異世界のレガシー
オクストキアン
第1話
暗闇……いや、正確には違う。混沌とした虚無のような感覚。不快な圧迫感が続いたかと思うと、突然、ぱっと光が差した。そして、寒さ。騒音。ひどい騒音だ。生まれたばかりなのか、耳がキーンと鳴っている。叫ぼうとすると、驚いたことに、喉から甲高い赤ん坊の産声が飛び出した。
なんだこれは……? これは、まずい……。
目を開けようとする。だが、何もかもがぼやけていて、周囲では巨大な影が動いている。声が聞こえる。一つは安堵に満ちた低く響く男性の声。もう一つは、疲れながらも計り知れない喜びがにじむ柔らかい女性の声。巨大で、驚くほど優しい手に包まれる。温かくて柔らかい布のような感触。
「元気な男の子だよ、ハニー。強い子になるさ」と男の声。
視界は最悪だが、がっしりした体格で、彫りの深い顔立ちの大きな影がぼんやりと見える。とにかく……でかい。その圧倒的な存在感は、混乱した意識の中でもはっきりと伝わってくる。
「まあ、見て……なんて可愛らしいの、ガレン」と女の声がささやく。優しげな顔が近づいてくる。明るい髪、晴れた空のような優しい瞳……その顔を見た瞬間、心に安らぎの波が押し寄せた。
「この子の名前、どうする?」
「レクソだ」と男が、先ほどよりも力強く言い切った。「この子の名はレクソだ、愛しい人よ」
レクソ。それが俺だ。いや、だったのか。頭の中は嵐のようだ。覚えている……別の世界のことを。本、スクリーン、テクノロジー、そして、何ともあっけない死(トラックだったか? 間抜けな転倒か? 都合よく記憶はぼやけている)。
そして今……これだ。赤ん坊。うめき声をあげ、自分の括約筋すら制御できない。ああ、間違いなく俺は転生した。いったいどんなラノベのテンプレに巻き込まれたんだ?
そんな皮肉な思考が頭をかすめた瞬間、視界に何かがチカッと光った。幻覚のように、半透明の青いスクリーンが浮かび上がる。俺にしか見えない。
【レクソ】
レベル:0
HP:10/10
MP:5/5
STR:1
VIT:1
INT:??(ロック中)
WIS:??(ロック中)
DEX:1
MAG:1
状態:新生児、意識覚醒中
よし、ステータス画面だ! こうでなくちゃな。INTとWISがロックされてる? まあ、当然か。赤ん坊の脳は、俺の大人の意識とまだ完全には繋がっていないんだろう。そしてこの状態……「意識覚醒中」。つまり、システムは俺がここにいることを認識しているわけだ。面白い。そして、少し不気味だな。
俺はおそらく母親だろう、その女性の腕に抱かれていた。彼女の微笑みは温かく、額にそっと触れられた瞬間、心地よいエネルギーの流れのようなものを感じた。「癒しの力を持つヒーラー」……その言葉がぴったりだ。
そして、父親——ガレンは、俺たちの傍に立っていた。視界がぼやけていても分かる、大きくてゴツゴツとした手。その手が、不器用ながらも優しく俺の頭を撫でた。元英雄か兵士……まさにそんな印象だった。強くて、守ってくれる。なんてとんでもない両親に当たったもんだ。
部屋は質素だが清潔で、木の香りと乾いたハーブの匂いが漂っている。明らかに田舎の環境だ。静かな村だろう。チート級の両親を持つ長男……お膳立ては完璧。これからが本番だ。無力な赤ん坊の体に大人の意識が閉じ込められたまま、幼少期を乗り切ること。食べて、寝て、そして……まあ、汚す。その繰り返しはじれったいほど遅いが、必要不可欠だった。
俺は、できる限り多くの情報を吸収しようと、すべてを観察した。
数週間が数ヶ月に変わる。視界は改善し、筋肉の制御も少しはマシになった。首を動かせるようになり、両親が(もし真実を知ったら腰を抜かすだろうが)可愛らしい赤ちゃんの喃語と認識しているような言葉も話せるようになった。
パターンが見えてきた。父はよく外出し、時には森の匂いや汗を漂わせて帰ってくる。あるいは裏庭で木剣(剣だ!)を振って稽古している。その動きの優雅さと力強さは、彼が並の人物ではないことを物語っていた。
母は俺と時間を過ごしながら、他の村人たちの怪我や病気も癒している。ハーブと、時折感じるあの柔らかな癒しの光を使って——。
俺のステータス画面に大きな変化はない。自然成長によるHPとMPの微増程度。問題は……これから、どうするかだ。
俺は、ファンタジー世界に転生した精神だけ大人の赤ん坊。可能性は限られているが、ゼロではない。
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