『和やかな国の中で』(国の人々編)

 私は、この国へ入国して感じた事が1つある。

  多分、リルも薄々うすうす感じていたんじゃないかな。和やかな国。ここには、がある。


 と言っても、私の気のせいかもしれない。旅人である私の第三者視点から見たらそう感じるだけで、本当はまともな、しっかりとした国っていう事もあるから。実際に、いつもならこの言葉の通り、私の気のせいな事がほとんど。旅人は偶然その国を訪れるだけであって、その国の習慣とかには馴染めないから。


 けど、そうじゃない気がする。国の造りが何となくおかしいとか、活気が全然無いとかではない。国は至って普通。どこにでもある、平々凡々な国。


 ー違和感を感じるのは、だ。


 昨日はそう感じるひまは無かったけれど、今日、国を観光している時に私が感じた小さな違和感はしっかりとした形を持ち始めた。


 具体的にどんな事があったのかを簡潔に言うのなら、この国にはって所かな。

  国の通り。様々な露店が立ち並ぶいこいの場。住宅街。目移りする施設の多い大通り。市民公園。学校。教会。国の役所。喫茶店。色々な場所を見てまわったけど、人々は皆楽しそうで、幸せそうに暮らしていて、良い国だな。そう思う反面、同時に不気味でもあった。


 ー観光の途中で見かける人々はそのほとんどが、笑顔は笑顔でも、を浮かべていたからだ。

  私はこう言ってはなんだけど、人の感情の機微には割と敏感。笑顔でも、怒ってる表情でも、そういう表情を演じている人ってたまに居る。私が国の人々に感じたのは"それ"だ。全員がって訳じゃない。ただ、結構な人が心からの笑みを宿しているようには思えなかった。


 何人かの国の人達から歓迎の言葉を掛けて貰ったけど、1人だけ、私とリルが国について聞いてみた人が居た。確か、公園で出会ったお婆さんだったかな。


 「おや、旅人さんかい?ようこそ、ここまで疲れたでしょう?」

 「こんにちは」「こんちはです〜」

 お婆さんは久々の旅人だっていう私とリルに物凄く感動していた。(リルは精霊を目の当たりにしたリアクションを期待してたらしい)お菓子をあげると言われ、拒否するのも心が痛んだ私はありがたく貰う事に。リルから睨まれた気がしたけど、笑って誤魔化し。


 「どこから来たの?かなり遠くから?」

 「そうですね。私とこの子はー」

 それから暫く、丁度木陰部分にあったベンチに座って軽く雑談を交わした。お婆さんは私とリルの旅の話を相槌あいづちを打ちながら楽しそうに聞いてくれて。30分くらいが経った頃だったかな。唐突にリルがお婆さんにこう質問した。


 「あの、1つ気になる事があって」

 「うん?何だい、精霊さん?」

 この時、私は年長者って凄いなと感じた。始めて見るはずの精霊という人外の存在を前にして動じず、受け入れる。将来ああいう風になりたい。

  と、脱線じゃなくて。


 「この国、?」

 リルは、簡潔にそう聞いた。私も直ぐに質問の意図を察してお婆さんを見る。リルの意図が正しく伝わったかは分からない。けれど、普通なら国を侮辱ぶじょくされたと腹を立てても不思議じゃない質問にお婆さんはこう答えた。


 「そうねえ。よりかは、ね」


 そのお婆さんの返答に私とリルは思わず顔を見合わせた。お婆さんが"どうしたの?"と聞いてくる。


 「よその国……行ったことあるんですか?」

 「ええ。昔、一度だけね。この国の向こう側……山を1つ越えた所にある国。ちょっとした旅行気分だったんだけど、台無しだったわ」

 「何か……あったんですか?」

 「そうねえ、でも、あまり話したくはないわね」


 旅人である私達にとって興味深い話をしてくれるお婆さん。だけど、あまり良い思い出ではなかったらしい。お婆さんは続ける。


 「旅人さん達は、この近辺へ来るのは始めて?」

 「そうですね。結構自然豊かで過ごしやすそう」

 「精霊にとっては絶好ポイントですね」


 お婆さんの問いにそれぞれの観点から感想を漏らす私とリル。お婆さんは私達の感想に安心したように"そうでしょう、そうでしょう"と頷いて。


 そう思っている、で、言った。


 「だからね、旅人さん。隣の国には決して行っては駄目よ」

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