『そして、地獄は静かに口を開ける』

奈良まさや

第1話

『そして、地獄は静かに口を開ける』


プロローグ


夜の帳が下りた都会の谷間。

高層ビルとビルのわずかな隙間に、ひとりの男が倒れていた。


血に染まったスーツ。肺に刺さる冷たい空気。

慎太郎は、撃たれた胸を押さえながら、もう立ち上がれないことを理解していた。


「……俺の人生、どこで間違えたんだろうな……教えてくれよ、神様……」


かすれた声が、誰にも届かない夜風に溶けていく。


すると、不意に影が揺れた。

男の足元に、黒いブーツが音もなく降り立った。


「神様は多忙でね、地獄の住人ひとりにかまってる暇はないんだ。代わりに、僕が手っ取り早く連れて行くよ――地獄へ」


にやり、と笑ったその顔は、人でも神でもない。

悪魔――いや、死神に近い存在かもしれない。


慎太郎は、口元を血で濡らしながら、かすかに笑った。


「やっぱり地獄か……まあ、覚悟はしてたさ。でもせめて……最後に、答え合わせをさせてくれよ」


「めんどくさいなあ」

死神は大げさに肩をすくめた。


「でもまあ、こっちも暇つぶしにはなるし、いいだろう。ダイジェストで見せてあげるよ。君の人生をね」


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る