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 正門の先にいた敵が引き上げたと言うユウの言葉に、おれたちは互いの顔を見合った。

「目の前の敵はやっぱりおとりだったわけだね」

 笑里の言葉に井上も頷いた。

「そうですね。正面に敵を引き付けて、背後から奇襲をしかける戦法だったみたいですね。それにしても白沢さん、よくそこに気付きましたね」

「だってさぁ、村を取り囲むんじゃなく、距離を置いて正門から一直線のところに固まって対峙してるんだよ。あからさまだったじゃないの。囮の匂いがプンプンしていたよ」

 笑里の答えにミオが小さく笑った。

「笑里ちゃんにしたら簡単な問題だったみたいね。それより油断しちゃいけないわ。きっとアイツら、また来るよ」


 そこへ風見とニイルが姿を見せた。

「必ず来ると思います」

 と風見が言った。

「この村の周囲に展開されたアンチ魔法は解除されていないから、外部との連絡は依然取れない状態なんです」


「あのさ」

 とおれは疑問をぶつけた。

「村の柵や温泉の岩盤にアンチ魔法が掛けられているのは、なんとなく分かるけど――」

 おれは天空を指差した。

「空中はどうなるんだよ」

「そうね」

 と風見は少し考えて、

「わたしの魔力感知をイメージで表現するなら……さんかくテントを思い浮かべてみて」

「△テント?」

「そう、この村には、アンチ魔法が岩盤や防御柵伝さくづたいいに斜め上に伸びていて、村の上空で一点に繋がっているの。つまりね、展開しているアンチ魔法に色を付ければ、遠くから見た時、巨大な△テントに見えると思うのよ」

「なるほど……目には見えない巨大な△テント状にアンチ魔法が展開している――そういう解釈でいいんだな」

 おれが納得すると、

「はいはい、雅人君、お利口さんだね」

 笑里が揶揄うようにおれの頭を撫でた。


「はいはい、イチャイチャするのはそこまでよ」

 とカトリーヌが不機嫌そうに言った。

「わたしたち、成り行きで争いに巻き込まれちゃったけど、これからどうするのか考えなきゃいけないと思うわ」

「だよな」

 とユウが言った。その表情からは強い決意が感じられた。

「ムーンライト絡みなら、おれたちは退く訳にはいかねぇよ。だろ? ミオ」

 ユウに言葉にミオも頷いた。

「帝国からはムーンライト討伐の依頼を受けているし、これまでも何度となく戦い、多くの知り合いの命が失われる現場を目の当たりにして来たからね。個人的にもムーンライトは――グレン・ライアーだけは許せないのよ」

 そこへヒロとリョウがやって来た。

「いいんじゃねぇの。付き合ってやろう。このまま見過ごすことはしたくねぇよ」

 静かだがリョウの言葉に迷いはなかった。

「だな」

 とヒロも笑った。

「この村に来たのも何かのえんだ。最後までやり遂げようぜ」

 悪人討伐の賞金稼ぎを、生業なりわいにしているユミヒリたちの意見は一致していた。カトリーヌも言葉を口にしなかったが、リョウの隣りに立った事でその意思を表明していた。


 ミオはおれたちに目を向けた。

「笑里ちゃんや有栖川君――井上君や祥子ちゃんたちは戦闘には向かないから戦う必要はないけど、ただね、今ここを出るのは危険だと思うわ。申し訳ないけど、この村からは離れない方がいいと思うよ。あなたたちのことは必ず守るからね」

 戦闘に巻き込まれるのは御免だが、状況から見ても、ミオの言っている事が正論なのは理解出来た。

 それについておれと笑里は納得していたが、精神的にも十五歳の風見たちがそれをどう受け止めるのか――そこが問題だった。


 だが――。

「どの道逃げられないのであれば、わたしだって何かの役に立ちたいわ」

 風見が言うと、井上もオドオドしながら、

「おれは戦闘スキルはないけど、戦闘の道具なら作れます」

 その言葉におれは反応した。

「道具? なんだそれ? おれでも使えるのか?」

「ああ、使えるぞ」

 と井上は頷いた。

「おれは元いた世界に帰るための研究の過程で、武器にも転用できるものをいくつか開発していたんだよ」

「へぇ~どんなのかしら」

 笑里が目を輝かせた。


「この世界には魔法展開の稼働に必要なマナが充満しています。だけど、魔力を持たない人間が魔法を発動することは不可能なんです。――それを補ってくれるのが魔法陣なのです」

 井上は生き生きと語った。

(こいつ、こういうことが結構好きなんだな)

 そう言う思いがひしひしと伝わって来た。


「魔法陣って、さっき、枯渇こかつした黄色の通信魔石の魔力を一瞬で復活させた幾何学模様のことだよね。で、井上君が開発した武器になるものって、どのような攻撃能力があるの?」

 笑里がそう聞くと、井上は3×3平方センチメートルくらいの小さな紙を上着の内ポケットから出した。

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