第9話 怨霊


(夕花の野郎、実権はしっかりと握って財産も全て握って、俺は確かに表向きだけは社長だが、微々たる金を握らされ馬車馬のように働かされ、チョット遊べばとやかく口やかましく言われ、俺に何のメリットがあるというのだ。この口やかましい……もうとっくの昔に美しさの損なわれた、とうのたった鬱陶しい女が、息を吹き返さないうちに殺してしまおう。あの若くて美しい美智子と所帯を持つためにも夕花が邪魔だ!💢💢💢)


 こうして以前英明を殺害して埋めた倉庫に穴が掘ってあったので、そこに埋めることにした利信。夜で会社に誰もいなかったので、馬車で急きょ倉庫に向かい急いで埋める準備をして、穴に放り込んだ。


 するとその時気を失っていた夕花が息を吹き返し言った。


「お前さんナナッ何をするのですか?わわっ私はまだ……まだ……死にたくない。タタッタスケテ――――――――ッ!」

 断末魔の叫び声をあげ命乞いをした夕花。


 利信は必死だ。金は自由にならない。美智子との恋路を邪魔してくる。邪魔な夕花が目障りで仕方がない。慌ててスコップで土を思いっ切り夕花に被せて生き埋めにしようと懸命になっている。


 一方の夕花は必死で這い上がってこようとした。


「エイ邪魔だ。さっさと死ね!💢💢💢」

 そう言うとスコップで頭を殴りつけた。

 ”コツン”


「お前さんあれだけ愛し合って息子信幸まで儲けた仲じゃないか、命だけでも……タタッ助けておくれ」


「ええい邪魔だ!邪魔だ!死ね!💢💢💢」

 尚もスコップで頭を殴りつけ土を次から次へ被せ生き埋めにしている。


「おお😱……お前さんひょっとしてこの骸骨は英明では?」


 土も大半は被さりもう逃れようがない状態の行き絶え絶えの夕花が、死に逝く最期の行き絶え絶え状態で、最後の声を振り絞り言った。


「お前……やっと気づいたのか?わっはっはっは。そうさその通りさ。邪魔だから英明を殺害したのさ。あの時はお前も美しい女だったので、夕花お前と『日光繊維』が手に入る為だったら何だってするさ。だが、今じゃ只の口やかましいとうの立ったおばさん。邪魔で仕方がない。消えてもらおうじゃねえか!ワーッハッハッハッ!」


「タタッタスケ……」

 衰弱しきって、そこまで言うのが精いっぱいで、最後まで発することが出来なくて、それでも…生きていたかった夕花は、か細く命乞いをしたが、とうとう息絶え動かなくなってしまった。この利信と言う男は血も涙もない欲望の塊の卑劣極まりない男だった。



 可哀想に……あの倉庫には何百年もの間、英明と夕花の遺体が眠っていたという事になる。


 英明は、女の裸を見た快楽と風呂上がりのポカポカ温まった無防備状態のままで、まさかこれから恐ろしい事件が起きようなど思いもつかない。その隙を襲ったのは誰あろう警察官の経験を持つ利信だった。ピストルを持っていたので撃ち殺し馬に乗せ連れ去った。


 倉庫に着くと、そそくさと英明の遺体を埋める穴を掘り始めた。だが、英明は実は…かすっただけで死んではいなかった。恐怖の余り気を失っただけで、穴に投げ込まれハッと我に返り「ナナッ何を何をするんだ。ヤヤッヤメテクレ―――――――ッ!」と命乞いをした。


「冗談じゃねえや。てめえが生きいてもらっちゃーこちとら迷惑なんだよ」


 そう言うと這い上がって来ようとする英明を蹴り倒し穴倉に突き落とした。

「うるせぇ!死にやがれ!💢💢💢」

 

 狭い穴倉の中を逃げ惑う英明目掛けてピストルを乱射する利信だった。


 ”バーン“ ”バーン“ ”バーン”

「ハッ!お前は利信ではないか?何故この様な惨い事を……恨むぞえー」


 暗闇の中での犯行だったので利信だとは気づいていなかった英明だったが、これが最期の英明の怨念のこもった叫び声となった。


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


 利信は邪魔者夫婦2人を殺害して「日光繊維」と、若く美しく才女のお嬢様美智子と、束の間の幸せに浸っている。


「美智子私の妻になってくれるかい?」


「でも……社長には奥様が……」


「それがなあ……妻夕花が子供の教育や副社長の重圧に耐え兼ねて家を出てしまったのだよ。昨日電話が掛かって来て『疲れたので家には帰れません』そう言ってもう戻らないというから結婚しよう」


「わあ―嬉しい!本当に結婚出来るの?」


「当たり前じゃないか!」

 結局妻夕花は殺害されているので戻ってこない。利信の思い通りになったという事だ。


 こうして2人は歳の差25歳と言う年齢差をものともせずに結婚した。洋品店を愛知県に数十店舗展開する『ハナシマ』の社長も「こんな高齢の男との結婚は断じて許さぬ!」と、大層ご立腹だったが、日本有数の大企業の奥方になれたので仕方なく目をつぶった。


 新婚生活は利信にとって夢のような毎日だった。若くて美しい新妻の事が愛おしくて愛おしくて、今までの浮気癖もぴたりと止まった。


 だが、そんな幸せな日々にも異変が起こる。それはある夜の事だ。熱々の2人がベッドで愛し合っていると、美しい美智子が幽体離脱したかと思うと、寝室の天井付近に飛びあがり、それは一瞬で殺人鬼と化した夕花に変わり、顔つきも悪魔が宿った化け物のように髪の毛を振り乱し、青白い顔で口からは牙と血を滴らせながら襲って来た。


「よくも……よくも……私をあのような最も残酷な方法で殺してくれたなあ。許せぬ!💢💢💢死ね!」


「ギャッギャ――――――――ッ!タタッ助けてくれ――――――――ッ!」


「私を苦しめてくれたお礼をたっぷりとしてやろいじゃないか、うっふっふっふ!」

 そういうと、のこぎりを手に持ち首元目掛けて迫って来た。


 そして…このような状態は頻繫に起こるようになっていた。それも……必ずと言っていいほど夜になると美智子の体に異変が起こる。利信に殺された夕花の怨霊が、報復を開始する。


 寝ると同時に幽体離脱した怨霊が、美智子の姿を借りて夜の寝室の天井にスーッと飛び出して殺人鬼と化すのだ。


 ある時は包丁で、ある時はのこぎりで、人体を真っ二つにしようと迫って来る。ある時は熱い熱い焼けた火鉢を赤々とキンキンに焼き手に持ち、利信の顔と目を目掛けて天井から襲ってくるのであった。


「ギャッギャ――――――――――――――――ッ!」


「あなた……あなた……しっかりして下さいな!」

 遠くから聞き慣れた美智子の声にハッと我に返る利信だった。


「あなた……最近うなされていらっしゃるわね。どうしたというのですか?」


「それが……それが……恐ろしい夢ばかり見るのだよ。ある時は包丁で、首を切られ血が噴き出て、ある時はのこぎりで、人体を真っ二つにしようと迫って来る。ある時は熱い熱い焼けた火鉢を赤々とキンキンに焼き手に持ち、俺の顔と目を目掛けて天井から襲ってくるのだよ」


「あなた……お医者様に観てもらいましょう」


「イヤイヤ俺は普通さ。何ともないさ!」


 するとその時、あの優しく美しい美智子が、顔をこわばらせて恐ろしい言葉を吐いた。


「お前のせいで……お前のせいで……私はまだまだ……生きたかったのに命を絶たれてしまったではないか!💢💢💢許せぬ!たっぷりとお返しさせてもらうからな。ふっふっふ!」

 そうなのだ。愛する妻美智子に夕花の怨霊が乗り移ってしまったのだ。


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


 朝の東海テレビのワイドショーでアナウンサーのいきり立った金切り声が、画面越しに伝わってきた。

「昨日の午後9時過ぎに岡崎市の「鳥川ホタルの里 」付近の橋の上から田村陽子さん75歳が、何者かによって橋の下に突き落とされました。今現在も懸命な治療が行われていますが、予断を許さない状況だと言われています。全く酷い話です。あんな丁度「鳥川ホタルの里 」から帰路につく車でごった返している状況下、よくそんな大胆な行動がとれたものです。更には満点の星と、月明かりと、蛍の灯りに照らし出され、ハッキリと突き落とされる場面をこの目で見たという住民の訴えも判明しました。そして…何と…その映し出された人物とは女子高生か、女子大生だったというのです」


 実は…この事件は目出し帽を被った男が突き落とそうとしたので、女子高生が引き留めに入ったのだという事が分かった。決して女子高生が突き落としたのではなかった。


 そして…田村陽子さん75歳が殺害された要員の1つが、家賃滞納が原因だった可能性が出て来た。という事は202号室の柳田辰夫が、犯人の1人と言う事も十分に考えられる。


 だが、柳田辰夫は姿を消し消息不明となっていた。一連の重要参考人サイコパスAはひょっとしたら柳田辰夫と言う事も十分考えられる。この1年弱の間に悠馬の周りで起こる猟奇的殺人事件の数々。


 これらの事件は過去の埋蔵金泥棒一味の利信が巻き起こした残酷な殺人事件と、どのように拘わって来るのか?



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