俺の短編集

犬好杉夫

第1話 わたしのだいすきなゆうきくん♡

舞台は21××年、世界ではロボットなどの科学技術が発展し人間の思考や記憶をバックアップし、本人に似せたロボットに移し替えることで実質的に不死身となる技術が確立された。この物語はそんな遠く先の未来を生きる二人の男女のお話

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私には、付き合っている人がいる。私の隣を歩く男の子、結城君だ。彼とは今通う学校の入学式で私が一目惚れして告白、見事OKを貰えて付き合い出した。彼は特別な才能を持ってるわけでも家がお金持ちなわけでもないけれど、彼は私のことを心から愛してくれる。私の自慢の彼氏。今は二人で学校へ通学中なのである。


「今日のロボット哲学さ、めっちゃだるいよね〜」


「そうだね、でも僕は隣に君がいてくれるだけでどんな時間も苦にならないよ」


キュンッ!とした。ほんと文字どうり心臓がキュンッ!て!あ〜結城君、君はいつも私の欲しい言葉をくれる、私の心を満たしてくれる。そんな彼が私は狂おしいほど好きだった。





「___であるからして____が____であり」


(あー眠い、一つも入ってこないわ。なにこの時間ほんとにいる?哲学なんてやったって意味ないっつの。てかその上ロボットとか、考えたってどうも思わないっしょ)


「___の論文にあるように、ロボットの技術とは元々開発当初は懐疑的な意見が多く、現在でもアンドロイド化による延命治療への倫理的、人道的問題の観点でこの技術への反対意見が後を絶たず、実際アンドロイド化した人間は本来の性質とは異なった行動を取ることが数例確認されており...」


キーンコーンカーンコーン


「おっと時間だな、じゃあ今日の授業の感想をレポートにして提出するように、期限は次回の授業までだぞー」


「「「「「はーい」」」」」


「ちぇっ、何が感想レポートよ、「一つも面白くありませんでした」て書いて提出してやろうかしら」


「まあまあ杏奈、レポート手伝うからさ、そんなカリカリしないの。可愛い顔が台無しだよ?」


「結城く〜ん///」


やっぱり私には彼しかいない。彼がいればあとは何もいらない。ちょっとしたことでいちいち大袈裟かもしれないけれど、私にとってはそれくらい彼が私にとってかけがえのない存在になっているのだとわかって欲しい。あぁ結城君、大好き。


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「あんたなんて大嫌いよ!」


「違うんだよ杏奈!あれは誤解なんだ」


「ならどうしてあんな人気のないところで女と一緒にいたわけ?と言うかそいつ、あんたに一回告ってた子じゃない!私なんてどうでもいいんでしょう!?」


「だからちがうんだって!」



その日の私は朝から凄くイライラしていた。理由なんてない、強いて言えば最近結城君の私への態度がどこかよそよそしかったことがあるかもしれないがまあそんな日もあるでしょと思っていた。しかし私は見てしまった。結城君が人気のない踊り場で女の子と密会していたのを。普段ならどうとも思わなかったが、イライラしていたことや、その女が昔結城君に告白していた子というのもあって彼らに問い詰めてしまった。

結城君はなかなか話そうとしないし、女は泣くばかりで話にならない。私はとうとう爆発してしまった。


「あんたなんて、死んじゃえばいいのよ!」


しまった、と思った時にはもう遅かった。結城君は凄くショックを受けた顔で「ごめん」とだけ言い残しその場を去ってしまった。女は相変わらず泣いたままだった。


私は急いで彼を追うが既に正門を抜けており、さらに走ること数分、赤信号の道路に彼はいた。いや、“彼だったもの“と言った方が正しいだろうか。彼は車に撥ねられ亡くなっていた。

調査の結果、前方不注意で赤信号を渡ってしまい車に撥ねられたそうだ。


私のせいだ。

私が、あんなことを言って彼を傷つけてしまったからだ。

私がよく話も聞かず彼に怒ってしまったからだ。


しかしいくら絶望しようが彼は帰ってこない。私がいくら謝っても彼が戻ってくることなんてない。もうニ度と彼の声を聞くことなんて...


『アンドロイド化』


その言葉がふと頭をよぎった。

(そうだ、アンドロイドだ!アンドロイド化できるならまだなんとかなるかもしれない!)


一縷の希望を胸に、私は専門の機関へ問い合わせたところろどうやら彼は記憶のバックアップの手続きを行なっていたようで費用はかさむがアンドロイド化は可能だと教えてもらった。そこからは早かった。これまでの貯金や金融機関に借りてまでお金を用意した。


(これで彼が帰ってくる。ちゃんと、あの時のことを謝れる!)


ドキドキして過ごすこと数日、ロボットが届く頃には私はしっかり持ち直していた。

ロボットを受け取り、早速起動させると彼の声がした。


『ここは?』


彼の声だ。ここ数日、聞くことが叶わなかった彼の声がこんなに近くで聞こえる。


「結城君!私だよ!杏奈だよ!」


『あん、な?』


彼が名前を呼んでくれる、今はそれだけのことが嬉しい。


「あ、そ、そうだ私、私ね、こないだのことちゃんと謝ろうと思って、あの子から聞いたんだけど結城君、私の誕生日プレゼントの相談してくれてたんだってね、私ったら勘違いしてあんなこと言っちゃって、ほんとにごめ...」


『えっと、ごめんなさい。あんなさん?ですっけ?僕貴方に会うの初めてだと思うんですけど』


心臓が、時間が、止まったのかと錯覚するほど、私は衝撃を受けた。今、彼はなんて言った...?


「え?...ごめん、いま、なんて?」


『いや、ですからあんなさんとは今初めて会いましたし、と言うかここどこですか?僕帰りたいんですけど』


違う、彼はそんなこと言わない。そんなふうにないがしろにしないで私をまっすぐ見つめてくれて、私を愛してくれて、それで...


その時、私は機関で言われたことを思い出す。


「これ、バックアップ取ってからそこそこ時間経ってますね。多少記憶や感情に齟齬があるかもしれないですけど別に大丈夫ですよね?」


その時は説明なんて二の次でとにかくアンドロイド化の申し込みをお願いしていたから聞いていなかったがなるほど、こう言うことか。もうここにいるのは結城君ではない、ただの鉄の塊だと私はようやく理解した。


『あの、僕もう帰りますから』


そう言って立ち去るアンドロイドの背に目を向けることなく私はただ茫然としていた。





あれから数十分、いやもしかしたら数時間が経過した頃、

「あ、れぽーとしなくちゃ」


何を思ったのかおもむろに紙とペンを用意し書き始める。

タイトルは「わたしのだいすきなゆうきくん♡」




〜完〜

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あとがき

たっっっっっっのしかったぁ!シリーズ化予定のやつとはまた違うタイプの曇らせで書いてて楽しかったっすわ。次は純愛かバトルかチーレムか悩ましいですなby犬好

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