なまけの短編集 ☆30↑

@namakesaru

はげしすぎるの ☆30 ライトに読みたい

 出逢ったときは全く分からなかった。当たり前だけど。


 よその学校の不良に絡まれていた私を助けてくれたあなた。私をかばってくれたその背中は、とても広かった。

 同じ学校だなんて知らなかった。

 あなたの姿を見かけて、運命だと思ったの。見えなくなるまで姿を追った。そして、あなたの姿を探すようになった。


 熱血漢でいつも全力で生きている、そんなあなたを見つめていた。


 そのうち、あなたも私の視線に気が付いて。

 あなたの周囲の男子に冷やかされて、真っ赤になっていたあなた。


 はじめて手をつないで。

 あなたは、いつも私に触れていたいと言ってくれた。そしてその言葉通り、二人でいるときはいつも触れ合っていた。


 少しずつ大人の階段を上っていく私たち。

 あなたの猫っ毛に指を絡ませながらコーヒーを飲む、それは幸せに違いなかったけれど。


 あなたはその正義感から、他人とぶつかることが多かった。男は女性を守るものだと言って、女の子にはとっても優しくした。それは、私には必要以上に映ったから辛かったし悲しかったわ。知ってた?


 少し、疲れていたの。

 怒りのエネルギーを浴び続けることも、嫉妬という感情をコントロールすることにも。夜ごとの触れ合いにも。


 あなたのエネルギーは、私には激しすぎたの。

 わたしのエネルギーが奪われている、そう感じたから。さよならしたのよ。


 さよならしたのに。

 また出会ってしまった。


 あなたはとても精力的な営業マンとして、私の前にあらわれた。

 背の高いあなたが下げた頭は、私の上司の頭の位置より高くて。なんだ可笑しくてふっと笑ったときにあなたと目が合った。

 相変わらずの熱量と猫っ毛。


 運命には抗えない。そう納得してしまった。


 当たり前に仕事の愚痴を聞かされたけれど、子どもが生まれてからは、『子育て政策が』とか『幼稚園の対応が』とか、私も共感できることに変わっていったからそれほど気にならなくなった。そもそも毎日が慌ただしくて、ゆっくり話す時間なんて減っていった。

 子どもの夜泣きもひどくて、睡眠時間の確保のため、とあなたは時々外泊するようになって。その習慣は子どもが大きくなってからも変わらなかったけれど、私にも好都合だったの。子育ては体力勝負。睡眠が大事だから。


 子どもがある程度大きくなると、時々ケンカするようになったわよね。子育ての方針や家計のこと、親戚づきあいのこと。どこの家庭でもあること。この頃には私も強くなっていたわ。本気で言い返せるようになっていた。

 けれど、あなたは本当に激しすぎた。暴力こそなかったけれど、顔を真っ赤にして汗をかきながら言葉を発する。お互いヒートアップしたわよね。 そして、さいごはあなたが髪をかきむしりながら部屋を出て行って終わり。あんなに素敵だった猫っ毛がボサボサよ。

 この頃から、気にはなっていたの。あなたの未来が。


 そしていま。


 子どもたちも巣立って穏やかな老後を迎えている、はずでしょ?

 なのになんで、またご近所さんとケンカしてきたの?

 今日は、ゲートボールの日じゃないわよね。ゲートボールに行くと毎回じゃない。あいつらはズルをする、って。それなら行かなければいいのに。

 ああ、ゲートボールだけじゃないか。この間は散歩に行って、毎週スナックに行っていることを茶化された、と怒って帰ってきたっけ。今更怒るようなことじゃないでしょ、昔からそうだから。


 え?今回は絶対悪くないって?よそのお孫さんのことを美人って褒めただけなのに、って?


 とうとう、そんなことを。あとで謝りにいかなくちゃ。

 違うわよね?スタイルのことも、多分それ以外にも余計なこと言ってるわよね?あなたの通うスナックの女のコじゃないのよ。スナックのコもそういうお仕事をしているだけで、普通の生活の中では誰かの大切なお嬢さんでお孫さんなの。うちは全部男だからわからないなんて、言い訳にならないからね。

 あなたは考えていることすべてが、激しく表情に出るの。表情がダメだったのよ。


 ほら、今度は私に怒りはじめるでしょ?いつか脳卒中で倒れるんじゃない?これでも心配しているんだから。激しすぎるのよ。すべてが。


 顔、真っ赤よ。ゆでダコみたい。笑っちゃう。笑いの提供もさすが激しいわ。やだ、笑いが笑いが笑いが止まらない。涙まで出てきた。

 指さしちゃっていいかしら。ゆでダコ、ゆであがったタコがここにいる!


 しすぎるのよ。


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