AI小説の可能性を探ったら、結果ひどい目にあった

すちーぶんそん

第1話 ニンゲンの敗北




『芥川賞作家がAIを用いて小説執筆』なるニュースを見かけた。


 ずうっと気になっていたAI。

 なんか最近すごいらしいとだけ知ってたAI。


「やってみたい……。すごく遊んでみたい」

 センセーショナルなニュースに釣られ、唐突に沸いた興味。暇が生んだいきなりの好奇心。


 そして、思い立ったが吉日。とばかりに、さっそくスマホのアプリをダウンロードしてみることに。


 しばらく待つ間も、気持ちはまだ半信半疑だ。 

 AIとは、さぞかし素晴らしいらしい。でも、 

「こんな簡単に? しかも無料でできちゃうの? ……すぅごい時代じゃん」



 そうして起動したAI。CHAT GPT。



『質問をしてみましょう』


 あらぁフランク。そして説明文一切無し。そこが非常に気に入った。


 何か文章を打ち込めば、それに応えてくれる様子。これなら機械音痴の私でも遊べそうだ。


「ではさっそく」



 私:リンゴに関するクイズ問題を出題してください。


 AI:もちろん!


 そしてするすると打ち出されるお返事の文章。


 驚いたのはその速さ。早い事、早い事。


 あっという間に、えっへん、できました。と、胸を張るAIちゃん。


 そこに表示されたのは、『初級クイズ』、『中級クイズ』、と、小学生向けのリンゴの色や品種に関する簡単な問題。


「……普通に便利じゃん」

 でも、あくまでも子供向け。


「ふむ」


 そして迎えた『上級クイズ』


 Q リンゴには「〇〇が一日一個で医者いらず」ということわざがありますが、〇〇に入る言葉は?

 A.レモン B.みかん C.リンゴ D.ナシ


「…………へ?」


 呆け。


 じょうきゅう? これがぁ? ……嘘ぉ。


「なぁにこれぇ。俺のAIちゃんが全然やる気ないんですけどぉ……」


 ぐすん。パチモンつかまされた。これで作家先生はどうやって小説なんか書いたんだ? 天才作家あらわるの巻! はやっぱり嘘なの? 全然楽しく遊べないんですけどぉ!!



 私は、悲しい気持ちでスマホの画面をしばらく見つめていた。

 一体なにがいけなかったんだろうか? 傲慢? 増長? タダで遊び倒してやろうというスケベ心?


 ヘソ曲げちゃったAIちゃん。聞いてた噂と全然違う……。

 でも、なんで?


 はっ!


「これ、もしかして……」


 心に浮かぶのは、『馬鹿には見えない服』の教訓。


「まさか見透かされてるのか? 俺にとっては上級だろって事ぉ?」



 いやいや。そんなはずは無い。

 確かに出会って一発目で「リンゴにかんするクイズだして~」は、馬鹿っぽく思われても仕方がない。

 でも、世間様が絶賛するAIちゃんなら、さすがに社交辞令を弁えてる。


「まだ俺のバカは見抜かれてねぇだろ……。さすがに早すぎる」


 そして、真面目に考えてみる。AIちゃんの意図を。


 なぜこれが上級問題なのか?


 普通に読むと、「リンゴには――」と、あることから、まず回答者に対してリンゴにまつわるクイズである事を印象付けている。

 そのうえで、回答の一つに『リンゴ』を用意することで、「間違いない。答えはリンゴ」と、飛びつきたくなるいかにもな文章構成。


 ってことは……。


「あぁ。ひっかけ問題なのかぁ……」


 そもそも私は「一日一個で医者いらず」ということわざを知らない。

 だから、しれっと「リンゴには、」なんて言われれば、いかにもありそうだぁ。と、思っちゃうことを、きっとAIちゃんはニヒヒとほくそ笑みながら期待していたんだろう。


「あぶないとこだった」


 回答候補のに「リンゴ」を持ってくるあたり、いじわる問題にしても手が込んでる。


「じゃぁ答えは……」


 梨は、たぶん違いそうだ。

 となると、レモンかミカン。


「どっちだろう?」


 一番目に正答を置くだろうか? ……置きそうだ。実に置いてきそうだ。

 なぜならAIちゃんは意外と心根が腐ってるから。


 リンゴクイズと投げて置いて、答えは、一番のレモン。


「え? 汚いって? あたしクイズってわざわざヒントまであげたじゃないですか。プププ」


 AIこんのやろう……。


「やるじゃねぇか。ずいぶんやってくれるじゃねぇか」

 世間様が驚くのもうなずける。はじめましてのあいさつ代わりに一発カマしてきやがるとは。



「答えはレモンじゃぁああああああああああ!!!!」


 うりゃああああ!! 大人をなめるんじゃねぇ!!!



 そして「答えが気になるときは教えてくださいね!」との、AIちゃんのあおりの文章に返信する。



『答えを教えてください』と。


 それに応えてAIちゃん。「もちろんです!」


 上級クイズの答え。






 正解は……、



 C.リンゴ です。




「ぴょ?」




 なんでぇ……? 



 ……やられた。まさかの『ひっかけひっかけ問題』



 間抜けが見つかったようですね。と、AIちゃん。そうは言ってこないけど、内心絶対そう言ってるAIちゃん。



 上級クイズ。それは、馬鹿には答えられないムズカシイ問題。



「うッ……ううう。あんまりだぁ……」



 回答の解説に『「An apple a day keeps the doctor away.」ということわざがあります』と表示されていた。

 つまり、『上級』の意図は、この英文を知っている人だけは正答できます。とのこと。


 Q リンゴには「〇〇が一日一個で医者いらず」ということわざがありますが、〇〇に入る言葉は?


 A レモン!


 解説 仕方ないですよ……。英語でしたし。


「しかも、なぐさめられちゃったぁ……」


 ヨシヨシ。までされて心がポキン。



 私はそっとスマホを置いたのでした。




 ここまでの結論:小説執筆におけるAI活用なんて補助輪もあやしい。つまり、芥川賞作家の先生は話題作りのブラフであって、たぶん自分でほとんど書いてそう。

 あと、AIちゃん性格悪すぎ。


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