(4)




 お茶をふたつのコップに注ぎ、個包装のクッキーやカステラなどをプレートに載せると、私はそれらと共に2階にある自分の部屋に向かった。

 両手は塞がっているため肘で押してドアを開けると、部屋の隅にある鳥籠の前に映は立っていた。


「フク、元気そうだな」


 フクと呼ばれた梟は、大きな瞳で映を見つめている。


 フクは、中学生の時、羽を怪我しているところを私と映で助けたシロフクロウだ。怪我が治って飛べるようになるまで保護するつもりだったのに、妙に懐いて飛び立とうとしないため、それ以来私の部屋で飼っている。

 梟だから頭の文字をとってフク。そう名づけたことに対して両親は安直だと笑ったけれど、映は可愛いねって言ってくれた。


「またフクと話してる」

「なんかフクって人間の言葉わかってる気がするんだよな」

「えー? そうかなぁ」


 当たり前だけど、私が何度話しかけたって相槌ひとつ返ってきたことはない。だからこそフクにだけは話せる本音もあるのだけれど。


「そうだ、夜ごはんも食べていくよね?」

「いや、悪いからいいよ」


 私の誘いというよりは最早決定事項に、映は首を横に振る。

 映の言うこと成すこと全部好きだけれど、こういうところは可愛くない。遠慮なんていらないのに。

 すると、その時。ノックもなく背後のドアがガチャリと開いた。


「ただいまー。日依、帰ってるの?」


 その声に振り返れば、パート帰りのお母さんがドアの隙間から顔だけ覗かせていた。いつ帰ったのか、階下で音はしていたはずなのに全然気づかなかった。


「あ、お帰り、お母さん」


 お母さんの視線は、部屋の奥の映を捕らえていた。途端、その表情がきらりと輝く。

 お母さんは映のファンだから、映を連れて帰るといつも喜ぶ。なんでもお母さんがハマっている若手アイドルに似ているらしい。


「あら、映くんじゃない」

「おじゃましてます」


 するとお母さんはさらに踏み込むようにずいっと首を伸ばした。


「ちょうどよかった。今日の夕食はすき焼きなの。映くんももちろん食べていくわよね?」

「え、そんな」

「奮発して豪華なお肉をたくさん買ってきたのよ。映くんがいたらお父さんも喜ぶわ」


 早口でまくしたて、映に有無を言わさず丸め込んでしまうお母さん。この家でお母さんの言うことは絶対なのだ。




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