ゲット・レディ・フォー・ザ・ニュー・イヤーズ・パーティー!
ゲット・レディ・フォー・ザ・ニュー・イヤーズ・パーティー!
四季の館、無限廊下の一角。その迷路領域に迷う込んでしまった二人の生徒は互いにしゃがみこみ、顔を合わせる。この寒い冬の夜、廊下は外気温と大差ない。二人の二年生ジェットとクレバーは背中に大きなザックを背負いながらも肩をがたがたと震わせていた。
「クソ。計画より多めに盗んだのは間違いだったんだ」
ジェットは歯を震わせながら言う。
「でも、パーシヴァルが仕事してくれたんだ。取り分を多めにとるのは当然だろ」
クレバーも同様に歯を震わせている。
「でも、その分欲張った結果がこれだ」
ジェットは素早く左右を指さす。彼が指した先、左右の廊下には突当りが無く、虚空の闇で終わっている。とてつもなく長い廊下だ。だから無限廊下といわれている。当然、歩いても端にたどり着きはしない。
しかし、なぜ二人は無限廊下に逃げてくる羽目になってしまったのか。それは、二人が教師に見つかりそうになってしまったからだ。四季の館において、夜の間談話室から出て出歩くのは校則で禁止されている。それが先生に見つかってしまうと、地下房に連れ出されみっちりと叱られる。それを避けるために、二人は無限廊下に逃げ込んだ。
彼らが夜中で歩いた理由は、談話室で盛大なニューイヤーパーティーを開くために他ならない。
パーティーに必要な物といえば、沢山のお菓子。だから二人は、厨房に忍びこんだ。幸いなことに、厨房には何故かデミ・キャンディーやデミ・チョコ、デミ・チップスにデミ・ウェルシュケーキ、デミ・カボチャパイ、デミ・ジンジャーブレッドマンクッキーなどがたんまり置かれていた。
そのため、二人はザックをお菓子でパンパンにすることには成功させたのだが、時間が足りなかった。たまたま現れた寸胴鍋の使い魔に見つかってしまったのだ。その使い魔は彼らを発見し次第叫びだした。
「生徒が居るわ! こんな夜遅くに出歩く生徒よ!」
その叫び声を聞いて驚いたジェットとクレバーは急いで厨房から逃げ出し、無我夢中で走った。このタイミングで先生に捕まってしまえば、新年のおめでたい時間を地下房で過ごすことになる。そんな年越しなんてしたくないし、パーティーも年越しに間に合わない。
だが、無限廊下から抜け出せなければやはりパーティーを開催できない。
「走って出口を探してみるか」
「走ればあったかくなるだろうし」
ジェットとクレバーが立ち上がった瞬間だった。二人は背後から話しかけられた。
「そんなことをしても年越しには間に合いませんよ」
二人はその声に肩を震わせた後、振り返った。二人の眼に入るのはブロンドウェーブのショートヘアと、きっちりと整った着こなしの制服姿。
「「げッ!」」
ジェットとクレバーの後ろに立っていたのは、二人が先生の次に見つかりたくなかった存在、セイコだった。
セイコは模範生で校則違反を許さない。それ故、セイコ達模範生組の注意を引いてもらう仕事をパーシヴァルに任せた。だが、彼女がここにいるということは、パーシヴァルはしくじったということだ。
「クソ、パーシヴァルめ。欲張り損じゃないか」
「チクるのかよ?」
ジェットがザックを大事に抱えながらセイコをにらむ。
「それともこのお菓子を全部厨房に返して来いってか?」
二人の予想した返事は“はい”だったが、今回は違った。
「あなた達があまりに遅いからどうせ、ここで迷っているんだろうと思って。だから、迎えに来たんですよ。年をあけてからパーティー開始なんて興ざめじゃないですか」
二人は顔を合わせた。眼を真ん丸にしながらジェットは言う。
「驚いた。校則違反だぜ?これ」
「校則違反のニューイヤーパーティーは四季の館にこっそり伝わる伝統なんですって。ハナコお姉さまから聞きました。」
「生徒会長も校則違反するんだな」
セイコの姉ハナコは四季の館の生徒会長を務める。
「次期学長なのになぁ」
「おっかないだけだと思っていたのに、ユーモアとかあるんだな」
「姉の評価を改めてくれるのはうれしいですが、今はそんな暇ありません。ついてきてください」
セイコは廊下を進む。二人はぴったりと離れずに彼女についていった。セイコは廊下の柱を三度通過した後に、二回壁を叩き、その後引き返す。そして、廊下の柱を五回通過した後に壁に飾られている巨大な絵画の前で立ち止まり、そこに描かれたデミ・ニンジンの絵を三回つつく。
すると、その巨大な絵画がスライドした。その先には、穴があり、穴の奥には廊下が見える。無限廊下ではない、館の廊下だ。
後ろを歩いていたジェットとクレバーは口をあんぐり開ける。
「すっげぇ。なんでわかるんだよ。脱出方法」
「姉が生徒会長で叔母が学長ですよ? 伝統でも、館の秘密でもなんでも知っていますよ」
勝ち誇った顔でセイコは絵画裏の穴を通過する。それに続いて、ジェットとクレバーも穴を通過する。
「よし、後は戻るだけだな」
三人が、談話室の方向へ向いた時だった。三人は背後から声を掛けられた。
「おい、君たち何をしているんだ」
その声はサイデス教授の声だった。かれは、いつもスーツケースを持ち歩く変わった教授でひょうきんだが、厳しいときは厳しい。ジェットとクレバーは特に問題ないだろうと楽観的に笑った。おそらく厳しいときのサイデス教授ではなさそうだからだ。それに、盗んだお菓子でのパーティーは伝統だという。
「さっさと理由を話して帰ろうぜ、セイコ」
だが、セイコの顔は青ざめていた。
「談話室でのニューイヤーは伝統ですが、校則違反なことに変わりはないです……」
その言葉に二人は青ざめる。
「え、じゃあ、やばいじゃん」
「そんな、地下房いきかよ! 伝統なのに理不尽じゃん!」
青ざめる三人に向かって歩みを進めるサイデス教授。彼の表情は険しかった。厳しいときの教授だ。その表情を見て観念した三人。しかし、そこへ別の声がエントリーした。
「待ってください。教授!」
教授は三人へと向かう足を止め振り向く。そこにいるのは、学級委員長のラルエット。セイコの親友で優等生の彼女は、セイコ以上に校則に厳しい。ジェットとクレバーは良く彼女に悪行をチクられている。従って、彼女を止めるのもパーシヴァルの仕事だった。
だが、彼女は廊下にいる。どうなっているのだろうか?
ラルエットはちらりと三人を見た後、教授に向かって言った。
「ジェットとクレバーは補修のために父のラボに呼ばれていたんです」
ラルエットの両親は、四季の館の教授なのだ。
「私とセイコは彼らに教えるために付き添いなんです」
ラルエットはサイデス教授に紙を突き出した。それは、夜間の外出許可証だった。許可生徒の欄にはラルエットの名前だけでなくセイコとジェットとクレバーの名前も載っている。それを見たサイデスは険しい顔をくずし、笑みを見せる。
「なんだ、それならよかった」
いつものひょうきんなモードに戻ったのだ。
「早く寮に戻りなさい。寒いからね」
四人は、サイデス教授が廊下の角を曲がるまで待った後、走り始めた。ラルエットが二人に言う。
「デミ・ジンジャーブレッドマンクッキーはたくさんあるんでしょうね?」
「あるけど、驚いたよ。君が僕らを庇ってくれるなんておもいもよらなかった」
「当然でしょ? パーティーは伝統なんだもの」
「君も知っていたのかい?」
「ええ。厨房にわざとたくさんのお菓子が置かれていることもね」
「そういや、バカにたくさんあったな」
ジェットとクレバーは互いに目を合わせた後、セイコを見る。彼女はにっこりと笑った。セイコもそのことを知っていたのだ。その後、ラルエットを見る。彼女はウィンクした。
「ラルエット。君、なんで、そこまで知っているんだい?」
「当然でしょ? 両親がここの教授なのよ?」
「それもそうか」
クレバーが肩をすくめた。
「じゃあ、この四人のうち、校則違反の伝統を知らなかったの間抜けはいつも校則違反をしている僕たち二人だけだったっていうことか」
「でも、今知った。だから来年からはへましないでね」
その来年は後一分のところまでせまっていた。廊下に置かれた古時計が示す。ジェットはゼロの地点で重なりそうになった針を見て焦る。
「もっと走るぞ!」
「大丈夫! もう、談話室です!」
四人は走る勢いのまま、扉を開けた。なだれ込む四人。そこへ、談話室で待機していたクラスメイトが祝福の声を上げる。
「「「「「ハッピーニューイヤー!」」」」
クラッカーが鳴り、談話室は温かい空気に包まれた。ジェットとクレバーは、きょとんと顔をした顔で互いの顔を見る。セイコが二人に手をさしのべた。
「皆に教えておきましたよ。パーティーの事」
「なんだよ」
「サプライズのつもりだったのに」
文句を言いながらもジェットとクレバーは笑顔を浮かべている。そして、ザックの中に手を突っ込み、手に取ったお菓子をばらまいた。
「「ハッピーニューイヤー!」」
大晦日の夜は冷える。だが、談話室の空気は暖かく和やかであった。
ゲット・レディ・フォー・ザ・ニュー・イヤーズ・パーティー! おしまい
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