自業自得 〜元カレを裏切った美女の末路〜
@flameflame
前編:完璧な私の選択
私の名前は桐谷美琴。十八歳、青嵐大学の一年生。
鏡に映る自分を見つめながら、私はいつものように満足感に浸っていた。整った顔立ち、透き通るような肌、誰もが振り返る美貌。高校時代から「学園のマドンナ」と呼ばれ続けてきた私にとって、大学生活は新しい舞台でしかない。
「美琴、今日も綺麗だね」
演劇サークルの部室で、先輩の鷹取焔が私に微笑みかけた。焔先輩は三年生で、サークルの看板俳優。黒い瞳に意志の強さを宿し、整った顔立ちは多くの女子を魅了している。
「ありがとうございます、焔先輩」
私は上目遣いで答える。高校時代なら、こんな風に男性と話すことはなかった。なぜなら、私には透がいたから。
時雨透。私の高校時代の恋人で、今も同じ大学に通っている。生徒会副会長だった彼は、知的で冷静で、三年間私を一途に愛してくれた。周りからは「理想のカップル」と言われていた。
でも、大学生活が始まって気づいたことがある。透は安定しているけれど、刺激がない。予想のつく反応、変わらない日常。高校生の恋愛としては完璧だったかもしれないけれど、今の私にはもっと相応しい人がいるのではないか。
「今度の学祭の演目、君にヒロインをやってもらいたいんだ」
焔先輩の言葉に、私の心が躍った。
「本当ですか?」
「君以外に考えられない。美しさだけじゃなく、演技力もある。完璧なヒロインになれるよ」
透なら、こんな風に私を褒めることはない。彼はいつも「美琴は美琴だから」と言うだけ。でも焔先輩は違う。私の価値をきちんと理解してくれている。
「でも、時雨君とは上手くいってるんだろう?」
焔先輩が少し心配そうに尋ねる。
「透とは...まあ、安定してますけど」
私はため息をつく。
「安定か。それは恋愛じゃないよ、美琴。君のような美しい女性には、もっと情熱的な恋愛が似合う」
焔先輩の言葉が胸に響いた。そうだ、私にはもっと相応しい恋愛があるはず。
その夜、透とカフェで会った。
「学祭の準備、大変みたいだね」
透は文芸サークルに所属していて、いつものように小説の話をしている。
「うん、でも楽しいよ。焔先輩がヒロイン役を任せてくれたの」
「そうか。頑張って」
それだけ。透はいつもそう。私の話を聞いても、特別な反応を示さない。嫉妬も心配も見せない。
「透、もしかして私のこと、どうでもいいの?」
「そんなことない。美琴は大切だよ」
でも、その口調は平坦で、感情が籠もっていない。
帰り道、私は考えていた。高校時代の私は、透の安定した愛情に満足していた。でも今は違う。焔先輩のような情熱的な男性に惹かれている自分がいる。
そして、ついにその日が来た。
「美琴、君は本当に美しい」
練習後、焔先輩と二人きりになった部室で、彼は私の手を取った。
「焔先輩...」
「時雨君は君の本当の価値を分かっていない。君にはもっと相応しい人がいる」
彼の瞳が私を見つめている。透の瞳とは違う、情熱的な眼差し。
「でも、私には透が...」
「彼は君を愛しているのか?それとも、ただ所有しているだけなのか?」
焔先輩の言葉が胸に突き刺さった。確かに、透は私を愛しているというより、当たり前の存在として扱っている。
「私、混乱してます」
「混乱するのは当然だよ。君は今、本当の恋愛に目覚めようとしているんだから」
そして、焔先輩は私を抱きしめた。透には感じたことのない、激しい感情が私の中に湧き上がった。
その夜から、私の生活は変わった。透には気づかれないよう、焔先輩との関係を深めていった。部室での二人きりの時間、学祭準備という名目でのデート。
「美琴、君は俺の運命の人だ」
焔先輩の言葉に、私は完全に心を奪われていた。
透への罪悪感?最初はあった。でも、焔先輩が言うように、透は私の本当の価値を理解していない。三年間も付き合っているのに、結婚の話一つしない。将来への具体的な計画も示さない。
「君は美しすぎる。時雨君には勿体ない」
焔先輩の言葉が、私の罪悪感を打ち消してくれた。そうだ、私にはもっと相応しい人がいる。焔先輩のような、私の美しさを心から理解してくれる人が。
学祭まで一週間。私は決意を固めていた。透にすべてを話して、きちんと別れよう。そして焔先輩と新しい恋愛を始めよう。
「透、話があるの」
学祭の前日、私は透を呼び出した。いつものカフェで、いつものように向かい合う。でも今日は違う。
「実は...」
私は深呼吸する。
「私、他に好きな人ができたの」
透の表情が一瞬止まった。でも、彼はすぐに平常を取り戻す。
「そうか」
それだけ?もっと驚いてほしい。怒ってほしい。苦しんでほしい。
「その人と...もう関係を持ってる」
今度こそ、透は動揺するはず。でも、彼は静かに頷いた。
「なるほど。それじゃ別れよう」
「え?」
私は拍子抜けしてしまった。もっと修羅場になると思っていた。透が泣いて謝罪を求めるか、相手が誰か問い詰めるか。
「誰なの?相手は」
「焔先輩」
「鷹取焔か」
透は小さく笑った。
「美琴らしい選択だね」
「何それ、馬鹿にしてるの?」
「していない。君は美しい人を選ぶのが得意だから」
何か違う。私が描いていた別れのシーンとは全く違う。透はあまりにも冷静で、まるで他人事のように私の話を聞いている。
「三年間、ありがとう」
透は立ち上がって、私の頭を軽く撫でた。
「幸せになれよ」
そして、彼は去っていった。
私は一人、カフェに残された。なぜか、胸の奥がざわざわしている。もっと劇的な別れになると思っていた。透が必死に私を引き留めようとして、私がそれを振り切って新しい恋愛に進む、そんなシナリオを描いていた。
でも現実は違った。透は私を手放すことを、あっさりと受け入れてしまった。
「美琴、どうしたの?」
焔先輩が私の隣に座る。
「透と別れた」
「そうか。辛かっただろう」
「うん...」
でも、辛いのは別れることではなく、透の反応だった。なぜ彼は、もっと私を必要としてくれなかったのか。
「これで君は自由だ。俺たちは正々堂々と恋愛できる」
焔先輩の言葉に、私は微笑んだ。そうだ、これで良かったのだ。透のような退屈な男性より、焔先輩のような情熱的な人の方が私には相応しい。
でも、心の奥で小さな声が囁いていた。
本当に、これで良かったのだろうか。
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