7
ジジの教えた店は、アルクスの大通りから、横道に入った角に立っていた。
「ここで合ってるのかな?」
「ジジさんのメモでは、ここで間違いありません。ですが、これは……と、とても、落ち着いた雰囲気ですね」
ナタリアは、土のかたまりを飲み込んだような顔をした。
だが、
「
そのとなりで、クロエがむすっとした顔を浮かべた。
「ああ、言わないようにしましたのに……」
ナタリアは、顔をおおって、前の店から目をそらした。
「おじゃましまーす」
リナリィがどっしりした木の扉を開けると、カロンカロンとベルの音がした。
「うわ、なんか思ってたより音低くない?」
「思った。ってか、中も暗いな」
リナリィに続いて、二人も店の中を見渡した。
店内は、外観に違わずひっそりとしていた。
「だれもいらっしゃらないようですが、お留守なのでしょうか……?」
「すいませーん!!だれかいませんかー!?」
リナリィは声を張り上げたが、返ってくる声はなかった。
「ふうん。薬草は良いものを集めてんじゃん」
クロエは、壁にずらりと並んだビンをながめ始めた。
「しかも自家栽培じゃないこれ?レベルたか……」
クロエがビンに書かれたラベルを読んでいると、奥から20歳くらいの女の人がでてきた。
「す、すみません、たいへんお待たせしましたー……いらっしゃいませ」
女の人は、エミル・コナーと名乗った。
「ん、コナー?」
「はあ……
「あんた、まさかジョルジュ・コナーの知り合い?」
クロエが言うと、エミルは体を小さくして、不安そうな目で3人を見た。
「ジョルジュは私の妹ですが……妹が、なにかご迷惑でも……?」
「あたし達、ジジからこのお店のこと聞いてきたんです!あたし達、どうしても自由に使える部屋がほしいんです。そしたらジジが、お姉さんが困ってるから、助けてあげたら部屋貸してくれるかもって!」
エミルは、3人の顔を順番に見ると、ああ、うなずきました。
「みなさんが、あの子のお友達でしたか……」
「ちがいます」
クロエが、すぐさま反応した。
「みなさんの話は、妹から聞きました……私も、マギ専の生徒のみなさんにお願いしたいことがあったので、お力を貸していただけたら嬉しいです……」
クロエは、ケッと毒づいた。
「ねえ、帰ろうよ。あいつの
「クロエ、もう少しエミルさんのお話を伺いましょう。それに、
ナタリアは、クロエの顔をじっとのぞきこんだ。
クロエはしかめっ面をしていたが、ゆっくりとうなずいた。
「で、では……お茶をお出ししてからお話しますので、どうぞお好きな席におかけください……」
エミルは、店の奥に引っ込むと、お盆にティーポットとカップを3つずつ乗せて現れた。それから壁の棚からビンをいくつか取り出して、少しずつティーポットに茶葉を入れる。
その間、3人はめいめいに店の中を見ていた。
「薬草を使ったお茶と、焼き菓子を出していらっしゃるのですか?」
「は、はい……お菓子にも薬効のある香草を使っていて、奥でひとつずつ焼いているんです」
エミルは今度は、湯気の立つやかんをもって現れる。ティーポットにお湯を注ぐ音がして、店の中に花と茶葉の香りが一気に広がった。
「うわ、めっちゃいい匂い!おいしそー」
「ふふ、ありがとうございます……茶葉の組み合わせは毎日変えていて、お客様が気に入ってくれそうなお茶を作っているんですよ……」
クロエは、カウンターに肘をついて、目の前に置かれティーポットを見た。
「……さっきから店の奥に行ったり来たりしてるけど、調理とか、お湯を沸かすとか、その辺は奥にしかないの?」
「あ、はい……ここは古いお店を買ったんですが、そのときに付いてた道具をそのまま使ってるんです……」
エミルは、ティーポットにふたをすると、杖を取り出した。
「それじゃあ、仕上げをしていきますね……」
エミルがティーポットの胴体を杖で軽く叩くと、ティーポットがぱっと輝いた。
「どうぞ、お待たせしました」
3人の前に、ティーポットとカップ、温められた焼き菓子が乗った皿が置かれた。
リナリィは、カップに茶を注ぎながら、鼻をひくつかせた。
「わ……!」
「すばらしい香りですわね……とても力強い、というよりも香りの
「……ん、うまい」
3人は、しばらくの間、無言になってカップの中身を飲み干すと、ティーポットから2杯めを注いだ。
「あ、ありがとうございます……茶葉は私が育てたもので、市場で売っているものより香りが強いと思います……」
「先ほど、杖でティーポットを叩いていらっしゃいましたが、あれは?」
ナタリアが言うと、エミルは笑顔を浮かべて言った。
「わ、私の
ナタリアは、息を呑んだ。
「
「ま、まあ……マギ専にいたとき、得意なのは魔法薬学くらいでしたから……好きなことを伸ばそうとしたら、自然に……」
エミルのことばを、ナタリアはじっと聞いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます