過労で倒れた社畜OL、転生特典で「お家」をもらったので異世界の辺境を開拓してのんびりライフを満喫する~自由気ままに生きていたら可愛いスライムやモフモフたちに溺愛されて幸せです!~

藤村

第1章 ノドカ、異世界に降り立つ

第1話 ノドカ、異世界に転生する

 目が覚めると、目の前には女神様(それか天使様?)がいた。


 私は生まれてこの方、女神様も天使様も漫画やアニメでしか見たことがない。


 もちろん私以外の人だって実際に女神様や天使様なんてのは見たことがないはずだよ。


 それでも私には、なぜかその少女が人間よりも遥かに格上の存在なんだな~と認識できた。


「おはようございます、苗木和花なえぎのどかさん」

「は、はぁ。えと、おはようございます?」


 返事をすると、少女は嬉しそうに微笑みながら背中の羽根を揺らした。同時に、頭の上にある金色の輪がキラリと輝いた。


「お会いできて光栄です、和花さん。ところで――今のご自身がどのような状況か、理解できていますか?」


 う~んと、確か……。


「ああ、そっか。私ったら、働きすぎて倒れちゃったんですよね」


 そして目の前には女神様らしき美少女の姿。

 これはひょっとすると。


「もしかして私、死んじゃいました?」


 少女はしゅんと悲しそうな表情になって、ゆっくりと頷いた。


「まだまだお若いのに。やりたいことだってあったでしょうに。それなのに亡くなってしまわれるだなんて、ああ、なんて可哀想なのでしょう!」

「あの、悲しんでくれてるところ恐縮なのですが、私ってこれからどうなっちゃうんですか?」


 あまり悪いことはしてこなかった……つもりだし、できれば地獄には行きたくないな~。


 そんな私の考えを見透かしたかのように、少女は「ご安心ください!」と胸を張った。


「和花さんには二つの選択肢があります。一つはこのまま天国へ行くこと。そしてもう一つは、異世界へと転生することです!」

「……へ? 異世界、転生?」


 異世界転生って、ライトノベルとかでよく見るアレ?


 と言っても私、ふわ~っと知ってるだけでライトノベルなんて読んだことないんだケド……。


「説明しましょう。異世界というのは、和花さんがいた世界とは違う世界のことです。そこではモンスターがいたり、勇者様がいたり、魔法が使えたり……。ま、簡単に例えるとRPGみたいな感じですね~~」

「えぇ~。ていうことは私、魔王様とかそういうのと戦わなきゃダメってことですか?」


 正直、そういうのは嫌だなぁ。

 だって戦うのって痛そうだし疲れそうだし、それになんだか野蛮な感じがするじゃない?


 そーいうのはちょっとなぁ。


「いえいえ、戦う必要なんてありませんよ。だって平和な異世界だってありますから。そういう世界では、和花さんは自分のやりたいことをやりたいようにやればいいんですよ。ブラック企業みたいに時間に追われることもないですしね」

「えっ、なにそれサイコーじゃないですか! しますっ、私、異世界転生します!」

「ふふっ。和花さんならそう言うと思っていましたよ。では、転生特典を一つ選んでください」


 そう言うと、少女の右手がぽわぁあ……と光って、一冊の分厚い本がふわふわと私の手前まで漂ってきたよ。


 私はそれを手に取って適当に開いてみると。


「えーと。聖剣:エクスカリバー・マグナム。一振りでどんな相手の体力も0に出来るチート装備……って、なんですかこれ」

「文字通り、それはチート装備ですよ~? ちなみにその装備は「一振りで」なので攻撃が当たっても当たらなくても相手は一撃で死んじゃうんです、すごいでしょ~」


 物騒だな!

 ていうかチートすぎて滅茶苦茶じゃんか!


「うう、チート装備の項目はいいや。なんか別のは無いのかなぁ」


 ぺらぺらと捲っていくと、今度は「物件」というのが目に入ったよ。


 なんとなく興味を惹かれてしばらく眺めていると。


「あっ。ここ、私のお父さんとお母さんが住んでる家とおんなじだ!」

「あらまぁ。ご両親のお住まい、ちゃんと覚えてらっしゃるのですね」

「当然ですよ。子供の頃からずーと一緒に住んでた、思い出いっぱいのお家なんですから」


 二人のことを想うと、なんだか悲しくなってきたよ。


 親よりも先に逝っちゃうなんて、私ってばなんて親不孝な娘なんだろうか。


「お父さんもお母さんも、きっと悲しんでますよね」

「それはもう、深く悲しんでおいでましたよ。ですが人の親なれば当然の反応です。しかしご安心ください。お二人とも悲しんでこそおりましたが、怒ったり恨んだりはしていませんでしたから」

「え? 私、こんなに親不孝者なのに?」


 今にも泣きだしそうな私を抱きしめて、少女はそっと囁いた。


「お二人とも、こう仰ってましたよ」


 産まれてきてくれてありがとう。

 和花のお陰で私たちは幸せだったよ。


 もしも来世があるのなら、どうか幸せになってくれ。


「う、ううっ。ううううう。うわぁああああっ!!」


 私は脇目も振らず、ただただ子供みたいに泣きじゃくっていた。そしてその間、少女は私のことを優しく抱きしめてくれていたよ。


 私は大声で泣きながらも、心の中で強く決意した。


 お父さん、お母さん。

 私のことを生んでくれてありがとう。


 一緒に過ごせた時間は私にとっても宝物で、すっごく幸せだったよ。


「私、お父さんとお母さんの願いを叶えます。異世界に転生して絶対に幸せになります! だから……転生特典はこの「お家」にしてください!!」


 お父さんとお母さんと一緒に過ごした家。

 温かい思い出がいっぱい詰まった幸せの象徴。


 幸せな異世界生活を目指すなら、転生特典はこれしかあり得ないよね!


「分かりました。和花さんにはこの思い出いっぱいの家を授けましょう。それではどうか、お幸せになってください」


 直後、私の足元に光の魔法陣が現れて、少しずつ視界が薄くなっていった。


「あっ、あの! 一つだけ聞いてもいいですか!?」


 私は引っ張られそうになる意識をなんとか持ち堪えながら、必死になって少女に問いかけた。


 少女は笑顔で小首を傾げて、しっかりと私に目線を据えた。


「どうしてこんなによくしてくれるんですか? ですか」

「……っ!」

「いいですよ、答えてあげます。もうずーっと昔の話ですけどね。私も同じだったんですよ、和花さんと。だから、和花さんのような不遇な方を見ると、どうしても放っておけないのです。ただ、それだけですよ」

「うっ、うう……!」


 もうダメ!

 これ以上は意識を保っていられないよ。


 でも、これだけは言わなきゃ。


「あのっ! 女神様か天使様か分からないですけど――」


 ありがとうございます!!


 その言葉が届いたのかどうか、私には分からない。

 

 けれど。意識が薄れていく最中、少女の口元が僅かに緩んだのを、私は確かにこの目で見た。


 どうか届いていますように。

 そんな願いと共に、今度こそ私は意識を手放した。


#


 ノドカの転生から数秒後。

 女神は金縁の装飾が施された豪華な椅子に腰を下ろし、静かに笑みを零した。


「まったく。あんな純粋な感謝を向けられたらサービスしたくなっちゃうじゃないですか。本当は「家」だけが転生特典なんですけどね。ふふっ、特別に少しだけオマケしておいてあげましょう。ノドカさん。異世界での新しい生活、頑張ってくださいね?」

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