第22話 急展開の話

 ポニーの放った技をすべて弾き返し、現れたのは黒いマントを羽織った、いつものアモール・ヴァンデロス。


「アモール様!」

「何故ここにっ」

 四天王が慌てる中、ポニーは唇を噛み締め、ステッキを握り直す。


 来た。


 いよいよ、勝負を決める瞬間がやってきたのだ。ディーノの出世のため。そしてなにより、今までの十五年を無駄にしないための戦い。これはハートブレーカーとの勝負ではない。自らの人生を掛けた一世一代の勝負だ!


「ポニー・レイン=サンシャイン……」

 アモールに名を呼ばれ、表情を険しくするポニー。宿敵アモールとの対決は、今まで何度もしてきた。だが、今日のピリッと張り詰めた空気は、どこかいつもとは違う。


「アモール・ヴァンデロス……今日という今日は、白黒はっきりさせようじゃない。私、ポニー・レイン=サンシャインが、あなたのしてきた悪行全部、太陽の元に晒してあげるっ」

 トンッと地面を蹴って駆け出す。

「でやぁぁぁっ」

 ステッキを振り上げ、叫ぶ。

「ぷるぷるプリズム、きらりんソード!」

 みるみる間にステッキが大ぶりの剣へと変わる。ポニーはそれを軽々と操り、アモール目掛けて振り下ろす。


「エモーション・グレイヴ!」

 アモールが右手を伸ばすと、そこに暗黒の剣が現れる。

 ガキンッと二つの剣が合わさり、睨み合う。


「……なぜ今日はそんなにやる気なんだ、ポニー・レイン=サンシャイン?」

「それはこっちの台詞だわっ。なんで今日に限って、四天王なんか呼んでるのよっ?」

 キュインと剣を弾き、ポニーが飛ぶ。そのままくるくる回ると、地面に着地した。改めて構え直し、踏み込む。ザッザッザと地面を駆ける音、ヒュッと風を切る音、ガンッとぶつかり合う二つの大剣。


「私はあいつらを呼んではいない。やつらが勝手に来たのだ」

「あら、そう? じゃ、彼らの戯言も私を動揺させるための罠かしら?」

「……戯言?」

「ええ、私とあなたが結婚するんですってよっ!」

 ポニーがアモールの大剣を薙ぎ払い、攻める。


「はぁぁっ!」

 掲げた剣を振り下ろすと、今度はアモールがポニーの剣を薙ぎ払った。

「……何故彼らがその話をっ」

「知らないわよっ。あんたの部下でしょうが!」

 後ろに飛び退り、受け身を取る。


「そうか……私の言葉が信じられずに、のこのこ出てきたということか」

 ブンッと剣を空で薙ぐと、アモールが四天王の方に体を向ける。

「ヒッ」

「アモール様っ」

 何故か四天王が息を飲み、背中を小さく丸めた。


「勝手にここに来るなとあれほど念を押したはずだが?」

 四天王を睨み付けるその姿は、黒のオーラを纏い、背筋がビリビリするほど強い気を放っている。

「アモール様、しかし、これはアフェクタリアの今後を左右する大事な決断となります!」

「そうです! まさか本気でお考えではありませんよねっ?」

 詰め寄られ、その顔面には更に深い皺が寄る。


「私の決断だ! お前たちにとやかく言われる話ではない!」

「しかし、それではハートブレーカーとしての立場というものがっ」

「そうですぞ、人間ごときに愛を委ねるなどと愚かなことはっ」

「ええい、黙れ!」

 びりびりと空気が震える。


 傍で聞いていたポニーも、その気迫に飲まれそうになり、慌てて距離を置く。すると、ディーノが駆け寄り、ポニーの肩に乗った。


「どうなってんだよ、ポニー?」

「それは私が聞きたいわよっ。なんで久しぶりに登場した四天王と、親玉のアモールが揉めてるわけぇ?」

「それもだけどさ、ポニーとアモールが結婚する話が出てんだぞ? お前、あいつんとこに嫁に行くのかよっ?」

「んなわけないでしょっ」

 戯言にもほどがある。だが、その戯言を、何故かアモールは否定しない。

「ってことは、あいつが勝手に言ってるってことか……」

 ふぅ、と息を吐き出すディーノに、ポニーがハッと肩を揺らし、囁く。


「……ね、今なら一気に敵を殲滅させられる気がしない?」

「は?」

 確かに敵は、こちらに背を向けて話し込んでいる。今攻撃を仕掛ければ、気付かれずに技を仕掛け、ダメージを与えることもできるのかもしれない。だが……


「けど、それって卑怯なんじゃ……?」

 元来、魔法少女というものは、正々堂々と正面からぶつかっていくもの。隙を突いて背後から奇襲をかけるなど、前代未聞のような気がする。


「なに言ってるのよ! 私がずっと勝てないままだったのは、手段を選んでいたからよ! これは正義のための戦いなんですものっ、手段なんか選んでる場合じゃないわ。違う?」

 悪役側のような理屈を掲げるポニーを前に、戸惑うディーノ。


「さぁ~、やるわよぉぉ」

 手にした剣をステッキに戻し、少しばかり悪い顔で反復横跳びのようにステップを踏みながら、ハートブレーカーたちを見遣るポニー。しかし、事態はとんでもない方向へと進む。


 不意打ちを仕掛けるより前に、アモールがポニーたちの方を振り返った。そしてポニーをじっと見つめ、言ったのだ。


「ポニー・レイン=サンシャイン。もう少し先にと思っていたが、仕方ない。ここでハッキリさせておく」

「なっ、なによっ」

 構える、ポニー。


「私の妻になってほしい」


「……は?」

 それは、紛れもなくプロポーズなのだった。

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