第3話 護る、カタチ

 魔導端末が起動する。

 ブース内に魔力の振動が走り、空間が薄く揺れた。



「本日も、ダンジョン広報課からお送りします。案内担当は、ミレイユ・フォーンです」


 声は落ち着いていた。

 噛まないように、丁寧に。抑揚をつけすぎず、でも“人間らしい”言葉で。


 

「本日は《グレイラの螺旋迷宮》第五層の攻略情報をお届けします。今日、潜入予定の注目パーティ……《ドラゴンベーン》の動向も合わせてご紹介します」


 リードの名前は、読み上げない。

 ただ、情報として客観的に伝える。


(……クレア、ちゃんと動けてる。無茶な突撃もしてない……)


 放送画面の中、リードは仲間と連携しながら戦っていた。

 クレアのヒールは見事だった。最短で、無駄がない。

 仲間が攻撃を受けた瞬間には、もう魔力が収束を始めている。


「……あれが、今の“正しい支援者”なんだよね」


 つい小声が漏れた。


 でもその時、パスカルの耳がピクリと動いた。


「……ミレイユ。ログが……」


「えっ?」

 ログが……なに?


「敵の出現データが、おかしいニャ。“想定されない個体”が、追加されてる」

 ロジーナからも、すぐに通信が入った。


『放送データに“編集痕跡”あり。誰かが、事前のデータを差し替えた形跡があるわ』


「って、ことは……今、放送してる情報……間違ってる!?」


『あり得る。リードたちは“安全エリア”に向かってるつもり。でも、そこは――』



 ――危険地帯だ。



 ミレイユの喉が、詰まった。


 画面には、まさにそのルートに足を踏み入れようとする彼らの姿。

 パーティーの仲間たちは誰も警戒していない。

 クレア自体も、マナ残量を調整しながら、軽く笑いながら歩いている。



 ……このままじゃ、誰かが傷つく。



 あの時と、同じだ。

 自分だけが気づいていて、でも何も言えなくて――。


 

 ――違う。



 もう、あの頃とは違う。

 私は、広報係。伝える責任がある。



 ミレイユは、一気にマイクを掴んだ。



「放送の緊急割り込み失礼します! ドラゴンベーン隊の皆さんへ――進行方向を変更してください!」


 ……声が震えていた。


「現在のルートは、敵情報が編集された形跡があり、データ信頼性が低下しています! 安全エリアではありません! 繰り返します――進行方向を変更してください!」


 

 沈黙。


 一瞬、画面の中でリードが動きを止めた。

 仲間と目を交わし、周囲を確認する。

 クレアが不思議そうな顔で首をかしげ、リードに耳打ちをする。


 その数秒後。

 パーティーは進行方向を変えた。


 変更された先にあった、元の正規ルート。

 “モヤカゲ”が潜む幻影地帯を、ギリギリで回避する形になった。


 

「はぁ……っ」


 放送が、しんと静まり返る。


 ミレイユの手は、強く握りしめられていた。

 額ににじむ汗。全身の力が、今になって抜けた。


「……間に合ったニャ」


「うん……」


 マイクを持ったまま、ぺたん、と床に座り込む。

 汗が吹き出して、止まらない。


「でも、これで“誰か”が本当に仕掛けてるって、証明されたニャ。外部から、何かが広報情報をいじってる」


「ロジーナとフランに、解析頼まないと……」


 そう言いながらも、ミレイユの視線は、画面に残っていたリードの姿に吸い寄せられた。


 過去には戻れない。

 でも今なら、違う形で“守れる”。


 誰かの後ろに立って回復できなくても、

 言葉で、その背中を支えることは――できるかもしれない。


 

 そう思えた瞬間、ミレイユの中で何かが少しだけ、前に進んだ。

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