双子の旋律
@zixin
第1話
第一章 — 始まりの旋律
(Dai-isshō — Hajimari no Senritsu)
太古の昔から、この世界は戦いと鍛錬しか知らなかった。
戦争も殺し合いも存在しない。ただ、より強さを求める者たちの果てなき闘争が続いていた。
地方大会でも、世界規模の大会でも——戦うことは日常の一部となっていた。
この制度の起源は、ある古の伝説にある。
それは、異なる世界からの侵略——破壊のみをもたらす存在の到来を語っていた。
その時に備え、人々は世代を超えて訓練を続けてきた。
だが、時の流れは全てを薄れさせる。
伝説は子供向けの物語となり、鍛錬は遊びや誇示の手段へと変わった。
そして、真実は忘れ去られた。
ただ、伝説の終わりに囁かれた言葉だけが、かすかに残っていた——
それを知る者は、今やほんの一握り。
「双子が生まれし時…どちらも死なぬなら…災いが始まる。」
人々は忘れた。
世界は忘れた。
——そう、双子が生まれる、その瞬間までは。
その日の朝、空は形容しがたい奇妙さを湛えていた。
晴れているのに曇っていて、静かなのに、何かが近づいている気配を孕んでいる。
まるで、世界に告げているかのようだった——何か重大な出来事が起ころうとしていると。
けれど、その出来事が吉兆か凶兆かは、誰にも分からなかった。
人々は不安と疑念の中、翌日の報せに衝撃を受けた。
——ある女性が双子を身ごもっており、出産予定日は今日であるという。
この世界で双子の誕生は極めて稀であり、そしてそれは、常に悲劇で終わっていた。
一方、命を落とし、あるいは両方が生まれてすぐに逝く。
だからこそ、反応は二つに分かれた。
希望を抱く者。
関心を持たぬ者——「どうせ、いつも通りだ」と。
村の住民たちでさえ、そして双子の両親でさえ、心から祝うことはなかった。
ただ、何事も起こらず、夜が静かに過ぎてくれることを祈っていた。
日が暮れ、古より伝わる双子誕生の儀が静かに始まった。
慎重に執り行われるその儀式には、張り詰めた沈黙と緊張が満ちていた。
やがて、出産は終わった。
生まれた二人の姿が現れたその瞬間——
場にいた全ての者が、言葉を失った。
双子。
女の子。
どちらも——生きていた。
驚愕の色が、母の顔に、父の顔に、助産師に、立ち会った者すべてに浮かんだ。
誰もが、その光景を信じられずに、ただ立ち尽くしていた。
何百年ぶりかのことだった。
——誰も、死ななかった。
そしてその瞬間、誰も気づかぬままに、
「終わりの旋律」が——そっと鳴り始めた。
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