灰墨紙を彩った鮮やかな虹
Assuly
第1話 灰色の世界
俺は毎日同じことを繰り返している。朝起きて学校へ行き、帰宅後、課題に時間を費やし寝る。何一つ変わらない生活に楽しみなどは存在しない。そんな中「生きる意味」とは何かを考えることが、いつしか日課となっていた。
いつもと変わらない寝覚めで俺は起床する。そして朝食摂り身支度を済ませる。その後いつも通り学校へ歩みを進める。家のドアを開けると、いつもと同じ景色が見える。少し雲のかかった真っ青な空、目を焼くような真っ赤な太陽。目線を下げると、桜の木々や色とりどりの花。視覚的な色は付いていても、今では灰色と化したように思える。
見慣れた交差点を右に曲がり少し進むと、錆のついた校門が見える。校門の手前には数名の教師と、「入学式」と書かれた看板があった。
「あぁ、そういえば今日は入学式だったか。」
俺は小声で呟いた。
入学式というのは立派な行事だ。だが日々を作業的に過ごしていた俺に入学式という概念はなく、ただの一日に過ぎないと思ってしまう。そう感じていることに気づいた俺は心の中で、
(去年より酷くなってるな。)
そう思った。
俺の世界が灰色に移り変わっていったのは一年半ほど前のことだ。あれは自分でも仕方ないと思っている。交通事故で両親を亡くし、祖父母に預けられた。そして祖父は二ヶ月後に、祖母もそれにつられて病気で亡くなった。俺から見る直系血族はたった三ヶ月未満でいなくなった。それは当時中学三年生だった少年には重たすぎた。
その結果、近くに住んでいた父の兄が養ってくれることになった。そこでは運良く大切にされた。だが親族を失った悲しみにより受験勉強は捗らず第二志望での合格となった。それが俺がこの高校にきた経緯だ。その後一年間は今のような生活を送っていた。だが今ほど色のない生活ではなかった。
それは幼馴染の与川彩華の存在だ。彼女は俺が落ち込んでいる時、彼女なりに慰め続けてくれた。彼女はおとなしい性格で、何か場を盛り上げるのが得意というわけではなかった。でも、俺は彼女の支えがあったからこそ様々なことへのモチベーションが保たれていた。
だが途中から彩華は顔を出さなくなった。それはおそらく受験勉強の影響だと思ってはいたが、それでも寂しいものは寂しかった。
校門を越えて高校の敷地に入ると、去年に似た光景が見えた。
「ねぇあの人かっこよくない?」
「ね、雰囲気いいよね。」
新入生の声が聞こえてくる。
俺は周囲からイケメンと持て囃され、中学時代から比較的モテていた。だが親族を亡くしてから、俺を知る人は俺から離れていった。それは俺を纏っていたオーラが薄れていき、輝きを失ったからだろう。
中学一年の春、俺に恋という概念が生まれた。”可愛い”とか”綺麗”ではなく、初めてその人と一緒に何かをしたいと思った。それからだろう、俺が自分を磨き始めたのは。身も心も磨き上げて中学一年の夏、俺は初恋の子に告白した。俺の中では不安がほとんどを占めていた。今まで交際経験がなく、モテる雰囲気さえなかった俺の初恋が叶うのかと。そしてその答えは、
「はい、喜んで。」
俺の初恋は見事叶った。そしてそれからというもの、彼女がいるのにも関わらず告白を何度もされた。当時は理解できなかったが、今思えば「モテる自分」を表に出せていなかったと分かる。初めてできた彼女との日々は幸せなものだった。だが所詮は中学生、交際は長続きせず、それから何度も出会いと別れを繰り返した。その頃から努力を怠り、俺のオーラは薄れていき徐々に現在に至る。
そんな俺に雰囲気を感じる女子がいることに正直驚いている。俺に目を向ける女子を横目に、俺は靴箱でクラスを確認する。
「一組か。」
クラスを確認してから、俺はすぐに教室へ向かう。
「大輝、今年もよろしくな。」
「あぁよろしく。」
俺が唯一気兼ねなく接することのできる中学からの親友、井町優吾が俺の席に押しかけてくる。
「大輝、新入生に見惚れられたな。流石に早すぎるぞ。」
「そんなこと言われてもなぁ、それにどうせ付き合うことはないんだから関係ないよ。」
俺は朝のことに突っかかってきた優吾を一蹴する。
「はーい、そろそろ席に着いてください。入学式について説明しますよ。」
担任の声と同時に、優吾を含める席を離れていたクラスメイトは席に着く。
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