巨人ふたたび
ヒロヨシに起こされ、アラタが目覚める。
「もう年なんだ、少しくらい休ませてくれよ」
「例の星にもう間もなく到着するようなので、サコミズ“大佐”」
「士官学校を出て少尉で任官した後すぐ船に乗ったから少尉のままだったはずなのに」
「まあまあ、40年たったんだから逆にもう少し出世していてもいいくらいだろう」
「あの頃の司令部はもうほとんどあっち側に行っちまったからな…」
そうぼやきながらも、彼らは戦闘の準備を進めていく。その時、その船団へと近づくものがあった。
「何だあれは?あの文明はこの宙域にまで到達しているのか?」
そう騒めく船団へと、声が響いた。
「いつ以来の再開だろうか、地球人よ」
その、日本語の声が、人々の記憶を呼び覚ました。あの、勇敢なる戦士の記憶を。
「君たちともう一度出会えたことは喜ばしいが、地球人の犯した罪は看過出来ない。罪もない人々を大勢殺したことは、許せない」
かつて、1960年代、地球人を怪獣や異星人から護った彼、アルカナ。その姿は様変わりしたが、その金色に輝く眩い瞳は嘗てのままだった。
「謝罪の上でこの星系から今直ぐ去れば、私は君たちに手を出さない」
地球軍の将が答える。
「我々は人類の総意の下、異星人攻撃作戦を行っていますが、政治家たちは新天地を諦めることを許さないでしょう。彼らはあの異星人の事を恐れています。これまでどんな凶悪な異星人にも屈さなかった彼らが。現状の人類が移住できる可能性のある星がここ以外に見つかる保証がないという理由も合わせ、我々はこの戦いを止める事は出来ません」
「そうか、残念だ。地球守防隊日本支部可動特殊戦用隊のサコミズ・マコトという隊員は、存命か?」
その問いかけに上層部が戸惑う中、アラタが進み出た。
「サコミズ・マコトは私の祖父です。もうずっと前、人類が地球から旅立つ3年前に亡くなりました。何故、私の祖父の名を知っているのですか?」
「…彼がもう生きていないのならば、私の判断で話してもいいだろう。私は地球で、彼と肉体を共有していた。私の意識が彼に憑依していた、ともいえる。あの時点では私が憑依していなければ彼は死んでいてもおかしくなかった。地球で私は多くの貴重な経験を得た。だから、私は君達を傷つけたくはない。だが、私はかつて君たちに、正義の心を教わった。私は今も、独りで、弱き人々を守り続けている。それなのに、君たちは裏切った。かつての自分たちを。この宇宙の正道を。私は、侵略者を迎え撃たなければならない」
「…祖父は俺にあなたのことを話してくれた。人類の守護者の様なあなたの姿はとても力強かった、そう彼は言っていた」
「そうか…マコトのことをもう一度聞けて嬉しかった、ありがとう。…これは最後通告だ。人類がこれから少しでも惑星の方へその武装戦団を進ませたなら、私はこの全力を尽くして君たちを攻撃し、二度と侵略行為を出来ないようにする」
人類の戦用船団は暫しその動きを止め、本船の政治家たちと交信を持ったのち、その運動を再開させた。あの惑星へと。
アルカナは、哀しみを込めたその、閉じられることのない目に烈しい光を浮かべて、戦団の前に立ち塞がった。
戦艦内には、自らの命の終焉をはっきりと解した、無力な兵士たちしかいなかった。彼の強さは、地球人ならば誰もが知るところだ。彼の全力の光線が、紅海を干上がらせたこと、月の半分の大きさがある巨大な要塞を三分の一まで蒸発させたことを人々は思い返した。
地獄への道を開くだけの、一斉攻撃を命ずる司令官の第一声が、空ろに響いた。あの伝説の巨人との無謀な戦いを命じた同じ人間へか、旅を妨害する異星人へか、その情けない自分たちへか、混沌と破壊に満ちたこの宇宙へか、行き場をなくした怒りの叫びが静かに宇宙を震わせた。
そんな船の中に、アラタもいた。彼もまた、恐怖と怒りに満たされていた。その時だった。彼のその心の中に、祖父の最期の言葉が響いた。「ギリギリまで頑張って、それでももうどうしようもない、そんな時、この封筒を開けるんだ。もしかしたら、アラタ、これは世界を救ってくれるかもしれない」アラタの心に、小さな光が起こった。アラタが震える手で開けたその封筒から、長さ15㎝ほどの弱い光を放つ筒と小さなメモが落ちた。「この筒の真ん中にあるボタンを押せ」その簡潔なメモに従い、彼は筒を掲げるとそのボタンを押した。眩い光がその筒から広がっていく。気が付くとアラタは、光に満たされた空間にいた。
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