第27話 暴走する薬と査察官
朝の静寂を破る爆発音が、街中に響き渡った。
「なんだ!?」
真一が飛び起きて窓の外を見ると、アルケミアの研究所から紫の煙が立ち上っている。
急いで駆けつけると、アルケミアが煤だらけで立っていた。紫のチューブトップも真っ黒で、肌が露出している部分に煤が付着している。
「アルケミア!大丈夫!?」
「あはは...ちょっと失敗しちゃった」
アルケミアが苦笑いを浮かべる。
「新しい薬を作ってたんだけど...」
その時、研究所から奇妙な霧が流れ出してきた。
「やばい!その霧を吸っちゃダメ!」
アルケミアの警告も虚しく、霧は街中に広がっていった。
* * *
「な、なにこれ...」
霧を吸った住人たちに、異変が起き始めた。
まず最初に変化したのは、グレイブだった。
「う...うわあああ!」
筋骨隆々の体が、みるみる縮んでいく。
「ちょ、ちょっと!」
気がつくと、グレイブは10歳くらいの少年になっていた。
「なんだこれ!?俺の体が!」
子供の声で叫ぶグレイブ。ぶかぶかになった服から、細い手足が出ている。
「若返りの薬だったの!?」
真一が驚く。
「いや、違うの...」
アルケミアが慌てて説明する。
* * *
次に変化したのは、フレイミィだった。
「きゃあ!」
人間の姿から、突然巨大なドラゴンに変身してしまう。
「変身が制御できない!」
建物を壊さないよう、必死に体を縮めようとするが上手くいかない。
「私も!」
ミーナも影響を受けていた。
「ブルーと心が繋がりすぎて...」
ミーナの体に青い鱗が生え始める。半分ドラゴン、半分人間の姿になってしまった。緑のタンクトップが、変化した体で破れかける。
「これは一体...」
* * *
「ごめん!」
アルケミアが頭を下げる。
「感情を増幅させる薬を作ろうとしたら...」
「感情を増幅!?」
「そう。でも副作用で、隠れた性質も表に出ちゃうみたい」
その言葉通り、街のあちこちで異変が起きていた。
セラフィーナは、天使の羽が黒く染まり始めていた。
「これは...私の中の闇...」
純白のドレスも、徐々に黒く変色していく。
「皆殺しにしたい衝動が...」
リリスは逆に、純粋な少女のようになっていた。
「あれ?なんだか...みんなが愛おしい」
黒のドレスを着たまま、無邪気に微笑んでいる。
* * *
「大変なことになった...」
真一が頭を抱えていると、エリザベートが冷静に指示を出した。
「とりあえく、被害を最小限に」
しかし、エリザベートも薬の影響を受けていた。
「あら?」
黒のスーツが、きらきらした派手な衣装に変わっていく。
「すべての物件を0円で売りたい...」
「それ、商売にならないよ!」
そんな大混乱の中、街の入口に馬車が到着した。
「ここがパラダイス・シティか」
降りてきたのは、眼鏡をかけた美女だった。グレーのスーツをきっちりと着込み、豊満な胸を押さえるようにファイルを抱えている。
* * *
「私は王国査察官のレイナ。定期査察に来た」
「さ、査察官!?」
真一が青ざめる。
こんな時に限って...
「早速、街の状況を...なんだこれは!?」
レイナが街の惨状を見て驚愕する。
子供になったグレイブ、ドラゴン化したフレイミィ、黒い翼のセラフィーナ...
「違法な実験をしているな!?」
レイナが鋭い目でアルケミアを睨む。
「いえ、これは事故で...」
「言い訳は聞かん!」
レイナがメモを取り始める。眼鏡の奥の瞳が、冷たく光っている。
* * *
「待ってください!」
真一が必死に弁解する。
「本当に事故なんです。すぐに元に戻しますから」
「元に戻す?」
「はい!アルケミアが解毒剤を...」
真一がアルケミアを見ると、彼女も薬の影響を受けていた。
「きゃは!もっと面白い薬作りたい!」
理性のタガが外れて、マッドサイエンティストの本性が全開になっている。
「人体実験したい!査察官さんも実験台に!」
「なっ!?」
レイナが後ずさる。
* * *
「アルケミア!しっかりして!」
美月が止めようとするが、彼女も影響を受けていた。
「あは...堕天使になりたい...」
白い翼が灰色に変色し始めている。白いドレスも、少しずつ黒く染まっていく。
「もうダメだ...」
真一が絶望しかけた時、意外な人物が現れた。
「ただいま〜」
シャドウが、悪魔と一緒に帰ってきた。
「って、なにこの状況!?」
「シャドウ!助けて!」
真一が事情を説明すると、シャドウは考え込んだ。
「感情増幅の薬ね...」
* * *
「おい、人間」
悪魔が口を開いた。
「これは魔界でも知られている薬に似ている」
「解毒方法は!?」
「強い衝撃を与えれば、一時的に正気に戻る」
その言葉を聞いて、シャドウが動いた。
「みんな、ごめん!」
瞬時に動き回り、薬の影響を受けた住人たちの首筋に手刀を入れていく。
「がっ!」
次々と住人たちが気絶していく。
「荒療治だけど、仕方ないわね」
* * *
気絶から目覚めた住人たちは、徐々に正常に戻っていった。
「あれ...私、何を...」
グレイブが元の姿に戻る。
「ごめんなさい!」
アルケミアが土下座する。チューブトップから、申し訳なさそうな谷間が見える。
「すぐに研究所を片付けて、二度とこんなことが起きないようにします!」
「ふむ...」
レイナが状況を見回す。
「事故だったことは理解した。だが...」
「だが?」
「安全管理の徹底を求める」
レイナは厳しい表情のまま、書類を作成した。
* * *
「それと」
レイナが真一を見る。
「この街の管理者として、責任を持ってもらう」
「は、はい」
「今後、このような事故が起きたら...」
レイナの眼鏡が光る。
「街の認可を取り消す」
重い言葉が、真一の肩にのしかかった。
しかし、意外にもレイナは小さく微笑んだ。
「だが、住人たちの絆は本物のようだ」
「え?」
「混乱の中でも、互いを助け合っていた」
レイナはそう言って、帰っていった。
* * *
その夜、反省会が開かれた。
「本当にごめんなさい...」
アルケミアが何度も謝る。
「もういいよ」
真一が苦笑する。
「でも、今後は気をつけて」
「はい...」
「それにしても」
リリスが思い出し笑いをする。
「みんなの隠れた一面が見れて面白かった」
「リリスは純粋になってたよね」
「うっ...それは忘れて!」
みんなが笑い合う。
やべー事件だったが、また一つ絆が深まった。
でも、査察官の警告は重い。
これからは、もっと気をつけなければ。
次回予告:
「私、結婚することになりました」
セラフィーナに縁談が!?
さらに謎の占い師も登場!
「あなたの運命の人は、すぐ近くに...」
第28話「聖女の縁談と運命の占い」
恋の予感!?
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