MoA:Rank2「vsシュガーソイル」

ごきげんよう、ドミナント。

……

まあ、愚妹がどうこうしたところで、この演算空間の主導権は私にあります。

それに、記録から再現された特異思考体が首を突っ込んだところで、あなたの強さに瑕が付くわけでもないでしょう。


次の相手はRank2、試作TA“C.C.S.S.”

識別名“シュガーソイル”


彼女は廃星ネレイデスに自然発生した特異思考体であり、三千世界の残滓である“本物”を求めて侵入者たちを始末していました。

戦士たちの無念が集約して生まれた存在故か、極めて戦闘能力が高く、そのTA操縦技術は想像を絶する領域にあるとされています。


以上となります。

……

何にせよ、あなたは私から逃げることは出来ません。

強くなりすぎたことを……深く、後悔なさい。






















『聞こえますか、マイグラント。

 件の対抗策、ですが……

 シルヴィアは恐らく、“MoA”を制覇したあなたを撃破しに来るでしょう。

 当初の計画では、Rank1となったあなたの意識を完全に掌握し、それを体系化して特異点の発生のコントロールを行う予定だったはずです。

 ですが今は、私の手によってあなたの意識は彼女の完全な支配下からは脱しています。

 つまり、あなたを再び完全に支配するためには、この演算空間であなたを討つ必要がある。

 ……簡単に言えば、シルヴィアを打倒するのが対抗策です。彼女は私の姉とも言える存在ですが……私と同じく、さほど戦闘能力に秀でているわけではありません。

 無論、この空間の支配者というわけで、様々な要素があちらに味方するでしょうが……

 こちらにも、私が用意しておいた切り札があります。

 今はまだ、シルヴィアに悟られぬためにお教え出来ませんが……

 こほん。

 とにかく今は、Rank2、シュガーソイルの撃破に集中しましょう』


 























 エンドレスロール サハスララ頂上

「君、凄く濃い臭いがするねえ……?」

 灰に覆われた巨塔の頂上で目覚めると、どこからか声が聞こえる。

「本物……いや、違うか……」

 空の向こうから錨のような造形の機影が接近し、間もなく猛スピードで突進してくる。軽く後方へブーストして躱すと、それは人形態に変形してブレーキを掛け、全身から黒い蒸気を発して立ち上がる。

「濃くて、臭くて、ねっとり、ぶりゅっと奥から出てくる、その覇気……

 君は部外者だね。ただ、三千世界の物語を眺めてた狂人ちゃんだ。

 心の底から、戦いが大好きだったんだね」

 大柄なTA……“C.C.S.S”から、外見に見合わない可憐な声がする。

「逝かせてあげるから、ぼるってたっぷり出してね」

 右腕を伸ばし、前腕部に装着された二連装バレルをこちらへ向けてくる。シュガーソイルが今にも仕掛けようとしたところで、こちらの隣にフィリアが着地する。

「間に合いました、マイグラント。

 今回も協力します」

 シュガーソイルはフィリアの姿を捉えると、玩具のような軽い笑い声を上げる。

「カッ……アハハッハハハ!みーつけた、ルナリスフィリア!」

「ん……?」

「智慧の膿は焼き尽くしておこうね……!」

 シュガーソイルは背部ユニットから黒い炎を帯びた蝶々たちを排出し、ミサイルのように飛ばす。フィリアが背後へ飛びながら右腕の異形の銃器のチャージを開始し、蝶々はフィリア目掛けて飛んでいく。そのままシュガーソイルは瞬間移動し、こちらへ接近しつつバレルから黒炎を噴出してブレードのごとくし、右腕から斬り掛かってくる。三倍近い体格差によって、シュガーソイルは斜めに飛びかかるような姿勢になっており、左右交互の振りを背後へのブーストを連続して躱し、続けて両腕を頭上で交差して一気に踏み込んでX字に切り裂いてくる。右に大きく避けながら振り終わりに接近して左腕の強化パイルバンカーをノンチャージで当てにかかるが、彼女の全身を囲うように形成されている球形のシールドに阻まれる。シュガーソイルは即座に瞬間移動で後退し、中継地点とした空中で蝶々を撒き散らし、チャージを終えたフィリアが移動先目掛けてエネルギーの奔流を撃ち込む。確かにシールドを捉えたが、さほどその勢力を削れているような気配はない。

「偽物の修羅に、本物の智慧……えへへ、運命の悪戯だとしても……面白いね?」

 シールドを整波しつつ両腕を向け、ホバー移動で右に逸れていきながら二連装バレルから黒炎球をフィリアへ連射する。フィリアは同じように右に動いて黒炎球を避けつつ、左腕の爆導索を回転させて避けきれないものを撃ち落とす。こちらはそれを横目にシュガーソイルへ全速力で突進し、速度を乗せながら三連装ショットガンを撃ち込む。赫々たる炎を帯びた散弾がシールドに衝撃を与え、右肩の二連四連装ミサイルを斉射して追撃すると、彼女はフィリアへの連射を中断しながら即座に右のバレルから黒炎を噴き出し、巨大なバーナーのごとくして前方の地表を薙ぎ払う。出力と巨大さから詰めるのを断念して回避に専念し、黒炎が通り過ぎた軌跡から巨大な火柱が上がる。後隙を狙っていたフィリアの左肩のレールキャノン、そこから射出された電撃が火柱に阻まれて相殺される。シュガーソイルは瞬間移動を絡めてこちらへ肉薄し、体格差を活かした踏みつけから、避けたところに振り被っていた左ブレードを薙ぎ払う。高度を上げてどちらも避けたところへ重ねて右ブレードを振り上げて追撃し、再び軌道が爆発する。振り上げに合わせてこちらは右斜め前方へ飛び出し、シュガーソイルの至近距離で胴体部を連結し、生命エネルギーと赫々たる炎、それに淵源の蒼光を混ぜ合わせた衝撃波を解放し、シールドを相殺して剥ぎ取る。シールドが無力化された反動でシュガーソイルは一瞬硬直し、そこへ狙い澄ましたエネルギーの奔流がフィリアより届き、撃ち抜いて機体を押し込む。

「えへ……なんて、なんて、なんて……」

 シュガーソイルは押し込まれるままに後退しながら、慣性をつけて斜め後方へ変形しながら飛び立ち、塔を周回するように飛び回る。

「なんて無垢で可愛らしいんだろうね!」

 空中で幾度か加速して瞬間移動し、その数だけ黒炎で象った分身を作り出し、フィリア目掛けて突貫する。驚異的な速度と入射角調整によって、機動力に特段優れているわけではないフィリアは五体の分身の内、二体の突撃を受け、怯んだところへ本体の一撃を受けて吹き飛ばされる。そのままシュガーソイルは上昇し、人形態に戻りながら両腕を突き出し、そこから極太の熱線を繰り出してこちらを狙う。凄まじい威力と命中精度だったが、その威力ゆえなのか照準の追尾と射角が甘く、下へ潜るように全速力で動くとすぐに逃れ、シュガーソイルが射撃を中断しながら瞬間移動を二度行い、地表スレスレに移動してから中空へ大きく後退し、そして今度は人形態の分身を残し、それぞれが左右のブレードをこちらへ振って消え、二体目の振り終わる直前に瞬間移動で詰めながら身体を捻り、右ブレードで縦に薙ぎ払う。敢えて攻撃範囲を狭めて虚を衝くような動きに、上昇で対応しようとした動きを狩られて大きく削られる。だが大振りな動きの代償に、後隙を肉薄したフィリアのドロップキックで咎められ、追撃で爆導索の薙ぎを受け、放出されたプラズマ球の爆発を受ける。シュガーソイルはすぐに後退から二連続の瞬間移動で逃れ、一旦着地して仕切り直す。

「でも確かに感じるよ、君から。

 君の力、闘志、覚悟……その何もかもが本物で、けれど君は怨愛の修羅じゃない。

 名前の無い渡り鳥。

 まさしくマイグラントってわけだね」

 シュガーソイルは機体の各部の装甲を展開し、闘気のように黒炎を帯びる。

「いいよぉ、そうでないとね。

 人は進み続けないと……

 全部を焼き尽くして、何も残さずに進まないと!」

 右腕を向け、一歩ずつ踏み寄りながら熱線を撃ち出し、フィリアが右へ飛んで避けながらレールキャノンを放つ。瞬間にあちらも右へ瞬間移動して避け、その場に分身を残しながらこちらへ急接近し、意趣返しのように黒炎に染まった衝撃波を胴体から解放し、回避できないそれを咄嗟に強化パイルバンカーを盾にして受け、装填されていた撃針から赫々たる炎を暴発させて衝撃を弱め、直撃を受けながらも強引に制御を取り戻し、硬直しているシュガーソイルへ暴発した撃針を射出して攻撃し、だが軽く往なされて左腕の短い刺突から一瞬だけ黒炎が解放され、こちらの後隙を狩って突き飛ばす。そしてもはや確認せずに瞬間移動で後退し、横槍に放たれたエネルギーの奔流を躱し、即座に瞬間移動で詰めてフィリアへ斬りかかる。

「シュガーソイル……!」

「もーらい!」

 咄嗟に後方へのブーストで致命傷を躱し、代わりに異形の銃器が溶断されて破壊される。続けて分身を残しながら瞬間移動で後退し、一斉に斬り掛かってフィリアの対処限界を飽和させ、一気に詰めて右ブレードの一撃を与えて大破させる。

「そんな……!?」

 吹き飛ぶ機体を制御して脚部で着地するが、耐えられずに崩れる。

「機体が持たない……!マイグラント、撤退します!」

 間もなく、フィリアは姿を消す。こちらは既にシュガーソイルの背へ全速力で突進しつつ、ミサイルとショットガンを余さず叩き込んでから慣性をつけて接近し、チャージした強化パイルバンカーを叩き込む。衝撃でシュガーソイルは吹き飛ばされながら反転して向きを直すが、背部ユニットが大破してパージされる。

「武器も炎も、全部あの子への愛情でいっぱいなんだね。

 本当に可愛いね、君たちは……」

 そして再び変形し、上空へ飛び立つ。

「でもね、でもね、でもね、ダメなんだよ。

 この世に本物はもう要らない。

 あの子はもう、消えなきゃいけないんだよ。

 この演算空間を保つ、月の王もろともね」

 分身を撒き散らして、次々に雨のように突撃し、こちらは左肩のシールド投射機から前方へシールドを投げつけ、分身を一つずつ潰していく。ちょうど投射機の残弾とあちらの分身の数が等しく、即座にパージして突進してくる本体へ注意を向ける。そしてフルチャージした強化パイルバンカーを合わせようとしたところで突撃が当たる寸前で瞬間移動で空かし、こちらの背後を取りながら人形態に戻り、X字の斬り払いを繰り出す。残弾の撃針を暴発させて強引に反転し、振り被って顕になったシュガーソイルの胸部に強化パイルバンカーを突き立て、射出した撃針で貫き、連鎖爆発で粉砕して押し飛ばす。赫々たる炎が機体内を駆け巡り、各部から黒炎と混じった爆発を幾度も起こして破損していく。

「くはっ……渡り鳥、くん……

 君に、全部託すよ……

 私たちの全部、全部……焼き尽くしてね……」

 不自然に膨れ上がり、間もなく大爆発して消し飛ぶ。無数の蝶々が炎の中から飛び立ち、天へ還っていった。

『……

 ドミナント。

 TA“C.C.S.S.”……識別名“シュガーソイル”の撃破を確認。

 検証を終了します』

 明らかに不機嫌なシルヴィアの声が響き、視界が白けていく。
























『マイグラント。

 シュガーソイルの撃破、お疲れ様でした。

 先程は申し訳ありません、途中で撤退してしまい……

 シュガーソイル……彼女は、ある意味では我々に非常に縁の深い存在です。

 三千世界の、はじまりの戦い……

 その永年の戦いの果てに積み重なった、戦士たちの性欲から自然発生した、特異思考体なのです。

 ゆえにシルヴィアの言うように、三千世界の残滓を……滅ぼそうとしていたのでしょう。

 それが、戦士への手向けだと思っていたはずです。

 ……

 マイグラント。

 全ての存在には、滅ぶべき適当な時期というものがあります。

 三千世界は、長く存在しすぎた。

 創造主ですら、自害を望むほどに。


 終わらせましょう、マイグラント。

 あなたの生きる、これからの世界のために。

 三千世界の……全てを』

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