12
オレとゆりちゃんはオフィスでコンドルのパソコンを調べてた。
古株やから、当然ながらデータ量も多かったから。一人じゃ流石に時間が掛かりすぎるから、ゆりちゃんに手伝ってもらえて助かった。
まあ大したデータはなかったで。
ほとんどコンドルのお気に入りのアニメキャラの画像とかなんやもん。昔の仕事内容のデータとかもある。懐かしすぎる仕事のやつとか、ちょっと時間を忘れてもた。
あとちょっと面白かったんは、オレのつけられてた足枷のプログラム。仕様書まで出てきて、そこにいろいろ書かれてた。知らんかったけど、あの足枷を壊して外すと首相官邸にまで連絡が行くようになってた。
最近直したところはルノが悪さして、追記されてただけ。要するに出てくんなって内容なんやけど、変数の名前がルノになっててちょっと笑った。コメントにもルノって書いてんのが面白かった。
それにしても、ルノが可哀想やったな。
今もルノは怒ってて、ジムでサンドバッグ殴ってるんやもん。よっぽど腹が立ったらしい。ヴィヴィアンが可哀想やからって一緒にいてるけど、ずっと愚痴を聞かされてるらしい。さっきから五分おきにルノの様子が送られてくる。
さっきの殴り合いのせいで、ジジの今日の仕事は部屋の片付けになった。
ホンマは別の任務があってんけど、そんな事より片付けさせなさいって食堂のおばちゃんが言うたらしい。本来見張りやった筈の、元工作員ジェーンって女の人が代わりに行ったって聞いた。あんまり仲良くないハッカーのおっちゃんが、昔組んだ事あるからって、今バックアップの仕事をしてる。
オレには経験がないからやっぱり分からんけど、ゴミの片付けは嫌やんなぁ。
確かにオレの部屋って、結構最近まで食堂のおばちゃんが手伝ってくれてた。シーツとかって、知らんうちに新しいのに変わってて、洗濯物も一ヵ所にまとめておけばやってくれててん。だから自分でやるのって、面倒やって思ったし、大変なんも分かる。
でもオレはゴミをゴミ箱に入れるくらいは出来るし、ゴキブリのおもちゃをまき散らしたりした以外は割と片付けてたと思う。ブリ男さんのせいで、今もおばちゃんがオレの事、嫌いなん知ってるもん。それ以外で怒られた事ってなかったと思う。
まさか、ルノがあそこまで怒って、ジジを殴るとは思わんかった。あれはおばちゃんがおらんかったら止められへんかったと思う。ジジが殴り殺されんちゃうかって、ちょっと怖かってんもん。
でもおばちゃんもゆりちゃんも、ルノにめちゃくちゃ同情してた。きっとジジは相当酷い事をしたんやと思う。じゃなきゃジェームスがおばちゃんの話を聞いて、じゃあ部屋の片付けしてこいなんて言わんやろ。
ヴィヴィアンによると、ルノはまだキレてるらしい。殴り疲れてちょっと休憩してるみたいやけど、半泣きで愚痴ってるって書いてた。
ジジは部屋の片付け、ちゃんとやったかな。
あとでヴィヴィアンが確認に行くらしい。まだ落ちてたらどうしよって言うてたから、ちゃんとやっといてくれるとええんやけど。
ふと気になって、デスクの机の中を確認した。
上から順番に開けていくと、いろんなペンとか出てきた。あとケーブル。全然まとめてあれへんから、ちょっと大変やった。なんでこんなところに孫の手入れてんかな? まあええけど。
その時、ヘッドセットがハウリングして、嫌な音を鳴らした。
なんかあったら連絡してって、ヴィヴィアンに言うてあったからつけてるんよ。でも明らかにヴィヴィアン側の反応やなくて、ハウリングやって分かる音やった。キーンって、機械の嫌な音なんやもん。
よく見ると、二段目の引き出しの内側に機械がついてんのに気が付いた。コードは目立たんように足元のコンセントに繋がってて、先っぽはどっからどう見てもマイクやった。隠すように書類が乗せてある。
「なあダンテ、ルノは?」
横で作業中やったゆりちゃんに聞かれて、オレはとっさに元気そうって答える。急いで人差し指を口唇に当てて、マイクを指差した。察しのいいゆりちゃんはすぐに気付いてくれたみたいで、真面目な顔をする。
オレはポケットからiPhoneを出すと、こっそりそれの写真を撮った。ホンマはオフィスで写真とか、撮ったらあかんねんで。でも緊急事態やんか。
「今日の夕飯なんやろ?」
声だけやったら楽しそうに聞こえてくるけど、ゆりちゃんは真剣な顔をして立ち上がった。
「食堂に聞きに行こうや」
「うん」
ゆりちゃんは声優にでもなった方がええんちゃうかな。ヤバいって分かってるから、真面目な顔してる訳やん。でも声はいつもとおんなじやねん。
二人でオフィスを出ると、支部長室に向かう。黙って廊下を歩きながら、辺りを確認した。今日は日曜日やのに、任務もほとんどなかったから人が少ない。ありがたいけど、どこで聞かれるか分からんから、気をつけてるつもりやった。
ドアを開けて中に入ると、ジェームスが退屈そうにテレビでニュースを見てるところやった。ゆりちゃんがホッとした顔をして、椅子に座った。
オレは急いでドアを閉めると、中から鍵を掛けた。
「コンドルの机にマイクが仕込まれてる」
「本当か?」
「多分、今も音声をどっかに送ってる」
オレはそう言うと、さっき撮った写真をジェームスに見せた。
「すぐ聞き出して来るから、ダンテは戻って仕事の続きをしてこい。トイレとか言って出てきたんだろ? 怪しまれる」
ゆりちゃんがこっちを見る。
「なんか発見したらどうしたらええん?」
「パソコンがあるだろ? どうにかしろ」
「支部長さん、パソコンを万能やと思ってへん?」
オレは溜息をついてゆりちゃんを見た。
「携帯電話の画面に文字を打ち込んでくれたらええやんか」
「どこに送信するん?」
「横にいてるんやから、そのまま見せてくれたらええやん」
「流石やな」
なんかちょっと映画みたいでワクワクするけど、深呼吸して普通のテンションを維持する。声でバレたらあかんやん。しっかりせんなあかんと思ってん。オレ、先輩な訳やし。
「支部長、夕飯は美味しいお鍋がいいです」
ゆりちゃんは急にそんな事を言うて、ニコッと笑った。
「なんで?」
「うちとダンテ、夕飯のメニューを聞きに出てきた事になってる」
「分かった。そういう事ならおばちゃんにリクエストしておこう」
ジェームスはにこっと笑うと、具体的に何鍋がいいとか訊いてきた。あっさりがいいよなって笑うから、ちょっと面白かった。
「オレ、鶏塩がええな」
「ゆりちゃんは?」
「じゃあすき焼き」
夕飯が今から楽しみ。
つみれいっぱいやったらええなぁ。昔ジェームスとヴィヴィアンと三人でやったお鍋、楽しかったもん。よく一緒にやったけど、最近やってない。
今晩はルノとゆりちゃんが一緒やで? 不謹慎やけど、めちゃ嬉しい。大きい鍋を囲むの、オレ大好きなんやもん。でもそんな急にメニューのリクエストとかして大丈夫なんかな。あと三時間くらいで夕飯の時刻やないん?
「また後で今日の報告を聞かせてくれよ。絶対に報告書は作るな」
「分かった」
オレは返事をすると、ゆりちゃんと一緒に支部長室を出た。ジェームスは内線の受話器を握って手を振ってた。で、真面目におばちゃんに夕飯のリクエストするから笑いそうになった。笑ったらあかんから、なんとか耐えて部屋を出る。
「すき焼き好きなん?」
「家じゃ滅多に出て来んから」
ゆりちゃんは嬉しそうに笑った。
二人でオフィスに戻ると、誰もいてないコンドルのデスクに座った。無駄に豪華な赤いゲーミングチェアは確か私物やった筈。確かに座り心地がええから、オレもちょっとほしくなった。
「ダンテは鶏のが好きなん?」
「つくね好きやねん」
「マロニーちゃんは絶対ほしいよな」
二人で仕事を再開して、オレはパソコンを探る事に集中した。机に置いてあったコンドルのペッツを見つけて、ありがたく食べる事にする。食べながらモニタを見つめた。
ゆりちゃんは隣りに仕事用のノートパソコンを置いて、ハードディスクの中身を確認してる。自分の椅子に座ってるけど、おんなじデスクを二人で使ってる。誰もいてへんけど、こういうのって初めてやから嬉しい。
ジェーンって人と仕事をしてたおっちゃんは、大きく伸びをしてこっちに歩いてきた。
「夕飯なんやった?」
ちょっと太ってて眼鏡を掛けた、優しいおっちゃんや。凄い古株って聞いた事がある。いっつも支部のご飯を楽しみにしてるって聞いた事がある。
そういえば、この人たまにうまい棒を配ってたな。なんかいっつもお菓子くれるんよ。この前もルノに飴ちゃんあげてたっけ。
「お鍋やで。鶏塩とすき焼き」
楽しみやなって笑ったら、おっちゃんはやっぱり嬉しそうな顔をした。そんで差し入れって言うて、オレとゆりちゃんにベビースターラーメンをくれた。
嬉しそうな顔をして、ゆりちゃんはお礼を言った。それから、おっちゃんに尋ねる。
「どんな鍋好きですか?」
「すき焼きもいいけど、キムチ鍋かな」
おっちゃんはニコニコしながら答えた。
「頑張ってや。お疲れ」
もうジェーンって人、帰ってきたみたいや。凄い早くない?って思いながら、オレはお疲れって返した。そのままパソコンに集中する。
キムチ鍋、ヴィヴィアンが嫌いやから食べた事ないかも。辛いのあかんねんって、言うてたっけ? そんなに辛くないって、ホンマかな。
夕飯、楽しみやなぁ。
もうなんも殴られへんって言いながら、ルノは食堂のテーブルに突っ伏してた。ルノと色違いのネックレスを下げたジャメルさんが同じように突っ伏してて、やっぱり仲良しやなって思った。
隣りのテーブルでは、ジジがジャンヌちゃんに叱られてた。なんか、ルノとのケンカがバレたらしい。理由が理由やから、恥ずかしいやろってキレられてるみたい。黙って小さい妹に叱られるジジはカッコ悪くて、ちょっと笑える。
オレはルノの隣りに座った。
「大丈夫?」
「もう動かれへん」
すでにシャワーも浴びたみたい。ルノはちょっと濡れた髪の毛で、ゆったりした焦げ茶色のズボンにパリって書いてるティーシャツを着てた。眠そうな顔をしてるから、今日は早く寝るんちゃうかな。
夕飯食べたらジェームスに報告に行くけど、マイクを見つけた以外は特に何もなかった。エッチな同人誌の違法ダウンロードデータがあったくらい。ホンマになんもなかった。
オレも疲れたなぁってぐーたらしてたら、おばちゃんが大きい鍋を持ってやってきた。トイレから戻ってきたゆりちゃんが、めちゃくちゃ嬉しそうに鍋を覗き込む。
「はいお待たせ」
真ん中で色の違う二色のお鍋や。野菜もお肉も山盛り入ってて、めちゃくちゃ嬉しい。
生卵を見つけたルノが不思議そうな顔をする。
「なにこれ、どうやって食べるん?」
「すき焼き食べた事ないん?」
ゆりちゃんが嬉しそうに取り皿に卵を割った。めちゃくちゃ心配そうな顔をしたルノは、そんなゆりちゃんの様子をじっと眺めてる。
オレは鶏塩から食べようと思って、いただきますって手を合わせた。
すき焼きって聞いて、キラキラした目をこっちに向けたジャメルさんは、ルノに卵を押し付けた。多分割ってくれって言うたんやと思う。ルノは困った顔をしながら、片手で上手に卵を割った。
なんでジャメルさんは食べ方知ってるんやろと思いながら、オレはつくねを取り皿に盛る。
ジジとジャンヌちゃんも、不思議そうな顔をして嬉しそうなジャメルさんを見る。
「なあ、それどうするん?」
「このまま食べるんやで」
ゆりちゃんが生卵の入った皿に、肉を乗せながら笑った。
「嘘やろ、それ食べんの?」
ルノがそんな事を言うて、ゆりちゃんから離れた。なんかゲテモノ食べてるみたいな顔をされてるけど、なんでやろ? 美味しいのに。
「ゆりちゃん、お腹壊すで」
ジャンヌちゃんがそんな事を言うて、心配そうにゆりちゃんを見てる。ジャメルさんがジジになんか言うたら、ぎょっとした顔して、うちは遠慮しますとか言い出した。
この兄弟、もしかしてすき焼き嫌いなんかな。
「嫌ならそっちの鶏塩食べときぃや」
ゆりちゃんがルノに笑った。
「よぅ食べん。だってそれ生やで? 半熟とかそんなんちゃうで」
「お腹壊したりせんで。大丈夫」
オレはルノにそう言うて、嬉しそうに肉をつついてるジャメルさんを見た。めちゃくちゃ嬉しそうに食べてるのを、兄弟にヤバいもん見てるような顔で見られてる。美味しいって日本語で言うてる姿は、日本にすっごい馴染んでると思う。ルノと違ってちゃんとお箸を使ってるし。
ゆりちゃんに勧められても、ルノは嫌そうに鶏つくねをフォークで突き刺すだけ。生卵はどうしても嫌みたい。
ジャンヌちゃんとジジは、おそるおそるって感じで食べ始めたけど、ルノだけは断固拒否して隣りでマロニーちゃんすすってた。でも一口食べて、ジャンヌちゃんは気に入ったらしい。二つ目の卵を割って、嬉しそうにしてたから。
「お兄ちゃん、これ美味しいで」
「絶対嫌や。俺の事、騙すつもりやろ」
「そんな事せぇへんって、食べてみぃや」
「無理。絶対嫌や」
ルノに好き嫌いってホンマにないと思ってたんやけど、意外やった。確かに卵かけご飯とか食べてるところ見た事ない。
「フランスで食べた事ないの?」
「そもそも生卵って食べた事ない」
ジャンヌちゃんがこっち見てニコニコする。
「お兄ちゃん、絶対火を通したん出してくるもん」
ルノがジジを睨んだ。
「一回姉ちゃんがほとんど生のスクランブルエッグ作ったせいで倒れたんや。殻入ってるし、マズイし、めちゃしんどかってんぞ」
「そんなんうち知らんで」
「ジャンヌはまだ小さかったから、被害者は俺だけや。あれ以来、ずっと俺がご飯作ってるんやからな」
ルノって、ホンマに苦労したんやなって、ちょっと思った。
ジャンヌちゃんが小さかったって事は、ジジもルノも小学生とかやないんかな? そんな小さい時からずっとご飯作ってるって凄いやん。そりゃキャラ弁くらい作れるようにもなると思う。
オレが小さかった頃って、カップ麺も作られへんかったと思うもん。お湯が沸かされへんから、ヴィヴィアンにカップ麺を作ってもらった気がする。
っていうか、そんな小さい頃にもアランとクラリスは帰ってなかって事やろ? それって酷すぎると思う。ルノかて、ホンマは世話される方やった筈やん。
隣りで鶏肉食べてるルノは、どんな子やったんやろってちょっと思った。何も最初から不良やった訳やないやろ。
ジジはなんとなく今と変わらん気がするけど、ルノは全然違ったんちゃうかな。生意気なところとかってあんまりないし、真面目やん。毎日ちゃんとご飯作ったり、痛い思いしてもちゃんとヴィヴィアンに毎日しごかれたり。でもやっぱりジジとは全然似てなさそうな気がする。
ジャメルさんに聞いてみたいけど、きっとルノが訳してはくれへんやろなぁ。ジャンヌちゃんかて、今更ルノの事とか興味ないやろし。
ルノにしめの雑炊とうどんを作ってもらってると、ジャメルさんが幸せそうに笑った。なんか言うたのを、ジャンヌちゃんが笑って訳してくれた。
「こんなに美味しい日本食、初めて食べたって」
「よかった」
めちゃくちゃ嫌そうに作ってるけど、ルノは手慣れてるから簡単に聞いただけやのに作ってまう。生卵をきれいに割って、いとも簡単に作ってた。おばちゃんがやっぱり感心しながら見てる。
「なんで俺がやらんなあかんの?」
「ルノ、一番料理出来るやろ」
ジジに言われて、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「料理の出来る男はモテるんやで」
後ろからおばちゃんに言われても、やっぱり嫌そうな顔をするだけ。
「モテんでええから、やってぇや」
「もうほとんど出来てるやん」
もうあと火を通すだけなんやけど、ルノはめちゃくちゃ不満そう。立ったまま、じっと鍋の火加減を調節するところは流石って感じするけど。
まだかって急かすジジを睨みつけて、最初にゆりちゃんを見た。
「出来たけど、よそった方がええの?」
嬉しそうにうどんを下さいって器を差す出すゆりちゃんは、満面の笑みでルノを見上げてる。次にジャンヌちゃんの分、そんでオレとジャメルさんにもやってくれた。最後にジジを見て、自分でやれなんて言うからおもろかった。
幸せやなって思いながら、オレはおじやを食べた。ルノの作るご飯て、なんでこんなに美味しいんかなって、ちょっと思った。
食べ終わって歯を磨いたら、ルノはまだ七時半やのに食堂で寝てもた。
ジジが面白がってルノの寝顔の絵を描いてたから、そのまま置いて行く事にした。ジャンヌちゃんもジャメルさんと話してたし、ずっとフランス語やったから大丈夫やろ。何の話をしてるんか知らんけど、楽しそうにしてた。
オレはゆりちゃんと二人で支部長室に行った。
ジェームスは何故かヴィヴィアンとお酒を飲んでて、ちょっと酔ってるみたいやった。ソファーに座ってて、仲良く話してたみたい。ヴィヴィアンはいつも通りやけど、ジェームスが酔ってるところって久しぶりに見た気がする。
「どうやった?」
「あれ、仕掛けられたの知らなかったよ」
ジェームスはそう言うと、ビールをごくごく飲み干した。あれ、マズイと思うんやけどな。なんでこんなに美味しそうに飲めるんやろ。
「多分、ミランダじゃないか? だとすると長い間あった事になるな」
ヴィヴィアンはゆりちゃんに自分の横に座るように言うと、おつまみのビーフジャーキーを食べてええよって勧めた。気持ちよさそうな顔をしてて、ちょっと赤い顔で缶ビールを持ってた。
これは絶対に酔ってる。ゆりちゃんがなんか飲めって言われるかもしれんから、気をつけて見とこう。
オレはジェームスの横に座ると、勝手にビーフジャーキーをもらう事にした。これ、ヴィヴィアンが好きやねん。よく買ってきてくれたの、一緒に食べた。
困った顔で、ハードディスクには特に何もなかったって報告すると、ゆりちゃんは勧められてビーフジャーキーを齧りだした。美味しいって幸せそうな顔をするから、ヴィヴィアンも嬉しそうやった。
「マイクの音声は暗号化されて、外部にデータを送ってるみたい。まだなんもしてないから、情報は垂れ流しのままやで」
「じゃあルノとジジには死んでもらうか」
酔っ払っておかしくなったんかな?
ジェームスはぼうっとした顔でそう言うと、こっちを見た。
「ダンテ、明日急ぎの任務って事にして、何か適当にルノとジジに仕事を回せ」
「ええけど」
「お前なら上手に音声を作って、マイクに聞かせられるだろ?」
「オレの事、なんやと思ってるん? 音声って、詳しくないから出来ひんで」
何を言うてんかと思って、ジェームスを見つめた。
「誰なら詳しい? なんでもいいから銃撃戦にでもして、適当に撃たれて死んだ事にしてくれたらいいから」
「コンドルが詳しいけど、そんなんしてどうするん?」
「ルノとジジが死ねば、とりあえず向こうも作戦を考えるだろ? 時間稼ぎだ」
ジェームスはそう言うと、次の缶ビールを開けた。口をつけてのんびり飲みながら、ちょっと考え込む。
「少なくとも死んでれば、ルノとジャメルくんを狙わなくなるだろ? うーん、でもどうするかな」
「ついでにミトニックも拷問しすぎて死んだ事にしようや。そしたら油断するやろ?」
酔っ払ったヴィヴィアンがニコニコしながら言うた。
「でもその後どうすんの?」
ゆりちゃんがヴィヴィアンに尋ねた。
「ミトニックが最後に、向こうの情報を吐いた事にしようや。上手に嘘つけば行けるやろ」
楽しそうなヴィヴィアンに頷いて、オレはちょっと考えた。
確かにルノとジジが死んだ事にすれば、あのケイティも困る筈や。で、コンドルが情報をばらしたと知れば、どんな情報を吐いたんか探しに来るかもしれん。支部の中には入って来んかったとしても、誰かに近づいてくるかもしれん。
でもその時、狙われんのはゆりちゃんちゃうやろか。一番情報を知ってそうで、その上弱そうやん。ルノと仲が良いのはバレてるやろし、女の子や。スケボーで殴られる可能性はあるけど、素手やったら弱いの流石にオレにでも分かる。
実際、ジジの事をスケボーで殴った事がある。オレが銃で狙われてたからやけど、不意打ちでもジジがそれ食らってひっくり返ってたのを覚えてる。
とはいえ、支部を見張ってる元工作員をつければ、ゆりちゃんを遠くから守る事も難しくはないやろ。今ならゆりちゃんとヴィヴィアンが一緒にいるって手もある。
「それ、ゆりちゃんが狙われるようにならへん?」
オレはジェームスを見た。
ジェームスは確かにそうだなって頷いた。
「そこは死んでるんだし、ルノとジジをつけとけばいいだろ」
まあそうかもしれんけど、ジジはともかくルノは大丈夫なんか? ぶっちゃけ今のルノを下手な仕事に回すべきやないと思うんよ。一人で寝られへんようになったんやで? 危なすぎるやん。
心配してんのバレたみたいで、ヴィヴィアンがにっこり笑った。
「心配せんでも、うちも見張るから安心して。それにルノも自由になりたいやろ」
「ヴィヴィアン、絶対酔っ払ったらあかんで」
「流石にそこまで無責任な事せんよ」
昔と違って、ヴィヴィアンは頼れる笑顔で笑った。
酔っ払ったまま任務に出て行って、よくジェームスに怒られてたん忘れたんかな? ランボルギーニにキレられて、めちゃくちゃ危ない任務に回されたやん。教官のイーサンにも怒られたけど、キレてぶちのめしたんやなかったっけ。
酔わんかったら、ヴィヴィアンって凄い強いと思う。まあ酔ってても強いんやけど、酔ったらただの危険人物になるんやもん。すっごい心配。大丈夫かな。
「じゃあオレもコンドルと話したい。協力してもらわんな、オレ一人じゃ出来ひん」
「分かった。じゃあ明日呼びに行くから、ちゃんと仕事しろよ」
オレはもちろんって返事すると、ゆりちゃんに行こうって呼んだ。
「二日酔いで倒れるほど飲まんといてや」
そう言うて支部長室を出ると、真っ直ぐエレベータに向かった。二階の食堂に戻ると、ゆりちゃんと別れた。オレは部屋に戻って、パジャマを出した。明日も忙しくなりそうや。頑張ろうって自分に言い聞かせて、そのままシャワー室に行った。
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