微笑みの冷血

あのね!

第1話 美少年



「先生……夫に異常な言動が多く……どうしていいものか?」


「例えば……どのような言動が見受けられますか?」


「自分でダメだと分かっていても、いきなり奇妙なポーズをとる、不適切な場面で服を脱ぐ、例えば外で外食中に裸になろうとしたりするのです。重度の自傷行為(皮下組織の損傷を伴う)“切り傷”や舌を噛んでしまう癖、更には暴力行為、例えば子どもや親族への身体的虐待などです」


「こちらの精神病院に入院して様子を見たいのですが、どうしてお連れ下さらないのですか?」


「それが……最近は落ち着いていて全く何も起きなかったのですが、先だって私が眠っている枕元にやって来て、紐を私の首に巻き付け絞め殺そうとしたのです。以前にもそのような事があったのでベットの下にハサミを用意していたので、大事には至りませんでした」


「波があるという事ですね?」


「そうなのです。優しいときは異常なまでに優しい夫です。ですから……精神病院に入院して欲しいと言ったら暴れて泣く始末。どうにも出来ないのです!」


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


  高校3年の「洛陽学園高校」1の美少年水木悠馬は6月下旬に家族4人で、法事のため祖父母の家に出掛け、そこで…深夜何者かに侵入され寝込みを襲われ両親と妹は手当ての甲斐もなく命を落としていた。


 家族が未曾有の被害に遭い天涯孤独となった悠馬は、現在は祖父母の家に引き取られ愛知県岡崎市で生活している。


 悲惨な状態の悠馬ではあるが、超美形に加え更には成績優秀にしてスポーツ万能のパーフェクトボーイ。ミスター「洛陽学園高校」と持て囃されて行く先々に親衛隊と化した女子が紛れ込んでいる人気者だったが、不幸に見舞われ落ち込んでいた悠馬を見るに見かねて祖父母が引き取った。



 それでは…引き取られた祖父母を簡単に紹介しておこう。


 祖父母は共に愛知県岡崎市に住んでいて、岡崎市役所に定年まで勤務していたが、現在は退職して悠々自適な人生を送っていたが、そんな時に事件に巻き込まれ落ち込む悠馬を引き取ったのだ。


 そんな事件から僅かしかたっていないある日、余りの落ち込みに部屋にこもり切りの悠馬を心配した祖母が、食卓を囲みながら悠馬に話しかけた。


「悠馬明日蒲郡(がまごおり)のあじさいの里 に一緒に行こまい」

 

「本当に?良いよ」


「ようし……これで決まりだ」


 こうして…梅雨の合間の6月下旬に祖父母と悠馬で蒲郡のあじさいの里に出かけた。


 毎年、約10万人の来訪者が訪れるあじさいの里。日中は、遠くにきらめく三河湾を背景に色とりどりのアジサイを楽しむことができ、遊歩道沿いに約5万株のアジサイが咲き乱れる中でのあじさい祭り。夜間はライトアップされ、昼間と違った風情で楽しむことができて、運が良ければあじさいの里内にある「ほたるの宿」にて、神秘的な光に包まれるゲンジボタルの舞いを堪能できる。


 だが、残念ながらこの日はゲンジボタルを見ることが出来なかった。


「じいちゃん岡崎の「鳥川ホタルの里」なら蛍が見れるかもしれない 」

「そうだなあ。家に帰る途中にあるから立ち寄ってもいいな。悠馬も見たいか?」

「うん!絶対に見たい」

「おじいちゃんも見たいぞ。おばあさんはどうだい?」

「私だって折角出て来たんだから見たい」


 こうして…一路岡崎市に足を進め、岡崎の「鳥川ホタルの里 」に到着した。


 天然の「ゲンジボタル」が棲息する貴重な流域にやって来た3人は、空高く舞い上がるホタルもいるが、何と空には輝くばかりに星も瞬いていて、眩いばかりに輝く黄金色にキラキラ輝く光景と、余りの幻想世界に見入ってしまった。


 この場所は風が弱くて、湿度の高い日に特に多くみられ、黄金色の光が飛び交いホタルの光が乱舞する幻想的な風景が見られる圧巻の場所だ。


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


 朝の東海テレビのワイドショーでアナウンサーのいきり立った金切り声が、画面越しに伝わってきた。

「昨日の午後9時過ぎに岡崎市の「鳥川ホタルの里 」付近の橋の上から田村陽子さん75歳が、何者かによって橋の上から下に突き落とされました。今現在も懸命な治療が行われていますが、予断を許さない状況だと言われています。全く酷い話です。あんな丁度「鳥川ホタルの里 」から帰路につく車でごった返している状況下、よくそんな大胆な行動がとれたものです。更には満点の星と、月明かりと、蛍の灯りに照らし出され、ハッキリと突き落とされる場面をこの目で見たという住民の訴えも判明しました。そして…何と…その映し出された人物とは女子高生か、女子大生だったというのです」


「ええええええええぇぇええええええっ!😱どういう事よ俺たちが昨日見に行った場所じゃないか?」


 そうなのだ。何と……それは昨日の夜悠馬たちが、余りの幻想世界に見入って感動した「鳥川ホタルの里 」ではないか?



「鳥川ホタルの里 」の入園時間は通常期:9時〜17時(最終入館は16時30分)

11月1日~2月末:9時~16時(最終入館は15時30分)

※6月1日~25日は21時まで開館します。


 入園時間は上記に記されている通りだと、言う事は蛍の乱舞を見終わった観客の中に、ひょっとしたら犯人がいたかも知れない。



 こうして…警察は動いた。

「あの日観客の中に若い女性は大勢いたな。片っ端から当たって行こう!」


「本当ですね!」

 担当刑事は岡崎警察のベテラン刑事山上と新米刑事山田の山々コンビだ。


「また大胆な行動を取ったものだよな。それではまるで捕まえて下さいって言っているようなもんじゃないか?」


「本当にそうですよね。帰る時間も今は蛍見物でごった返しているっていうのによくそんな大胆な行動がとれたものですよね」


「それでも…突き落とされたという事は、その高齢者にも殺害されるだけの落ち度が有ったって事じゃないか?」


「金銭目的ではなさそうですね。何も盗まれていませんでしたから……」


「それでは……犯人の目的は何だ?」









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