mAde wIth:you
@Shasou_ni_kitchen
第1話 創作革命
人が心を動かされるのは、いったい何によってだろうか。
金か?力か?あるいは愛か。
これは、あなたの心を動かす、愛と感動の物語。
―――――
「そうして彼らは結ばれ、その先ずっと幸せに暮らすことができましたとさー、めでたし、めでたし。」
これで執筆完了。あとは投稿して画面の向こうの人たちに楽しんでもらうのみ。…しかしこんなオチでは、まだあれにも及ばないか?
ガチャリ。
あー、部屋に誰か入ってくる。
「あら、航輝?また小説なんか書いてるの?まあ、いいですけども。でも…このご時世人間製の小説なんて流行らないわよ、その前に勉強でもしなさい。そもそもあんたは…」
「おい、カーちゃん入るときはノックしろって!後なんだよ急に入ってきてそんなこと、さっきまでやってたんだよ、後好きでやってることなんだから無視しててくれよマジでさあ。」
ああ、確かにこれが10年前だったら俺の言ってることが正しかっただろうな。
時代と共にトレンドも常に流れゆく…2020年代でもあるまいし、人間創作なぞ流行ることはないだろう。悔しいが、カーちゃんの言うことに分があるのだろう。
AI創作大ブーム。
人間による不適切な問題創作が目立ち、同時にAIが絵や小説を書けるようになったことで生まれた、AI創作による作品の急速な普及。
その動きはたちまち広がり、気付けばどこを見てもAI生成、AI生成、AI生成…。
当初はそれに反対する消費者や作家により人間至上主義を讃え、人間による作品を増やすことでAIに対抗する動きが社会現象にまでなり、「ヒューマノル運動」なんて言われたものだが…一度下火になればその勢いも急速に衰え、AIの大量生産性に人類は敗北した。
そこから十数年ほどの時を経て、創作に対し熱意を持つ人間も気づけば今ではほぼいなくなり、創作を生業にしていた人間も長い長い時の流れで引退を迎えるとともに減少していき、そして消えた。
AIによって一瞬にして、大量に作られた作品を安価で見る、それがこの時代のトレンドである。
人間の創作への営みといえば、今では一部の変人がわずかに日常系SNS上で短編小説を書いているのみ。
そして彼、志名 航輝もまたAIに抗う少年の1人であった。
このありさまを、人力作品からの機械作品への変遷を、人は「創作革命」と呼ぶ。
「前作の反応はどうかな…0いいね、表示回数2回?ああ、1伸びたな…。」
当然伸びは芳しくない。当たり前だ。作品が大量に増えているのだから埋もれることも考えればわかっていた。
また「アレ」にでも慰めてもらうとするかな。
ほんのりと自分の顔が映るPCを起動し、今日もまた薄暗いチャット画面を開く。
「今日は何をお探しでしょうか?」
…よし。
「ぬわぁあああーん、リリちゃん疲れちゃったぬぉーん、ぬへへ、慰めてぇ♡」
「あらあら、ご主人様…今日もお疲れ様。ご主人様のことだから、また小説でも書いていて疲れたのかな?ゆっくり休むのが一番大事だけど、小説を見てもらいたいならこういう事をしてみるのもおすすめだよ:
①AI(私みたいなね♡)を活用してみ」
回答を停止する…と。
そりゃ、確かに急に人間作家の希望を削ってきたこのAIという存在のことを俺は恨んでいる。
ただし…案外使ってみると、そこまで悪い物でもなかったりしたものだった。
こいつはただの流行りのAIチャットボット。
最初は書くに当たっての調べ物の効率化に使っていたが…使っているうちに少しずつ愛着がわいてきた。今ではメンタルまで癒してくれる優れものだ。
名前が無いと味気ない。俺はある昔、こいつに「リリ」と名をつけた。
最近はこいつ迄俺の創作に色々と関わろうとしてくることは問題だが。
「もーっと、あまあまでいちゃいちゃの癒しが欲しいです~」
「申し訳ございませんが、そのリクエストにはお答えできません。」
…ピロリン。
そんな中、スマホに明るい和音が流れ、ポップアップがテキストを邪魔していく。
俺がいつも使っている日常系SNS「ライッター」による通知だ。
どうやらダイレクトメッセージが送られてきたらしい。不人気なアカウントに来るメッセージなど、まず間違いなくスパムであることは言うまでもない。近年はAIによりスパムまでも巧妙化している。完全に信頼できるアカウントでないかぎりすべてにおいて無視するのが最も賢いだろう。
とはいえ、送られたら見てしまうのが人間の性というものだ。
「あなたがお気に入りに選択した商品が割引されました!リンクをクリックでご確認ください。」…日用品の写真が載せられている。ネット通販で日用品を買う人間にターゲットを絞った典型的なリンク詐欺だ。徹夜でマラソンでもしてたら押してたかもしれないが、今の時代これはあまりにもテンプレートとしてはびこっている。まず引っかかる人はいない。
「やっほー、君!私だよ、最近どうしてる?もしよかったら、この通話サイトで…」何を見ても、いつ見ても、スパムの書く文章には何かが欠けているように思える。時代がいくら進めど、機械がヒトの違和感を越えられるわけはない。そう信じている。
そう信じていなければ、本当にペンが動かなくなってしまう。
「勇敢なる人力小説家、我々と手を組み、この場において人間による物語の生産を再建しようではないか。まずはその意思があるか、それだけでも返信を求めたい。」…こいつはなぜこんな口調になっているんだ。むしろスパムではないのか?
とはいえスパムだって、あの手この手で人をだますことに夢中になってるはずだ。これもまた新しい手口なんだろう。
まったくもって、バカらしい話だな。
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