた。
「あぁ、でも君は私のことを知らないのか」
「は、はい……一応」
「じゃあ自己紹介くらいはしておいた方が良さそうだね。私は、
「は、はぁ…た、頼まれます」
「まぁそう固くならないでくれ。一応、隣人だろう?」
僕がここまで固くなっているのにはもちろん訳がある。それは僕の所属している大学が一緒だからである。幸い、学部こそ被っていないが、医学部ともなるとかなりの苦労人に違いない。
当然、声帯から発せられる言葉一つ一つにも細心の注意を払わないといけない……はず……
「それと、倒れていたところを助けてもらったついでに今日一晩泊めてくれないかね?」
んあ?
彼女は何を言っているのだろうか?今日一晩泊めてほしい?なぜそのような発想になるのだろうか……見当もつかない。
家が数駅先で終電を逃してしまったからだというのであればまだ理解をすることはギリ可能であるものの、同じアパートまして隣室に住んでいる人間をなぜわざわざ自分の『
「え……そ、その心は?」
「ほう…そう来たかい……その心は──」
僕は彼女の返答を固唾を飲んで待った。
「──隣まで歩くのが面倒くさいからだ」
まともな回答を期待していた僕がおそらくバカだったのだろう。その死ぬほどくだらない理由に対する僕の返答はただ一つ。
「早急に帰宅願います」
「やだ」
「お帰りください」
「やだ」
……えっと、おそらくこの会話はどちらかが折れるまで続くだろう……一旦冷静に考えよう。このままこのラリーが続くとして結局は最後持久力勝負になる。そうなればバイトと研究で鍛え上げた持久力で僕の方が若干優勢だろう。
この勝負、勝ったな。
◇
と、思っていた時が僕にもありました。
時計の短針は2の付近を指し、僕たちは1つのソファに座りながら息を切らしていた。
「だから!お帰り申し上げます!!」
「嫌でございます!!!」
「帰宅!!!!願い!!!ます!!!」
「い!や!で!す!」
「はぁはぁ……」
これ以上やっても埒が開かないだろう。それに時刻は午前2時。これ以上騒ぐと近隣住民から苦情が出るだろう。
ここは諦めて……
「そこまで言うならわかりました。今晩だけですよ……」
「おぉ!やっとわかってくれたかい西宮くん」
「えっと……お風呂がそっちで寝室がそっちです」
疲労困憊の中必死に風呂場と寝室を紹介して回る僕の姿は側から見ればおそらく相当滑稽なものだろう。
しかしこれも敗北者としての使命。致し方ないことなのだ……多分。
「シャンプーとかは西宮くんの物を使って構わないかい?」
「ええ……もう構いませんよ……」
年上だとか、医学部だとかそんなものはもうどうでも良く僕はただただ寝たかった。
気づけば、浴槽から聞こえるシャワーの音を聞きながらソファに横になり眠っていた。
◇
翌朝。
僕は、目覚ましの音ではなく、暖かい日差しで目を覚ました。
昨日とは打って変わって今日は快晴。梅雨の時期の晴れは貴重なもので心も少し安らぐ。
時刻は6時30分。
睡眠時間は4時間ちょい。
うん!とっても健康的だ!
というのはもちろん冗談なのだが、今日はこれでも寝れた方だ。いつもはレポートや自身の研究に没頭するがあまり、寝ずに学校へ向かうこともある。
日光を浴びながらそんなことを考えていると寝室の扉が開いた。
「西宮くん……朝が早いようで感心するねぇ」
「それはどうも東雲さん」
寝室から出てきたのは、上は僕のTシャツ、下は僕の夏の寝巻き用のショートパンツ。
それとなぜか僕の枕を抱えている東雲さんだった。
「なんで枕抱えてるんですか?」
「ふえ?あぁ、これかい?これはねぇ……なんとなく」
この人は何故いちいちしょうもないことを言う時に限って溜めを作るのだろうか。
とまぁ、今日もまた僕の長い長い1日は始まりを告げたのである。
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