第34話:研究の加速と究極の制御

王国の総力を挙げた国家プロジェクトは、

国王の号令と共に、

瞬く間に最高潮に達していた。

地下工房は、もはや秘密の研究室ではない。

巨大な創造の城として、

活気と知的な興奮に満ち溢れている。

何千人もの最高の頭脳と技術者が、

日夜、姫の夢の実現のために、

熱心に研究に励んでいた。

王宮全体に、この熱狂は波及している。

各都市の広場には、王命が掲げられ、

触発された国民が、新たな時代に胸を踊らせていた。

王立技術者隊の精鋭が、

各地の隠れた資源脈から、

高純度のアゼリア石や、希少な金属を、

厳重な警備のもと、運び込んでくる。

魔力で強化された輸送車が、

夜間も休むことなく、地下工房へと物資を運ぶ。

王国の全ての才能と資源が、

この巨大な研究のために集結していた。


アリアンナは、その巨大な組織の中心で、

プロジェクトの総指揮を執っていた。

彼女の指示は、常に明確で的確。

各研究チームの進捗を把握し、

問題点を見抜き、解決策を提示する。

時には、複数の研究班の課題が、

一つの原理で解決されるような、

驚くべき示唆を与えることもあった。

彼女のチートな知力は、

複雑に絡み合う各分野の研究を、

完璧に統合していく。

毎日、彼女の執務室には、

様々な分野の専門家たちが、

自身の研究成果を報告に訪れる。

彼女は、その全てを完璧に理解し、

次なる指示を与えていた。


特に、ジェット推進の実現に向けた研究は、

目覚ましい進歩を遂げていた。

以前、彼らが直面した、あの技術的な壁。

「魔力結晶の共振現象の制御不能」や、

「熱膨張による回路の断絶」といった課題に、

古の異端者たちが残した知識が、

決定的な突破口を開いたのだ。

地下深くには、新たに掘り進められた、

巨大な研究室が次々と増設された。

その壁面には、古代の魔導回路図が刻まれ、

天井には、最新の魔導照明が、

煌々と輝いている。


ゼファー率いる「高熱耐性合金班」は、

古代の製法を応用し、

超高温に耐えうる新たな合金の開発に挑んでいた。

彼らは、地下深くに増設された、

専用の巨大な炉で、

未だかつてないほどの高熱を生み出す。

炎の色は、通常の炉の赤やオレンジではなく、

青白い、魔力を帯びた光を放っていた。

溶かされた金属は、まるで生き物のように蠢き、

複雑な魔導符が刻まれた型へと流し込まれる。

試作された合金は、まるで呼吸するかのように、

魔力を吸い込み、輝く。

ゼファーは、その様子を計測器で見つめ、

微かな変化も見逃さない。

彼らの目的は、ただ熱に耐えるだけでなく、

魔力との親和性を極限まで高めることだ。


「魔力制御回路班」は、

姫が持ち込んだ次元間魔力変換回路を解析し、

より安全で精密な魔力制御システムを構築する。

彼らは、空中に魔力で複雑な回路図を投影し、

その中を、光の粒子が、

寸分の狂いもなく流れていくのを検証する。

魔力の共振現象を抑制する、

古代の魔導理論を応用し、

現代の技術で再現しようとしていた。

小さなミスも許されない、

極めて繊細な作業だ。

アリアンナも、彼らの研究室を頻繁に訪れ、

自らの魔力を使って、

回路の応答性を直接テストすることもあった。

彼女の魔力は、計測器では測れないほど繊細で、

微細な調整が可能だった。


フィリップ率いる「超軽量素材開発班」は、

空飛ぶ機体に最適な、

軽さと強度を併せ持つ植物繊維を研究する。

彼らは、魔法で強化された温室で、

特殊な魔力親和性植物を育てていた。

その植物は、普通の葉や茎とは異なり、

光を吸い込むように輝き、

触れると微かに魔力を帯びた感触がある。

「魔力親和性植物研究班」は、

姫の魔力に共鳴し、資材を活性化させる、

新たな植物の探求に挑む。

フィリップは、古代の記述から、

新たな植物の交配法や、

魔力を定着させる加工法を学び、

その成果を、各班へと提供していた。


アリアンナ自身の魔力制御技術も、

この国家プロジェクトの中で、

飛躍的に向上していった。

彼女は、高負荷のジェット推進を操るため、

専用の実験室で、日夜訓練を重ねた。

自身の圧倒的な魔力を、

寸分の狂いもなく、完璧に制御する。

それは、まさに、

荒ぶる嵐を手懐けるかのような、

繊細かつ力強い作業だった。

彼女の魔力は、理論と実践を通じて、

より洗練され、精密になっていく。

体内の魔力回路が、新たな負荷に順応し、

魔力代謝負荷への耐性も、確実に向上していた。

疲労は伴うが、彼女の顔には、

いつも楽しげな笑みが浮かんでいた。

「もっと速く、もっと高く、もっと自由に。」

彼女の夢は、もはや絵空事ではない。

王国の最高峰の頭脳と技術が、

一人の姫の夢のために、

惜しみなく注ぎ込まれる。

人類が空を駆ける日、

その光景は、もう遠くない。

王宮全体が、姫の夢の実現を、

心待ちにする日々が続いていた。

姫の空への夢は、

今や、王国全体の夢となっていたのだ。

歴史の新たな扉が、

今、大きく開かれようとしていた。

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