『転生公子、赤子から始める最強武道録』 ~武侠オタクの俺が異世界で天魔神教の公子になった件~

デスタナ

第0章:胎内目醒

第1話 『気づきの瞬間』

      第1章:胎内目醒


      『気づきの瞬間』




──暗い。


まぶたがあるのかも分からない。目を開いているのか閉じているのか、それすら曖昧だった。


けれど、何かが見えた気がする。

いや、見たというよりも、「感じた」に近い。仄暗く、赤みを帯びた水の中のような空間。音は濁り、感覚は鈍い。


ここはどこだ。夢か、死後の世界か。

そんな問いが浮かびかけて──そして気づく。


俺は“考えている”。


(……俺、生きてるのか?)


 


思考はぎこちない。まるで霧の中を手探りするようだった。

でも確かに、意識はある。


どうしてこんなことに?


問いかけと共に、記憶の奥から映像が浮かび上がる。


深夜の道。暗い横断歩道。飛び込んできたヘッドライト。


……そして、真っ白。


(……俺、死んだんじゃ……)


震えるほどの違和感と、納得のいかない現実。

ここが死後の世界でないとしたら──


新たな人生?

転生? 輪廻? 異世界?


そんな単語が浮かんでくるあたり、我ながらオタクだったんだなと苦笑する。

でも笑えなかった。


 


だって──


手が、動かない。

足も。口も。

声すら出せない。


この体は、異常なまでに小さい。まるで……赤ん坊?


いや、違う。もっと未熟。

皮膚が水に浸っているような感覚。一定のリズムで響く音──心音。それも二つ。俺のものと、もうひとつ。


(……まさか)


まさか、と思った。だが、それしか考えられない。


これは……胎内。

俺は母親の腹の中にいる。


そう理解した瞬間、恐怖も驚きもなかった。


ただ静かに、落ち着いていた。


そう──俺は、武侠小説が大好きだった。


異世界転生ものはもちろん、清朝風・中華風・気功・剣法・江湖(こうこ)──

そんな要素に取り憑かれた人生だった。


あの世界の中で生きてみたい。

そう願っていたことを、俺は今思い出した。


もしかして、これは──


(……夢が、叶った?)


 


その時、外から声が聞こえた。



「……冥潤……あなたが生きてくれるだけでいい。それだけが、私の願い……」



優しい声だった。少し疲れていて、それでも強くて、どこか泣きそうなほど切実な声。


(これが、母親……?)


鼓動が高鳴った。心のどこかが震えた。


まだ何も分からない。

自分がどんな立場で、どんな世界にいるのかも。


けれど──


確かに、何かが始まった気がした。


 


(だったら……この世界が、もしあの武侠小説みたいな世界なら──)


 


──俺は、この世界で最強になる。

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