『和やかな国の中で』(国の人々編)
私は、この国へ入国して感じた事が1つある。
多分、リルも
と言っても、私の気のせいかもしれない。旅人である私の第三者視点から見たらそう感じるだけで、本当はまともな、しっかりとした国っていう事もあるから。実際に、いつもならこの言葉の通り、私の気のせいな事がほとんど。旅人は偶然その国を訪れるだけであって、その国の習慣とかには馴染めないから。
けど、この和やかな国に関してはそうじゃない気がする。国の造りが何となくおかしいとか、活気が全然無いとかではない。国は至って普通。どこにでもある、平々凡々な国。
ー違和感を感じるのは、国の人々だ。
昨日はそう感じる
具体的にどんな事があったのかを簡潔に言うのなら、この国には負の感情が無いって所かな。
国の通り。様々な露店が立ち並ぶ
ー観光の途中で見かける人々はそのほとんどが、笑顔は笑顔でも、顔にそのまま張り付けた笑顔を浮かべていたからだ。
私はこう言ってはなんだけど、人の感情の機微には割と敏感。笑顔でも、怒ってる表情でも、そういう表情を演じている人ってたまに居る。私が国の人々に感じたのは"それ"だ。全員がって訳じゃない。ただ、結構な人が心からの笑みを宿しているようには思えなかった。
何人かの国の人達から歓迎の言葉を掛けて貰ったけど、1人だけ、私とリルが国について聞いてみた人が居た。確か、公園で出会ったお婆さんだったかな。
「おや、旅人さんかい?ようこそ、ここまで疲れたでしょう?」
「こんにちは」「こんちはです〜」
お婆さんは久々の旅人だっていう私とリルに物凄く感動していた。(リルは精霊を目の当たりにしたリアクションを期待してたらしい)お菓子をあげると言われ、拒否するのも心が痛んだ私はありがたく貰う事に。リルから睨まれた気がしたけど、笑って誤魔化し。
「どこから来たの?かなり遠くから?」
「そうですね。私とこの子はー」
それから暫く、丁度木陰部分にあったベンチに座って軽く雑談を交わした。お婆さんは私とリルの旅の話を
「あの、1つ気になる事があって」
「うん?何だい、精霊さん?」
この時、私は年長者って凄いなと感じた。始めて見るはずの精霊という人外の存在を前にして動じず、受け入れる。将来ああいう風になりたい。
と、脱線じゃなくて。
「この国、楽しいですか?」
リルは、簡潔にそう聞いた。私も直ぐに質問の意図を察してお婆さんを見る。リルの意図が正しく伝わったかは分からない。けれど、普通なら国を
「そうねえ。よその国よりかは、ね」
そのお婆さんの返答に私とリルは思わず顔を見合わせた。お婆さんが"どうしたの?"と聞いてくる。
「よその国……行ったことあるんですか?」
「ええ。昔、一度だけね。この国の向こう側……山を1つ越えた所にある国。ちょっとした旅行気分だったんだけど、台無しだったわ」
「何か……あったんですか?」
「そうねえ、でも、あまり話したくはないわね」
旅人である私達にとって興味深い話をしてくれるお婆さん。だけど、あまり良い思い出ではなかったらしい。笑ってお婆さんは続ける。
「旅人さん達は、この近辺へ来るのは始めて?」
「そうですね。結構自然豊かで過ごしやすそう」
「精霊にとっては絶好ポイントですね」
お婆さんの問いにそれぞれの観点から感想を漏らす私とリル。お婆さんは私達の感想に安心したように"そうでしょう、そうでしょう"と頷いて。
心の底からそう思っている、作られた笑顔じゃない笑顔で、言った。
「だからね、旅人さん。隣の国には決して行っては駄目よ」
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