第3話:最初の挫折と「箒」への執着
魔力測定の結果に落ち込んではいられない!
アリアンナは、新たな決意を胸に、
再び宮廷の図書館へと向かった。
今回はただの読書じゃない。
この世界に存在しない「空を飛ぶ方法」を、
この手で創り出すための、大いなる探求だ!
埃っぽい書架の間を縫うように進み、
これまで見たこともないような、
古びた魔導理論書や、歴史の片隅に埋もれた文献を、
片っ端から手に取っていく。
彼女のチートな頭脳は、膨大な情報を
瞬時に読み込み、分析し、関連付けていく。
まるで、巨大なパズルを解き明かすように。
数日、数週間が過ぎた。
アリアンナの周囲には、
読み終えた本の山が築かれていく。
時には、侍女たちが心配して、
「姫様、お食事はいかがですか?」と声をかけるが、
アリアンナは「後で!」と元気な返事を返すばかり。
彼女の集中力は、誰にも邪魔されない。
そんな中、ついに彼女は手がかりを見つけた。
それは、この世界の歴史の表舞台からは抹殺された、
ごく断片的な記録だった。
かつて「異端者たち」と呼ばれた者たちがいた、と。
彼らが、空を飛ぼうと試みていた、と。
具体的な術式や技術の詳細は記されていない。
だが、その記録には、漠然とした原理や、
「風を捉える」「重さを操る」といった、
空を飛ぶことに関連するだろう、抽象的な記述が散見された。
アリアンナの脳裏には、
童話で見た「魔女の箒」が浮かび上がる。
もしかしたら、この「異端者たち」こそが、
魔女の原型だったのかもしれない。
そして、その原理は、現代には失われている。
「よし! 私が、その失われた原理を解き明かすんだ!」
彼女の瞳が、再びギラリと輝いた。
古文書から得たわずかなヒントと、
自身のチートな魔力と知力。
それらを組み合わせて、アリアンナは、
最初の実験に取り掛かった。
まずは手始めに、宮廷の庭に落ちていた、
例のちょうどいい太さの木の枝を用意する。
それに、古文書で見たような魔導符を、
見よう見まねで刻んでいく。
複雑な幾何学模様が、木の表面に浮かび上がる。
これは、魔力を流し込み、特定の効果を
生み出すための回路のようなもの。
「ふふ、これで私の箒も、少しは賢くなったかな?」
そう呟き、アリアンナは満面の笑みを浮かべた。
自室に戻ると、誰もいないことを確認してから、
魔導符を刻んだ木の箒に跨る。
アリアンナの胸は、期待で高鳴っていた。
今度こそ、きっと。
そう信じて、ぐっと地面を蹴り、身体ごと跳ね上がる!
同時に、渾身の魔力を箒へと流し込んだ。
枝が、キィン!と甲高い音を立ててきしむ。
刻まれた魔導符が、眩い光を放ち、
熱い魔力の波動が、箒全体を包み込んだ。
「おおおっ……!」
アリアンナは、その爆発的な魔力の奔流に、
思わず声を上げた。
しかし、それだけだった。
彼女の身体は、びくともしない。
跳ね上がった勢いそのまま、ドスン!と力なく地面に落ちた。
箒は、魔力に耐えきれず、パァン!と音を立てて、
縦に大きく裂けてしまった。
その破片が、部屋中に散らばる。
アリアンナは呆然とそれを見ていた。
「あ……れ?」
魔力はものすごい。圧倒的すぎるくらいだ。
でも、それをどう使えば飛べるのか、
手がかりはどこにもなかった。
試しに、箒がなくても、身体に直接魔力を集め、
「風を起こしてみる」という、一番安直な方法を試してみる。
ぐっと魔力を足元に集中させると、
足元の絨毯がずるっと後ろに滑り、
アリアンナの身体もつられて尻もちをつきそうになる。
慌ててバランスを取って踏みとどまるが、
腰を落とした不格好な姿勢になった。
「……これじゃ私がぐるぐる回されるだけだわ。」
少し悔しそうに呟いて、そっと首を傾げる。
「そっか、風で飛ぶなら、もっと風が凄くなきゃ。
そしたら今度は吹き飛ばされちゃうだけか……」
思わず自分で笑ってしまった。
身体中に軽い痛みが走る。
侍女たちが慌てて駆けつけてきた時には、
アリアンナの顔は煤だらけ、ドレスはボロボロ。
部屋は、まるで嵐が過ぎ去った後のように、
めちゃくちゃになっていた。
「あ~また落ちちゃった!」
失敗にも全くめげず、アリアンナは心底楽しそうに笑う。
彼女のポジティブさは、誰にも止められない。
侍女たちは、呆れ半分、微笑ましさ半分といった表情で、
散らかった部屋と、元気な姫を見守っていた。
この派手な失敗こそが、彼女の夢の原点となる。
そして、後に伝説となる「大空の魔女は箒で空を飛んだ」という、
誇張された目撃談の元となるのだ。
今回の実験で、アリアンナは痛感した。
「ただ魔力を込めるだけ」ではダメだ。
「魔導符を刻んだだけ」でも足りない。
空を飛ぶためには、もっと深い原理と、
それを安定させる構造が必要だ、と。
いくら魔力量が規格外でも、
どう使えば飛べるのか、今はまだ手がかりひとつ見つからない。
空への道は、果てしなく遠いように感じられた。
「よし、もっと賢い箒を作らなきゃ!」
アリアンナは、新たな決意を胸に、
壊れた箒の残骸を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます