第6話
「アリアン殿下、何を根拠にそのようなことを…!」
セフィリアの声が、氷点下の冷気を帯びて響いた。彼女は、剣の柄から手を離さず、いつでも抜き放てるように構えている。クリスティアは、顔を真っ赤にしてアリアンを睨みつけ、エリスは警戒するように俺とアリアンを見比べていた。
「根拠などありません!彼らが、そう言っていたのです!」
アリアンは、俺の手をぎゅっと握りしめたまま、必死に訴えかける。その瞳は、俺への心配と、影の教団への恐怖で揺れていた。
「あなた、レオン様に近寄らないで!」
エリスが、思わずといった風に叫んだ。彼女の周囲の魔力が、不安定に揺らめき始める。
「ふざけないで!レオン様を贄にするなど、絶対に許しませんわ!貴方、何を企んでいるの!?」
クリスティアが、アリアンに詰め寄った。
「企みなどありません!私はただ、レオン様に危険が迫っていることをお伝えしたかっただけです!」
アリアンは、三人の女たちからの敵意に晒されながらも、必死に俺に訴えかける。
「…落ち着いてくれ、三人とも」
俺は、アリアンの手をそっと解放し、三人に視線を向けた。俺の言葉に、彼女たちは不満そうにしながらも、僅かに落ち着きを取り戻した。アリアンは、俺が手を離したことに、寂しそうな表情を浮かべた。
「アリアン殿下、もう少し詳しく話してくれないか?影の教団が、『神の瞳』について、どこで、どのように言っていたんだ?」
俺が冷静に尋ねると、アリアンは深く呼吸を整え、話し始めた。
「はい…彼らが、私の故郷を襲撃した際のことです。彼らは、我々の抵抗を物ともせず、村々を焼き、人々を連れ去っていきました。その中で、一人の教団員が…私に言ったのです。『神の瞳を持つ者が、この帝国にいる。そいつを贄に捧げれば、我らの悲願は達成される』と…」
アリアンの声は、途中で震えた。その時の光景が、彼の脳裏に焼き付いているのだろう。
「その『神の瞳』が、レオン様のことだと、なぜ分かったのですか?」
エリスが、疑わしげな目でアリアンを見た。
「それは…彼らが、まるで私の心を読んだかのように、その言葉を私に投げかけたからです。そして…その言葉を聞いた瞬間、私は…貴方様の顔が、脳裏に浮かんだのです」
アリアンは、再び俺の瞳をじっと見つめた。彼の瞳には、言いようのないほど深い、俺への執着が込められている。俺の力が、彼にそこまで深く作用していたのか。
「つまり、彼らはレオン様の力を知っている、と…」
クリスティアが、考え込むように呟いた。彼女の表情は、焦りから、次第に深い警戒へと変わっていく。
「それは…可能性として高いだろうな」
俺は、アリアンの言葉から、そう推測せざるを得なかった。俺の力は、この世界でも特殊なものだ。それを「神の瞳」と呼ぶのなら、影の教団は、俺の力を知った上で狙っていることになる。
「では、レオン様は…この城に留まるべきですわ!」
セフィリアが、強い口調で言った。彼女は、俺を危険から遠ざけようと、必死になっている。
「ええ、そうです!わたくしが、この城の守りを固めます!陛下にも、もっと護衛をつけるよう進言しますわ!」
クリスティアもまた、俺の身の安全を最優先に考え、提案した。
「そんな…!レオン様が危険な目に遭うかもしれないのに、私が何もしないでいられるわけがないじゃない!」
エリスは、悔しそうに拳を握りしめた。彼女は、俺を守るための力が欲しいと、心から願っているようだった。
「待ってくれ。もし、俺が城に留まれば、影の教団は、城を襲撃してくるかもしれない。そうなれば、この城にいる多くの人々が危険に晒される」
俺は、落ち着いて三人に説明した。俺が彼らの標的になっている以上、俺がどこにいようと、彼らは俺を追ってくるだろう。
「では、どうなさるおつもりですか、レオン様」
セフィリアが、俺の瞳を真っ直ぐに見つめて尋ねた。その瞳には、俺のどんな選択にも従うという、強い意志が宿っている。
「俺は…影の教団の拠点を突き止め、奴らの儀式を阻止する。そして、連れ去られた人々を助ける」
俺の言葉に、アリアンの顔に希望の色が浮かんだ。しかし、三人の女たちの顔は、再び険しくなった。
「レオン様、それはあまりにも無謀ですわ!」
クリスティアが、俺の腕を掴んだ。
「そうよ!レオン様は、そんな危険な場所に行くべきじゃないわ!」
エリスもまた、俺のローブの裾を掴んで、行かせまいとする。
「レオン様…どうか、ご再考を」
セフィリアは、懇願するように俺を見つめた。彼女の瞳には、俺への深い愛情と、失うことへの恐怖が混じり合っていた。
「分かってる。危険なのは重々承知だ。だが、このまま黙って見過ごすわけにはいかない」
俺は、三人の手を振りほどいた。そして、アリアンに視線を向けた。
「アリアン殿下。影の教団の、何か他に知っていることはないか?彼らの拠点や、儀式について、少しでもいい」
アリアンは、俺の言葉に頷いた。
「はい…襲撃の際、彼らは奇妙な紋様が刻まれた短剣を持っていました。その短剣から、黒い靄のようなものが立ち上り…そして、彼らはある方向へと去っていきました」
アリアンは、そう言って、南の方角を指差した。
「南、か…」
俺は、地図を思い浮かべた。南には、広大な森林地帯と、古びた遺跡が点在している。
「レオン様…わたくしも、同行させてください」
クリスティアが、決意を秘めた目で言った。
「私もです!レオン様の力にならせてください!」
エリスも、俺に食い下がる。
「レオン様。私も、共に行きます」
セフィリアは、俺の隣に並び立ち、固い決意の表情を見せた。
「それに…私も、貴方様と同行させていただけませんか?」
アリアンが、少し遠慮がちに尋ねた。
「分かった。ただし、これは単なる討伐ではない。あくまで情報収集が主だ。不用意な行動は慎むように。特に…お前たち、俺の私的な行動に口を出すな」
俺は、最後の言葉を特にクリスティアとエリスに向けて言った。二人は不満げな顔をしたが、俺の言葉に反論はしなかった。セフィリアは、静かに頷いている。アリアンは、俺の言葉に、嬉しそうに頷いた。
「では、準備を整えて、明日の夜明けには出発する。それまでに、各自、必要なものを揃えておけ」
俺はそう言って、改めて指示を出した。
俺は、窓の外を見た。
この戦いは、一体誰のためなのか。
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