第28話 誘拐された話
「いやだっ、なにが起きてるのっ? ねぇ、ディーノ!」
携帯に向かって叫ぶが、電話は切れてしまい、ディーノの声は聞こえない。代わりにダイレクトメッセージが届いた。どうやら、とある場所を示した地図のようだ。つまり、ここに来い、ということか。
「一体、誰が……?」
そんなことを考えている場合ではない。ディーノが攫われたのだ。罠だと叫んでいたのはわかったが、罠でもなんでも、助けに行かなければ!
時計を見ると、もうすぐ十時。地図に示された場所は、川沿いにある古い倉庫のようだった。タクシーを呼べば、数十分で行けそうだ。大きく頷くと、急いで大通りまで戻る。しかし、平日の夜、この辺りを走るタクシーは少ない。
走る車を見ながらイライラしていると、目の前を通り過ぎた車が、少し先で停まった。ドアが開き、車から降りた人物が凛音に手を振る。
「……え? あれって」
「市原さん!」
見まごう事なき凛々しい姿。新海亜門だ。
「新海さんっ?」
「こんなところで、どうしました?」
亜門に聞かれ、そっくりそのまま返す。
「新海さんこそ、どうしたんです?」
「ああ、俺は得意先さんと食事会があって、その帰りです。今日は車だったので、先方さんを最寄り駅まで送ってきたんですよ」
「こんな時間まで……お疲れ様です」
ペコッと頭を下げる。だが、そんな話をしている場合ではない!
「すみません、ちょっと急いでいるので私はこれでっ」
くるりと回れ右をする凛音の腕を、亜門が掴む。
「こんな時間に、そんなに急いで……なにかあったのでしょう?」
「……えっと、まぁ」
視線を泳がせながら、曖昧に返答する。
「どこかに行こうとタクシーを待ってた。……ですか?」
「あ~……」
バレている。
「乗ってください。私が送ります」
「へっ? いやいやいや、それはちょっと!」
さすがに、上司の車に乗り込むわけにはいかない。ディーノを助けに行くためだという説明は出来ないのだから、尚更だ。
「いいから、さぁ!」
強引に腕を取られ、車へと押し込められる。車を確保できたことはいいが、相手が悪い。どう言えばいいのか……。
バタン、と運転席に亜門が乗り込み、シートベルトを付ける。凛音にチラ、と視線を投げ、静かに、言った。
「話したくないなら、話さなくてもいいんです。ただ、市原さんは急いでどこかに向かわなければならない、ということですよね? でしたら、私がそこまで連れて行きます。場所はどこですか?」
「新海さん……」
「私は、市原さんのお役に立てるのであればそれでいいんです。遠慮なく、言って」
そこまで言われ、凛音は覚悟を決める。
「……詳しいことは話せなくて申し訳ないのですが、急いでこの場所に行きたいんです!」
携帯の画面を見せる。女性が夜遅くに行くような場所ではない。きっと疑問に思うだろう。しかし、亜門は何も聞かずに「わかりました」と小さく言葉を発し、車を滑らせた。
なにも聞かないでほしい、と思っていた凛音だったが、実際なにも聞かれないと、それはそれで「何故聞かないのだろう?」と思ってしまう。矛盾しているが、人間とはそういう生き物だ。
「……なにも聞かないんですね」
沈黙に耐えられず、思わず口をつく。そんな凛音を、亜門が笑う。
「ククッ、市原さんは面白いな」
「へ?」
「話せないというから、聞かないのに」
「あ、ですよね……」
心の声を駄々漏らせすぎたようだ。
「気にはなりますよ? 市原さんがそうまでして向かう理由。まさか、恋人に会うため……ではないのでしょうね?」
「それは違いますっ」
速攻、否定する。
「それなら、良しとしましょう。あなたのお役に立てるなら、どこまででもお送りしますよ」
信号待ちで止まった車。凛音を見つめる、亜門の視線。
「あっ、あり……がとうございます」
心臓が、バクバクしている。
無理なことをお願いしているにも拘らず、理由も聞かずに動いてくれる亜門。その優しさに、思わずときめいてしまう。
ときめいて……?
ふと、自らの心に問うてみる。これはときめきなのだろうか? そもそも凛音はときめきのなんたるかなど知らない。友人たちの話や、漫画や小説で見聞きした“情報”として認識しているだけのこと。それを今、もし本当にそう“感じて”いるのだとしたら……
「マズいのでは……」
小さく口にする。
恋を知ってしまえば、魔法少女はそこで強制終了だ。
そこまで考えて、また気付く。そもそも「恋愛禁止」とは、どこからなのだ? 誰かを好きになった時から? 相手と両思いになった時から? 魔法少女は思春期真っ盛りになるパターンが主だろう。だから魔法“少女”なのだし。もし、誰かを好きになった時点でアウトだとするなら、歴代の魔法少女はあっという間に皆、強制引退だったのではないだろうか? しかし、聞いた話では、実際そこまでとっかえひっかえでもなかった……ように思う。
「やっぱ、セーフ……?」
これまた小さく駄々漏らせる。しかし、車のエンジン音のおかげか、亜門に突っ込まれることはなかった。
「そろそろですよ、市原さん」
言われ外を見ると、車はいつの間にか川沿いの真っ暗な道を走っていたのだった。
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