第25話「打ち上げ、火種ーLUNA SEAは外せない」
居酒屋のテーブルに唐揚げと枝豆。二杯目のジョッキが空になった頃、猫さんが唐突に口を開いた。
「……いいか、お前ら。ビジュアル系の話をするときにLUNA SEAを外す奴は、地雷。これはもう事件レベルだ」
アビが吹き出す。「出たよ政則モード」
「いや、これは革命なんだよ」猫さんは真顔で頷く。
「まずルーツを辿れ。KISS、Mötley Crüeが“視覚の爆発”を提示した。Iron Maiden、Metallicaが“音の壁”を作り、Judas Priestが“様式美”を完成させた。
それを輸入して、日本でぶち壊したのがX JAPAN。“Silent Jealousy”“紅”のスピードと激情、クラシックの重厚さを叩きつけた。ええ、これは革命です」
猫さんは唐揚げを摘みながら、さらに熱くなる。
「でもね、それを“都市文化”として広げたのはLUNA SEAだ。ここを外すな。
“ROSIER”での疾走感、“STORM”のアンサンブル、“I for You”の耽美なバラード。どれも一発で時代を塗り替えた。しかも全員が作曲できる。これは異常だ。
影響を受けたのは一人や二人じゃない。GLAYのポップ路線、L’Arc〜en〜Cielの多彩な音楽性、Dir en greyや蜉蝣の退廃美、ムックの激情。全部、LUNA SEAの水脈から育った子供たちだ」
「そしてLUNA SEAの背景にはU2、The Cure、David Bowieがいる。海外のポストパンク、ニューウェーブの影響を耽美ロックに消化した。
だから、V系ってのは“洋楽ハードロック/ヘヴィメタルの重厚さ”+“欧州ポストパンクの美学”+“日本的な叙情”の化学反応なんだ」
店内のBGMが偶然LUNA SEAの“TONIGHT”に変わり、猫さんはジョッキを掲げる。
「ほら、これだよ。外したら即・プロフィール地雷。終了です」
私とアビは笑うしかなかった。美月が「今日ほんとエモかった」と肩に手を置こうとするのをアビが阻止。「肩は俺の管轄」。意味不明。爆笑。
でも猫さんは低く、「……ベスティは放っとけない」と言った。
アビが笑顔を消して、「俺は放っておけない」と返す。似てるのに、全然違う。
私は慌てて「デザート、プリンにする?」と声を張る。笑いと甘さで場を誤魔化したけど、確かに火種は残った。
つづく
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