擦り切れた後悔

みらぁ

第1話


曰く、それは他者の感情を喰らう者

曰く、それはアヤカシと名乗る者

曰く、それは人類の天敵と定る者


§


走っていた。

ただひたすらに走っていた。


おぞましいあの怪物から逃げる為に、夕暮れ時、人っ子一人通らぬような山間部にて喘鳴を奏でながら。

やけに蒸し暑い空気を切り裂いて、額に張り付く汗の結晶を拭うことすらままならない。


恐ろしかった。

とても恐ろしかった。


全速力で動いたとて、体力はものの数分で完全に消え失せ、足は既に鎖がついたかと錯覚するほどに鈍重。にぶく濁った脳内はそれでも「逃げろ」と真っ赤な警鐘をかき鳴らしている。

そして、それと同時に俺は強く後悔した。


「っ、ぜェ…ぜェ」


考えるリソースがあるならばその化生から数秒でも多く逃げる事に命を割くのだと己に言い聞かせるが、どうやらそれももう無理な話らしかった。


「あっ、ガァ!」


何も無い、誰もいないあぜ道を走り続け、俺は辿り着く場所も得られぬままに、ついぞ足をほつれさせて、走るという行動を取ることすらままなら無くなった。


体制を崩した不格好、そのまま背後へと恐る恐る視線を向けると、そこには


真っ暗なもや。

人の悪意を寄せ集めたちぐはぐな黒い塊。




理解した

それは敵対者

意であって生に非ず

真っ当なモノとしての存在に非ず




瞬く間に、黒く塗り潰された脳内。

そこに侵食した闇を振り払う。


しかしながら、肉の体という物は随分と脆いのだ。悲しい事に、もう腕も足も、1秒たりとて動ける気がしない。


胸の奥は未だにアラートを発し続けていると言うのに、脳という司令装置を完全にスルーしたかのように体は微動だにしない。

自分という一個人の存在の終了を、否が応でも受け入れさせられた。




ソレは奇妙な呻き声をあげながら、あくまで俺の恐怖心を煽るように、何も出来ない俺を嘲笑うかのようにじりじりと距離を詰める。

そんな一瞬の出来事で、何とか一矢報いてやろうだなんて俺の安易な決心は、あまりにもあっさりと折れてしまったのだ。


嗚呼、何故今日に限って普段とは気分を変えて散歩などと馬鹿なことを。

嗚呼、何故今日に限って電車のダイヤルは変わっていたのか。

嗚呼、嗚呼。


押し寄せる、後悔が押し寄せる。





――――そんな時だった。



「相対封格・印!」



だからこそ

絶望しきってしまった、黒く淀んだ俺の心に、やけにはっきりと響いたその男の声は、まるで闇世を照らす一筋の彗星のように、俺の心を照らし出した。


§


8月1日

今日は凄いことがあった、日記なんて趣味を付ける事に最初は随分●●だったが、今となっては毎日の記録を付けておいて正解だったのだろう。

俺を助けてくれたあの人、「ホウカクシャ」と名乗った。

「今日のアレが何か知りたければ、明日にまたこの場所に来い。君には才能がある。」

だなんて言われてしまったんだ。そりゃ行くしかないだろ。


8月2日

俺ヒーローになれるかもって言われた。

あの人、トクナガ ユウガって名前らしい。

そんでもってあの黒いモヤモヤはアヤカシって言うらしい。

人間の感情を汚染して、異常者にする呪いの塊だって。

鬱病だとか、障害者だって、全部全部、アイツらが悪さして生まれた病気らしい。

それに唯一対抗できるのが「封格者」って呼ばれる人達だと。

最近になって、ネット記事やニュースとかでも障害者とかの話が増えてきてるのは、封格者の担い手がどんどん減ってきて、相対的にアヤカシに汚染される人間が増えてきてるんだって。

それで、俺に「封格者」になる資格があるらしいって、ソレになる決心があるならもっと情報を教えてやるから明日来いって……行くよな、そりゃ。


8月3日

なんか未知の世界が開けたみたいで本当に●●●●●●●●●。

アヤカシってのは妖って言葉じゃないらしいんだ。奈良時代の古事記とか日本書紀とかに記された妖ってのは、本物じゃないんだって。

アヤカシは「綾課」って書いてそう読むらしい。あの黒いモヤモヤは悪感情の塊で、その感情を無理やり人間に課し付けて人間の心を破壊する、だから綾課らしいんだ。

本当に●●●●した。

情報は小出しにするもんだ、って今日はここで止められたけど、明日もこの場所で教えてくれるらしい。


8月4日

封格者ってのは、つまりアレらしい。印を持つ家系の人間、もしくはその器を持つ人が上から続く代の人間に印を複製コピーしてもらうことで封格者になれるんだと。

そんで俺はトクナガさんが持つ印を受け継ぐことが可能な器を持っていたらしい。

だから、5日後、本当に決心したならまたここに来いって言われた。


8月5日

何だかここ四日で一気に人生が一変したような気がする。あの人、トクナガさんは話していて思ったけどまるで正義の、いや、不自然なくらいに正義という言葉が似つかわしい人間だった。俺も、印を受け継ぐことが出来たならあの人みたいになれるのかな。


§


「ん、ぅ……」


寝ぼけた脳内を照らすように窓越しの直射日光が俺の顔面を照らす。

そしてハッとしたように布団の中から右腕を取り出して、日光に当てた。

そこには、半分が空想の世界に置き去りにされたままの脳内を一気にリアルへと引き戻すだけの材料があった。



手の甲に刻まれた十字模様の刻印。

俺とトクナガさんを繋ぐ封格者としての証。



それは、封格者が持つ印を複製してもらう前に、受け継がせる対象に仮として刻む紋様。

これが完全に定着した頃に、封格者の持つ印を手の甲同士で合わせる事によって印の複製が完成するらしい。

そしてその定着の期間がこの5日間という、なんとももどかしいスパンの正体らしかった。


「定着まで5日いるったって、普通にこっちに会いに来てくれてもいいのになぁ。」


例えその理由がなくたってこっちに来て駄弁ることくらいは出来るだろうに、それ程封格者としての業務が忙しいのだろうか。


今も尚寝ぼけた顔を目覚めさせるために、冷房の効いた部屋を毛布ごと脱ぎ捨てて、洗面所のある部屋へと向かう。


扉を開ければ飛び込んでくる、水分を多く含んだ蒸し暑い空気にウンザリしながら、夏などという調整ミスじみた4季の1つを恨み、顔を冷えた水に浸す。


「っはぁーー!!!」


なんとも言えないもどかしさを発散する為に叫んでもみるが、それらは一向に消えないでいた。

俺のたてる物音以外は一切なんの音源も無く、しん、と静まり返っている。

それもそのはずで、田舎特有の、やけに広いうす寂れたこの一軒家には俺以外の人間は誰一人として居ないのだ。


ばあちゃんは2年前の4月に死んで、あれ程に元気だったじいちゃんもその後を追うかのように去年の4月に死んで、確かに暖かみの存在したこの家は所有者を失い完全に冷えきってしまった。

おじいちゃんっ子だった俺はあの時は相当に泣いた物だが、それでも今は多少なり回復しているもので、ここで一人暮らしをしているのだ。


「……夏休み、ほぼ潰れそうだな。」


元から目指していた大学が祖母の家の付近だと言うことで、元よりここを下宿先として目安を付けていたのだが、度重なる不幸により想定していた三人での生活は、今では俺一人の生活になってしまっていた。

親からの仕送りによって特にアルバイトをする予定も無く、大学入学初の夏休みはなんの用事も無い、のほほんとした田舎暮らしを堪能する予定であったが、つい数日前の出来事によりその予定は狂ってしまったらしい。


「そうだ、外でよう、外。」


しかし、当面やる事が無いのは変わらないもので、田舎が故に付近に何か暇の潰せる施設がある訳でもなく、憂さ晴らしも兼ねて外をうろつく事にした。


リンリンと鈴を鳴らすドアを開き……


―――――ため息をつく。




「くっそ暑いじゃねぇか……なんだよこれ。」




体全体を蝕む熱気は勿論のこと、そこらじゅうで響き渡る、まるでこの異常な暑さを恨みながら発狂するが如く喚き散らすセミ。

家を出てせいぜい一分程度ではあるが、既に俺の首には汗が滴っていた。


やはり空調を効かせた部屋で過ごすのが一番だろうと思い、何気なく点在する一軒家と、そこら一帯を埋め尽くす一面のクソ緑を見渡して、気がついた。


―――――女の人がいる。


いや、何もここ数ヶ月田舎にいるせいで女性が恋しくなったとかそんなのでは断じてない。あぁ、決してそんなことは無いのだ。


これ程の田舎とあっては、周囲の人間の数は多くても十人程度で、3か4ヶ月もあれば、付近に住んでいる人の顔と名前くらいは一致するが、あんな人がここら辺に住んでいるとは聞いたことが無かった。

近くの駅までも徒歩50分はある為、間違えて来れるような場所でもない。


「誰かの親族か……?」


そんなことを考えていると、ふと、目が合った気がして―――


「っ!」


血の気が引いた。

一瞬見えた瞳の奥に透き通った虚無と一切合切の無感動が詰まっているように思えたからだ。


こんなカンカン照りの中、日傘もささないで、肌は病のように白く、それと真反対の墨のような長髪、そして生を感じない瞳。

それはまるで――――


「人「人形みたいだ、って?」


「うわぁ!」


50m以上は先にいた筈だが、気がつけばすぐ横にいた。

叫び声をあげ、咄嗟に背後へと走り出す。


しかし


「ハハッ、怖がらせちゃったか。」


「そりゃあな!」


背後へ全速力ダッシュしようと思い、全力で足を切り返す。


後ろには既に女がいた。


「っ、お前……なんだ?」


気丈に振る舞い言葉を返すが、ほのかに後ずさった行動は誤魔化せるはずも無く、それを見た女は目の中の色彩を変えずに表情のみを薄っぺらな笑顔へと作り替える。


「安心してくれていいよ。」


「どこにその要素があるんだよ、明らかに怪しいじゃねぇか。」


「いやほんとに、普通に名前出すの忘れてた。私はトクナガの同業だよ。トクナガが印を継ぐって言うもんだからその相手を一目見ようと思って、そっちが先行しちゃった。それで質問なんだけどさ……





§


8月6日

今日はとても暑かった。暑すぎてちょっとイライラする。

日本人形みたいに綺麗な女の人が俺を訪ねに来た。正直ちょっと●●。トクナガさんと同じ封格者らしいけど、トクナガさんの印を継ぐっていう俺のことを見に来たって事らしい。

それで、俺に「●●は無いか」って聞いてきたんだ。そりゃもう決めたんだからあるわけない。


§


「やほ。」


「あぁ、君か。」


「そうだ、随分と良い子を見つけたじゃないか。」


「……彼に会いに行ったのか。だが、封格者は現代において数多くを欠いているんだ、そんな事は言わないで欲しいな。これは俺の正義に則った物なのだから。」


「そうだねぇ……私もそろそろ次を見つけないと、ただでさえ消えてるってのにカスも残らなくなってしまうよ。あと3人、早く見つけちゃわないと。」


「そうするといい、俺も知己の人間が死ぬのを見るのはあまり気分が良くないからな。」


「あの子は放置なのに?」


「それは君も言ったことだろう。」


「そうだね、本当に、都合の良い子を見つけたものだよ。」


§


8月7日

今日は●●●にしていたゲームの発売日だ、あれ程●●●にしていたはずなのに……俺が小学生だった当時の●●が無く、何故か●●だと思ってしまうのは、年齢が故の物なのか。


8月8日

なんだか●な夢を見た。内容は覚えてないけど●な夢だったのは覚えている。

明日は心待ちにした日だ、体調も考えて早く寝よう。


§


8月の、9日になった。


「やぁ、来てくれたんだね。それじゃあ印を継承しようか。」


行動は手短に、互いに顔を合わせ挨拶をして、すぐさま印のコピーに移った。


が覚えているのはここまでだった。


§


ページをめくる手が止まらない。

でも、その日記は8月8日で止まっている。


ページをめくる手が止まらない。

でも、その内容をしっかりと認識できない。


ページをめくる手が止まらない。

でも、自分が誰だか分からない。


ページをめくる手が止まらない。

おれじゃない


ページをめくる手が止まらない。

おもいだせない


みえない


ページをめくる手が













自分が胃の中身を、吐き戻したのを知覚した



§



悪い事をしたとは思う。

しかし俺とて自分の感情やそれらを失いたくなかった。


「これで、5人目だ。俺はもう役職を降りていいんだな?」


「ああ、いいとも。良くもあんなに粒ぞろいな子達を回収してきたね。」


嗄れた老婆はくしゃくしゃな笑みを浮かべて、こちらをじっと見つめる。


「でも、最後の五人目、あれは良くないね。後悔や恐怖が一番最初に食われちまってる。徳永、あんたもしかして……」


「さぁな、なんにせよ俺はもう降りるんだ。手元にある感情はお家に対しての正義感が7割、その他が3割ってとこで。」


そう言って、扉を開けて部屋を出る。

日本のそこらにいる封格者達の居場所、本拠地であるこの地下施設。

それを取り仕切る老婆の居る薄暗い廊下を、いつもより気分良く歩こうとした矢先、あの婆さんとは別の女の声が俺の耳に響く。


「お疲れ様だね。」


「……いたのか、アマネ。」


どうやら扉のすぐ横に、同期の彼女は居たらしい。

いつ見ても、病的な程に色の薄い肌と、霞んだ空気感を醸しているが、一切もって正体を掴めない不気味な女。

しかし、この女と毎日のように関わるのも、もう今日が最後になるだろう。


「そうだね。ずっと居たよ。

あ、そうだ。君が最後に封格者にした子、あの子やばいね。もう今日には死ぬんじゃないかな?」


「……」


俺はあの子供に封格者という存在の事実を教えていない。確かに日本の秩序を保つヒーローとしての役割は勿論存在するが。


「まぁあの子、それなりに適性があったからさ、私としても暫くは働かずに済むから嬉しい事だよ。後継者探しに専念できる。」


「それは良かったな。」


「あとそうだ、これあげるよ。」


そう言ってアマネは俺に、1冊のノートを軽く投げた。


表紙には……俺が五人目に後継者にした少年の名前が書いてあった。


「これは?」


「さぁね。見たらわかるんじゃない?」


そう言って天音は、こちらを振り返ることもなく、暗い廊下の先へと姿を消した。


「……。」


ゆっくりと、投げ渡されたノートを開き見る。




8月1日

今日は凄いことがあった、日記なんて趣味を付ける事に最初は随分億劫だったが、今となっては毎日の記録を付けておいて正解だったのだろう。

俺を助けてくれたあの人、「ホウカクシャ」と名乗った。

「今日のアレが何か知りたければ、明日にまたこの場所に来い。君には才能がある。」

だなんて言われてしまったんだ。そりゃ行くしかないだろ。


8月2日

俺ヒーローになれるかもって言われた。

あの人、トクナガ ユウガって名前らしい。

そんでもってあの黒いモヤモヤはアヤカシって言うらしい。

人間の感情を汚染して、異常者にする呪いの塊だって。

鬱病だとか、障害者だって、全部全部、アイツらが悪さして生まれた病気らしい。

それに唯一対抗できるのが「封格者」って呼ばれる人達だと。

最近になって、ネット記事やニュースとかでも障害者とかの話が増えてきてるのは、封格者の担い手がどんどん減ってきて、相対的にアヤカシに汚染される人間が増えてきてるんだって。

それで、俺に「封格者」になる資格があるらしいって、ソレになる決心があるならもっと情報を教えてやるから明日来いって……行くよな、そりゃ。


8月3日

なんか未知の世界が開けたみたいで本当に●●●●●●●●●。

アヤカシってのは妖って言葉じゃないらしいんだ。奈良時代の古事記とか日本書紀とかに記された妖ってのは、本物じゃないんだって。

アヤカシは「綾課」って書いてそう読むらしい。あの黒いモヤモヤは悪感情の塊で、その感情を無理やり人間に課し付けて人間の心を破壊する、だから綾課らしいんだ。

本当に●●●●した。

情報は小出しにするもんだ、って今日はここで止められたけど、明日もこの場所で教えてくれるらしい。


8月4日

封格者ってのは、つまりアレらしい。印を持つ家系の人間、もしくはその器を持つ人が上から続く代の人間に印を複製コピーしてもらうことで封格者になれるんだと。

そんで俺はトクナガさんが持つ印を受け継ぐことが可能な器を持っていたらしい。

だから、5日後、本当に決心したならまたここに来いって言われた。


8月5日

何だかここ四日で一気に人生が一変したような気がする。あの人、トクナガさんは話していて思ったけどまるで正義の、いや、不自然なくらいに正義という言葉が似つかわしい人間だった。俺も、印を受け継ぐことが出来たならあの人みたいになれるのかな。


8月6日

今日はとても暑かった。暑すぎてちょっと●●●●する。

日本人形みたいに綺麗な女の人が俺を訪ねに来た。正直ちょっと怖い。トクナガさんと同じ封格者らしいけど、トクナガさんの印を継ぐっていう俺のことを見に来たって事らしい。

それで、俺に「後悔は無いか」って聞いてきたんだ。そりゃもう決めたんだからあるわけない。




「……後悔は、本当に無かったんだな。」


俺には、もう既に沢山の、感情を含んだ言葉を認識できなくなっている。

そう、封格者には大切な事実があった。


【相対封格】


これは、綾課を殺す技でありながら、自身の感情を対価に、綾課という感情の塊を無理矢理に押さえつける力技。

綾課を殺せば殺す程に、己の感情は失われていく。

だからこそ、俺に残った感情が後悔と恐怖でよかったと、心の底から思う。


綾課に襲われた一般人は真っ先に、恐怖や後悔と言った感情がむき出しになり、それを綾課に食われるからだ。


そしてあの少年は、違和感に苛まれつつも、後悔を思い出せないままに、感情をすり減らして行ったのだろう。



後悔や恐怖を真っ先に奪われた者は、なんの忌避も無く相対封格を使い、そして朽ちる。



「そうだ、後悔なんて、




8月7日

今日は●●●にしていたゲームの発売日だ、あれ程●●●にしていたはずなのに……俺が小学生だった当時の●●が無く、何故か●●だと思ってしまうのは、年齢が故の物なのか。


8月8日

なんだか●な夢を見た。内容は覚えてないけど●な夢だったのは覚えている。

明日は心待ちにした日だ、体調も考えて早く寝よう。



8月9日以降の日記は無かった。

既に今日は8月の25日だが、もう書き記す力も無いのだろうか……

俺は、パラパラとページを捲った。


「っ、」


8月 25日


そう書いてあった。

今日にでも書いたのだろうか、そう思いつつ、興味本位でページを開く。



8月25日

かえして

かえして

かえして

かえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえしてかえし


ページを閉じた。


「嫌なものを見たな。」


後悔なんて、微塵も残っていないはずだと言うのに、あの少年は、この恨み言を書き記す事が出来た、それは何とも驚くべき事だが、アマネが言っていたように時期にあの少年は感情の全てを失って廃人となるだろう。


「だが、これで、晴れて自由の身だ。」


一切の胸糞悪さなど無く、いっそ清々しい程の感情が心を包む。

こんな家系に生まれてはや28年、自分の運のなさを何度呪ったか、それでも、俺はようやく封格者という厄介なしきたりから抜け出す事が出来たのだ。




「かえせ」



そして、気が付けば、俺の胸には赤黒く輝く、金属が生えていた。


§


「全く、ただでさえ人数が足りてないんだ、封格者同士の殺し合いなんて勘弁して欲しいよね。」


つい私と徳永が別れて30分後、あの時あった少年が徳永を刺し殺したらしい。

徳永も随分と油断したものだ。

後悔や恐怖を失っていても、寧ろ怖いのは怒りという感情が残っている可能性を……


「いや、彼の怒りという感情は真っ先に消えていたか、因果だねぇ。」


あの子に封格者の情報をポロポロと喋ってみたら、表情を真っ赤に変えてすぐに徳永のところに向かっていったんだから、面白くて仕方がない。

怒りに呑まれながらも私の説明を聞いて、彼も5人の後継者を必死に探そうだなんて考えてたけど、どうせ残りの感情の濃さ的に足りないから死ぬのは決定事項だろうしね。


「それにしても、私徳永のこと嫌いだったし、いい機会だったかも。」


封格者は能力を使う度、必然的に感情のいくつかを失う。

徳永は私が抱いていた嫌悪感や、少年の秘めていた怒りに気が付くことができなかった。

私とて、他人の●●に気が付くことが出来ないのはそうだろう。


「さぁ、そろそろ本格的に私も後継者見つけないとね、ちゃんと説明もした上で納得してくれる後継者。」





「ところで、今そこで私を見てるキミ、日本を救う仕事に興味はあったりするかな?」

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