第十章:屍灯の灯火

カナとユリは、祠の火に照らされながら村の真実に向き合った。

ユリは消えかけの声で語った。


「灯那村の屍灯は、失われた魂の“記憶の灯”だった。

だけど、その灯りを消すとき――魂は解放されるはずだった。」


カナは胸に手をあて、鍵を握りしめた。


「でも、なぜ村はあんなに歪んでいたの?」


ユリは悲しげに微笑み、


「それは……あなただったから」


カナは息を呑んだ。


「わたし?」


「あなたはずっと、ここに“いなかった”の。

本当のあなたは、もう何十年も前に……消えてしまった。

あなたが覚えている“カナ”は、ユリが作り出した、あなたのための“幻”だった。」


震えるカナに、ユリは続けた。


「真実は――あなたは村の惨劇の犠牲者の一人。

火事の夜、あなたは命を落とし、ユリは残された記憶を繋ぎ止めるために、あなたの魂の一部を灯那村に留めた。」


カナは混乱した。


「じゃあ、今までの私の記憶も、全部……?」


ユリはうなずく。


「そう。でも、これで終わり。あなたが祠の火を消せば、あなたも、わたしも、村のすべての魂も、解放される。」


カナは最後の決断を迫られた。

祠の火に手を伸ばすと、背後で闇の影がうなり声を上げた。


「おまえを守るために、わたしはここにいる」

影の中から、カナの姿が二つに分かれた。


一つは、ユリが作った“幻のカナ”。

もう一つは、消えかけの本当のカナ。


どちらかが“灯り”を消せば、もう一方は永遠に消える。


カナは涙をこぼしながら祈った。


「もう、どちらも失いたくない。」


だが、火は静かに揺れ、やがて消えた。


その瞬間、村は激しい閃光に包まれ、

カナは意識を失った。


目を覚ますと、見慣れた大学の自室だった。

机の上には、古い写真が一枚だけ残っている。


それは、幼いカナとユリが笑う写真。


でも、よく見ると、ユリの姿はなく、カナだけが写っていた。


カナは独り言をつぶやいた。


「これは……夢?」


窓の外には、遠くでぼんやりと灯る、一つの灯籠の灯り。


それは、消えかけた「屍灯」の残り火。


カナはそっと目を閉じて、つぶやいた。


「また、あの夏に……帰れるなら……」

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