最後の願い

影井零side

誠也が生きてきた世界に俺はどう反応すればいいのだろう。

隣で涙を流しながら鼻を啜っている花音と違って、そこまでオーバーなリアクションは出来ない。

「お前はこの事実を公にするために俺達をここに呼んだんだろ」

誠也のやり方は何となくわかる。

短い間だったが濃い時間を過ごしたと思ってるから。

「相変わらずだな。そういうところは理解が速くて助かるよ」

誠也が起こした事件を肯定は出来ない。

ただ気持ちは分かる。

「お偉いさんは何でもしていいみたいなのおかしいじゃん。多くの人のために少ない人が犠牲になるのは違うじゃん」

必死に俺に話しかける花音。

その目は誰よりも赤かった。

「それが現実だ」

その現実を変えたいと立ち上がったこの二人に称賛を送るべきだ。

「けど何で零のとこに行かなかったの?手伝ってくれると思わなかったの?」

花音は少し怒りながら誠也に聞いた。

「最初は考えた。けど躊躇ったんだ。まぁどうせ俺が誘っても乗ってくれなかっただろうな」

「当たり前だ」

俺はただ目の前にある任務を行うだけ。

そこに感情も私情も挟まない。

「けど今となっては誘わなくて良かったと思ってる」

誠也は立ち上がって花音の前に立った。

「良い相棒に恵まれたな」

その笑顔は少しだけぎこちなく感じたが、本音だと分かった。

「お前もな」

誠也の隣にいるテンに目を向けた。

方向性が違ったとしても俺達は出会った人に影響されながら生きている。

お互いに、相棒に出会わなかったらここで再会することもなかっただろう。

外から救助隊の声が聞こえてきた。

「もうおしまいだな」

誠也の声はどこか諦めているように感じた。

「二人はこの後どうするの?」

花音はそう言って二人を交互に見つめた。

「ここで俺達は終わりだ」

花音はそれがどういう意味なのか理解して止めた。

「ダメだよ。そんなの」

震える声に考えを変える奴ではないと分かっている俺は覚悟をした。

「零も何とか言ってよ。そんなのあまりにも…酷だよ」

人に共感しすぎるくらいの花音だから、そう言うのは分かっていた。

ただ誠也の事も分かる俺はどちらの意見も汲み取ることは出来ない。

「お前がこのことを公にすれば?」

「悪いがそれは出来ない。俺はヒーローじゃないから」

一度決めたことを変える人間ではないと俺がよく知っている。

「だからお前に託したんだ」

俺達がこの事件を公にすればヒーローになる。

そこまで考えて行動した誠也に舌を巻く。

「俺は今まで散々人を殺してきた。何の躊躇もなく。そんな世界、さっさと壊してくれ」

俺の手のひらに落としたのは何かのデータだ。

「そこに全てが載ってる。俺達を救ってくれよ」

俺達は託された。

未来のために。

社会の秩序のためではなくこれからを生きる未来のために。

それを俺は強く握りしめた。

「花音、行くぞ」

その覚悟を汲み取ってくれたのか花音はさらに涙を流した。

「勝負に勝った方が何でも言うことを聞いてもらえる。覚えてるか?」

背中越しに聞こえるその声はまるであの日の誠也のようだった。

「じゃんけん一発勝負な」

制服姿で一緒に授業を受けていたあの日が懐かしく思える。

「俺の…勝ちだな」

俺がグーを出したのに対して誠也はパーを出した。

「何がお望みだ」

その瞬間、救助隊が壁を貫通させた。

「テンを頼んだ」

そう言って横にいたテンを勢いよく突き飛ばした誠也。

そしてその次の瞬間、施設は爆発した。

「誠也!」

計画にはなかったようでテンは混乱していた。

だがその手を離さなかった。

「離せよ」

「無理だ。じゃんけん負けたから」

「ふざけんな!」

「二人で死ぬつもりだったのか?」

普段のテンは怖いくらいに笑っているが今は、俺に腹を立てている。

「もしそれが計画にあったとしても、それは最初から落ちが読めてた」

「はぁ?どういう意味?」

始めて見る表情に、テンはよっぽど誠也のことを大切に思っていたことが伝わる。

「誠也が大切な人を殺すはずがない。こんな状況でも川に落ちた子供を助ける馬鹿だからな」

その後俺達は手当てを受けた。

その間、テンが何かを口にすることは無かった。

「この子、どうするんですか?」

天音は驚いている様子だった。

花音がこの事件の全てを語ると頭を抱えていた。

「普通に生きていけるよう最大限のフォローを要求する。あいつにはこの社会の未来とそいつの未来どっちも託されちまった」

頭を抱えてはいるが多分、最大限の事をしてくれるだろう。

なんだかんだ言って、俺も人に頼ることを覚えてしまった。

「僕は一人で生きていく。関係ないんだよ」

この話を聞いていたテンがそう言った。

「僕にとって彼はヒーローだった。それを失ったら…終わりだ」

この世の終わりだという顔をしていた。

「終わりじゃないよ」

手当てを受けている花音がそう言った。

「誠也さんは大切なあなただから死んでほしくなかった。生きて欲しかった。それに多分、社会を正すとかそんなことよりもあなたを救いたかったんだと思う。あなたが少しでも生きやすい普通の社会になることを願った行動だと思うよ」

テンの目に涙が溜まっていくのが分かった。

「クソが…」

手当てを受け終わった俺と花音は部屋を出た。

「零、大丈夫?」

俺のことを心配して足を止める花音。

「あぁ。何だか案外大丈夫」

これは本音だった。

大切な人が二度死んだのは辛い現実ではあるがそれ以上にあいつの期待に答えなくてはいけないと言う使命感に駆られている。

「零、誠也さんと話してる時楽しそうだったね」

こいつの隣にいると俺の感情は筒抜けなのかもしれない。

それでもよかった。

こいつにはどんな感情をさらけ出したとしても受け入れてもらえる。

俺の感情と共鳴して喜怒哀楽を表現してくれる。

同じように痛みも悲しみも、喜びも感じてくれる。

それが俺にとってどれだけ幸せなことかこいつは気づいているのだろうか。

「まず何する?報告書?」

俺達は未来を託された。

その責務を全うする必要がある。

「報告書は任せた。俺は別のことをする」

遅いタイピングを横目で見ながら、俺はどうやったら上に消されないようにこのことを世界に知らせるかを考えていた。

ただただ報告書にこの事件を書いたとしても、上手いことやられて終わりになってしまう。

来る前に世間に噂は流して来たが、噂はすぐ他のものに移り変わってしまう。

いくら天音が頑張ったところで一人ではどうにもできない。

「ハッキングか」

俺の言葉に驚いた花音が手を止めて俺を見つめた。

「それいいの?犯罪じゃない?」

「今に始まったことじゃないだろ。暴行罪、不法侵入色々やってきただろ」

『確かに』といいながらまたゆっくりと文字を打ち始めた。

横に花音がいてくれることは特別なことで当たり前ではない。

それをよく理解しながら生きていかなくてはいけない。

「できた!終わったよ。ハッキングして何やるの?」

少し前まで犯罪とか言っていたが、そんなことは忘れて興味津々だった。

「あいつご丁寧にデータを全部俺に渡してくれたんだ。薬の成分表とか実験対象についてとか。その最後に一本動画が入ってた。これ」

動画の再生を押すと、誠也が前もって撮っていた動画が流れた。

『君達の平和の下で俺達のような子供が泣いてる。考えたことがあるか?名前も無い人間がいるんだ。この日本で。毎日体をいじられて痛い思いをしながら寝る。そんな生活が当たり前だと思ってる子供が少なからずここにはいる。けど社会の秩序のためにこれは隠蔽されてる。他の事もそうだ。お偉い様方が優位なこの社会では全て権力で捻りつぶされる。どうかこの現実を受け止めて、社会を変えてくれ。もっと生きやすい社会にしてくれ。俺達のような犠牲者が減ることを願ってる』

あいつの最後の叫びだった。

誰よりもヒーローになろうと頑張ったやつの最後を、俺はハッキングをして全世界に同時配信した。

デジタル化が進む今だからこそ、できること。

「今、全部のデバイスではこの動画が映っている。消されたとしても一度上がった動画は一生どこかに残る、だろ?」

爆笑しながら机をたたく花音に俺は愛おしいという感情を持った。

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