第3話 帰路の雨

全ての授業が終わり、俺は急いで校門に向かう。するとそこには彩華が一人で待っていた。

「ごめん彩華、待たせちゃった?」

「ううん、今来たところだよ。それにクラスによって終礼が終わる時間は違うでしょ。」

噂のことを気にする素振りさえせずに帰路に向かう。

「ねぇ、大輝くん。びっくりしちゃった?」

彩華は上目遣いで振り向き意地悪そうに尋ねる。

「そりゃ驚いたよ。彩華がこの高校に来たって事実だけでも驚いたのに、急に教室まで来るんだから。てか入学式の時も…。」

俺が色々話していると空模様が悪くなってくる。

「やべぇ俺傘持ってきてねぇ、彩華走ろう。」

俺が彩華の方を向いた瞬間、彩華は俺の手を掴んで走り出す。

少し吹く風が草木を揺らし、その中を俺たちは駆けていく。まさに青春の一ページに相応しい風景、俺は昔感じた青春に浸ってしまう。

「なんか懐かしいね、小学生の頃は大輝くんと毎日一緒に走ってたよね。」

「そんなこともあったなぁ〜。」

気づけば俺は、昔の思い出に心を奪われてしまっていた。

ぽつぽつ…ぽつぽつ…

小雨が俺たちを優しく包み込む。

「とりあえずあそこの公園で雨宿りしよう。」

その公園は屋根付きの休憩スペースがあり雨宿りには最適の場所だ。

「ふぅ〜、土砂降りになる前に来れてよかったー。」

俺が一息ついていると、

「ねぇ大輝くん、聞いてほしいことがあるの。」

彩華が真剣な眼差しを向けて俺に言った。

「なんでも聞くよ。役に立てるか分からないけど。」

すると彩華は一呼吸おいて…


「私が大輝くんのことを好きって言ったら、大輝くんは私に好きって言ってくれる?」

彩華は少し声のトーンを落として、俺の目を見つめながら言った。

俺は言葉の意図が分からず反射的に、

「別にいいけど…。」

と返した。

「別に…言葉足らずだった?」

俺は彩華の不安気な表情を見て察した。俺は何を言うべきか迷ってしまい、何か言いたげな雰囲気を漂わせ続けてしまう。そして

「彩華の気持ちは分かった。…でも彩華とは付き合えない。彩華とは一生仲良くいたい、だから友達のままでいたい。それに彩華の知ってる昔の俺とは違って楽しさを共有できる人間じゃないんだ。」

俺は酷い男だ。俺を好いている幼馴染を”一生友達でいたい”という理由で振ってしまった。恋人になれば相手の知らない一面を知り、不満が募るだろう。でも友達でいれば擦れることがない。

「やっぱ私じゃダメだったかぁ。でも寂しいな、大輝くんの隣に私がいられないのは。」

彩華は強がっていたが、長い間そばにいたから分かってしまう。涙を堪えていることも、俺を本気で好きになってくれたことも、そして俺のために努力してくれたことも。

「彩華、ありがとな。彩華が俺のことを本気で思ってくれたのを知れて本当に嬉しかった。泣きたかったら我慢しなくていい。してほしいことがあったらできるだけ叶える。だからあんまり引きずるなよ。」

「大輝くん、そんなに優しくするのはずるいよ。」

彩華は俺の胸に飛び込んで泣き始める。俺は優しく頭を撫でる以外のことはできなかった。

数分経って彩華の情緒が安定すると、

「ねぇ大輝くん、明日と明後日の時間私にくれない?その時にもし気持ちが変わったらその時教えて欲しい。」

彩華は真剣な眼差しで俺を見つめる。その眼差しには今まで見たことのないほどの想いが乗せられていた。

俺は少し間を置いて、

「分かった。」

一言だけ言った。

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