びじゅラブ♡

べすこ

第1話「遅刻とノートとタレ目メイク」

 朝のチャイムは、とっくに鳴り終わっていた。

 ベスティは校門の陰で、制服のリボンを整えながら、ため息をひとつ。

 今日も遅刻。

 先生にまた「どうした、寝坊か?」と呆れられるだろう。

 でも、別にいい。私には、私だけの時間がある。


 祖父からもらった黒いノートを、鞄の奥から取り出す。

 表紙の内側に、金色のインクで書かれている言葉――


love is the bond of perfection

愛こそ、完全のきずな




 ページをめくると、びっしりと手書きの歌詞が並んでいる。

 誰にも見せたことのない、私の小さな宇宙。

 でも、いつかは曲にして歌いたい。

 そう思うと、心臓が少しだけ高鳴った。





「おーい、また遅刻かよ」

 背後から声が飛んできて、振り返ると、えびはら――通称アビが笑っていた。

 塩系イケメンのくせに、ひょうひょうとした態度。ベースを構えるとやたら映える、ズルい奴だ。


「だって昨日、夜中まで歌詞書いてたんだもん」

「言い訳だな。……そういやさ、お前、女麺メイク似合うと思うぜ」


「は? いやいや、私、童顔すぎてムリだし」

「逆だよ。タレ目で甘い顔、ビジュアル系の女麺やったら化けるぞ。あ、昔シノラーなりたかったんだろ? 目元に♡とか☆のシール貼ったら?」


「……バカじゃないの?」

 一瞬頭がバグる。けど、心のどこかで「やってみたい」と思ってしまった自分が悔しい。

 実際、アビが言うように、V系の女麺でそういう遊びをしている人はいる。





 午前の授業をサボって、保健室のベッドに潜り込む。

 白い天井を見ながら、私はぼんやりと考える。

 一生、彼氏できなかったらどうしよう。

 年上の人に全力で受け入れられたい。

 でも、恋愛経験はゼロ。

 こんな私が、バンドなんかで輝けるんだろうか。


 昼休み、購買前でアビと再合流。

 私の顔を見て「お前、なんか考え込んでんな」と笑いながらコロッケパンを差し出してくる。


「食え。糖分足りないと曲も書けねぇぞ」

「……ありがと」


 コロッケの甘さと、アビの何気ない優しさが、少しだけ私を現実に引き戻した。





 放課後、帰り道。

 ポケットの中で、祖父のノートが重く感じる。

 いつか、この歌詞がステージで響く日が来るのかな。

 そんな未来を、まだ誰も知らない







つづく

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