お願いですから、小綺麗にしないでください!
今日は入学四日目にして初の合同授業だった。
悪魔組の黒いブレザーに混ざって、私の白いブレザーがさらに浮いた。
だって、天使組が横に固まっているから、真っ白の横、黒い中の白一点は目立つ。
「あれが例の?」
「何のためにいるのかしらね」
「あいつ本当に悪魔なのか?」
「ダサい」
天使組からの酷い言われようである。
もっと、こう天使って優しいんじゃなかったでしたっけ?
まあ、光くんと灯くんが特別に優しいだけかもしれない。
「ほら、整列しろ。これから魔力と加護の実力試験を行う」
――は?
私たちの前に立った加賀美先生が突然、そんなことを言って、私は真顔になった。
「試験と言っても学園側がお前らの実力を知るために行う検査みたいなもんだ。他の生徒には見えないように行う」
先生が指差した校庭の一角には数枚のパーティションを組み合わせて囲ったような大きな白い壁が立っていた。
あの向こう側で何かをやるのだろうけど、こんなの聞いてません。
あ、でも逆に堂々とやってる風にしておけば、誰も私を疑ったりしないのでは?
なーんだ、それなら良かっ……
「あいつ、前回も先生に当てられなくてずるいからな。見に行ってやろうぜ」
「きっと強い力を持ってるんでしょうね」
「一人だけ生徒会の親衛隊隊長に選ばれるくらいだからな、どんなもんか見てやろう」
まずい、とてもまずい。この人たち、私の試験を覗き見するつもりだ。
悪魔組からも天使組からもそんなコソコソした声が聞こえてきた。
「壁の中にこれと同じ人形があるから、破壊するか光らせろ」
先生、全然気にせず話を進めるじゃないですか。
破壊するか光らせろってなんですか?
物理的破壊でもいいですか?
私は先生の横に置かれた黒いトルソーの人形を絶望の眼差しで見つめた。
ぶん殴るか……。
ダメだぁ、そんなことしたら、みんなに物理的に攻撃してるの見られちゃう。
「順番にやるぞ、大河内」
そうこうしているうちに始まってしまった。
力が強い人によってはドコーンとかキュイーンとかすごい音がしていた。
なんでわざわざ、こんな人間をあぶり出すようなことをするんでしょうか。
「きゃあー! 京極様! 今日も元気いっぱいですわね!」
闇くんのときもすごい音というか、煙が上がってて、あ、これ人形燃やしたな、と思った。
それなのに、女子たちは壁の上から見えるそれを目撃して、きゃーきゃー言っていた。
「キャー! 西園寺様! 昼間なのにこんなにまばゆいなんて!」
光らせすぎです、光くん。
壁から出てきた加賀美先生もサングラスをかけていました。
ちょっとワイルドでした。
「きゃーっ! 東条様―! 私も飛ばされたいー!」
――塵になりますよ?
ドゴーン! と人形が壁から飛んで行ったんですけど、東条くん。
しかも最終的には粉々になって、どこに行きました?
「きゃー! 伊集院様、ダイナミック!」
灯くんのは全然可愛い攻撃じゃなかった。
雷直撃だよ、あれ。
ピシャーンってすごい音で、人形がどうなったのか想像するのも怖い。
生徒会四人の実力は本当にすごかった。
一般の生徒が誰もかなわないことが分かったし、だからこその生徒会なんだなと思った。
それなのに、私は……。
「次、白鳥」
ついに私の番が来てしまった。
とりあえず、呼ばれるままに壁の中に入る私。
でも、周りには生徒たちが固まっているのが分かった。
たぶん、壁の隙間から見えるんだと思う。
「加賀美先生、まずいですって。私、力なんて持ってないですよ。みんな覗いてますから、止めてください」
人形を見定めている様子で、私は小さな声で先生に抗議した。
「まあ、やってみろよ」
私の後ろに立ったと思ったら、先生は笑いを含んだ声で言った。
――この悪魔……!
絶対に何も起こるはずないのに、私は人形に向かって勢いよく右手をパーにしてかざした。
シーン。
「おい、何も起こらないぞ?」
外から誰かの声が聞こえた。
そりゃ起こりませんって、私、人間なんですって。
そう思ったときだった。
パチッと人形から小さな音が鳴った。
それからボッと小さな火が点いて炎が大きくなっていく。
――あれ、これって、闇くんの。
それにすごい光ってる。まぶしい。
――これは光くん?
「わっ」
周りを確認しようとしたら、急に壁が上空高く吹っ飛んでいった。
集まっていた生徒たちの姿があらわになる。
――待ってください、加賀美先生も何かやってませんか? 絶対、いま目隠し用の壁吹っ飛ばしたの先生ですよね?
後ろに立った先生に文句を言いたいけど、振り向いている場合じゃない。
まばゆい光を放ちながら激しく燃えさかる人形がガタガタと揺れ始める。
なんだか嫌な予感がすると思ったら、それはパンッと弾け飛んだ。
瞬間、誰かの加護が私を透明なバリアで囲う。
視界を巡らせるとにこっと笑う灯くんと目が合った。
東条くんもふんっと鼻で笑ってるし、闇くんも満足そうにこっちを見て頷いてるし、光くんも華麗にウインクしてきた。
――やめてくださいぃぃ! 目立ちたくないんですぅぅぅ! 気を遣ってくださるのは嬉しいんですが、生徒会四人の力なんか使ったら私がバケモノになってしまいますぅぅぅ!
「おかしいだろ、あいつ。悪魔なのに、魔力と加護、どっちも使えてたぞ?」
「た、ただ者じゃねぇ」
時すでに遅し、もう周りから怯えられてます。
◆ ◆ ◆
「あの……」
一日かかった合同授業が終わって、校舎に戻るときに私は四人に挟まれて歩いた。
加賀美先生も何も言ってなかったし、あれでよかったのでしょうか。
「……」
無言の東条くん、怖いです。
「お前は頭脳派だもんな」
闇くん、それはどんなフォローですか。
「雪くん、ド派手にいけて嬉しかった?」
光くん、目が潰れるかと思いました、私。
「これからもキミのことはボクが守ってあげるからね」
いつも朝に私を置いていく人が何を言ってるんですか、灯くん。
「みなさん、なんで俺に力を貸してくれたんですか?」
この感じ、私を人間だって疑ってるわけじゃないんですよね?
たぶん、すごい低能なやつだと思われてるんですよね?
「お前が周りのやつらに馬鹿にされそうになってたからだよ」
え、そんな素直に優しいこと言ってくれるんですか、東条くん。
「ありがとうございます」
私は照れながら、ぺこっと頭を下げた。
四人が私に優しくしてくれる理由が未だに分からないけど、この人たちが味方してくれると心強いな。
「というか、ボク、思ったんだけど」
突然、灯くんが足をピタリと止めた。
それに合わせて、私を含めたみんなの足が止まる。
そのまま、灯くんが私の前に立って
「雪ちゃんが周りから馬鹿にされるのってさ、地味だからじゃない?」
と言った。
「え?」
戸惑う私と
「ほう」
すばやい動きで私のメガネを奪い、もさっとした前髪を上に上げる東条くん。
――しま……。
私の顔を見て、一瞬、四人が固まった。
――お、女だってバレた?
一緒に固まる私。
時が再び動き出したとき
「こんなのアリかよ」
闇くんは、そんなことをぼそりとこぼして、まだ固まっていたし
「爺や、一流の美容師、今から連れてきて」
急にスマホを取り出して、爺やとやらに電話をし始める灯くん。
「お前ら、ホームルーム、サボるぞ」
真顔で東条くんは私を肩に担ぎ上げて
「うん、そうしよう」
光くんは私のメガネをかけて、君に返す気はないという感じで先頭を歩き始めた。
もしかして、これってあれですよね?
あれな流れですよね?
「やめ、やめてくださいぃぃぃい!」
私は東条くんの肩で暴れた。
お願いだから、小綺麗にしないでください!
◆ ◆ ◆
――と、整えられてしまった。
寮のエントランスに集まった四人の前で一人用のソファに座らされて、私はいま凝視されている。
「雪ちゃん、可愛い」
私の前に膝をついた灯くんが私の両頬をぷにぷにと揉む。
視界がクリアすぎて、なんだか恥ずかしい。
スースーする。
ボサボサだった髪は綺麗に切られて、キューティクルツヤツヤになったし、メガネも没収されてしまったし、制服も何故か天使側のブレザーでサイズが合ったやつに新調されたし。
「うん、まあ、地味なのは地味だけど……」
闇くんは私の素顔を見てからなにかおかしい。
ずっと、ぶつぶつ言ってて、心配になる。
「君は本当に悪魔なのか?」
「な、何言ってるんですか、俺は悪魔ですよ」
光くんの言葉にどきりとさせられて、焦って言い返した。
あぶないな、なんてこと言うんですか。
「すまない、あまりにも見た目が天使過ぎて」
彼もまるで寒さに耐えるように自分の身体をぎゅっと両手で抱えながら震えていて、心配になる。
「可愛さを見出したのはボクなんだから、雪ちゃんはボクのだよ」
「ととっ」
灯くんに手を引かれて、立ち上がった瞬間、転びそうになった。
そして、気付いたら私は灯くんの腕の中にいた。
四人の中で一番身長が低いといっても、私よりは背が高い灯くんだ。
すぽっと腕に収めた私の肩に顎を置いて、まるで他の三人の前で私を人質に取ったみたい。
「お前……!」
あれ? 東条くん、なんか怒ってます?
私、また何かしてしまったのかも。
あー、灯くんを私が取ってしまったみたいになってるから嫌なのか。
「すみ……」
苦笑いを浮かべて謝りながら灯くんから離れようとしたときだった。
「なんてね。まあ今日はボクの番なんだから、文句は言わせないよ?」
灯くんは全然私のことを解放してくれなくて、そんなことを言った。
ボクの番って、もしかして、私、サンドバッグにでもされたりする?
「くっ」
なんでそんな東条くんも闇くんも光くんも悔しそうな顔してるの?
え、親衛隊ってサンドバッグになる要員で、それでみんな必要としてる?
「雪ちゃん」
「ひっ」
耳元で囁かれて、思わず、小さな悲鳴を上げてしまった。
「部屋に行く前に食堂で夕飯食べよ。なんでもごちそうしてあげる」
「俺も行ってやる。何頼んでもいいぞ」
「僕も行くよ、デザートは僕に任せて」
「オレだって、雪に……おやつを用意してやる」
最後の晩餐でしょうか?
悪魔と天使な御曹司様たちからの私への餌付けが止まりません。
◆ ◆ ◆
「もうお腹いっぱいで動けません」
灯くんの部屋に入った瞬間、私は食後に一番やってはいけないこと、すぐ横になる、をしてしまった。
ソファに横向きに寝転がって、満腹の幸福をかみ締める。
「雪ちゃん」
後ろから灯くんの声が聞こえて、ハッとなる。
しまった、忘れてたけどさっきのは最後の晩餐だったんだ。
きっと、私はいまからサンドバッグにされる。
だって、あんなに東条くんと灯くんバチバチしてたもん。
そろりと上を向くと、こちらを覗き込む灯くんと目が合った。
影になってて、怖い。
私いま、ちゃんと普通の顔できてる?
お、男だからって乱暴にされたりしないですよね?
東条くんみたいに殺気を私にぶつけてきたり……
「ひょぇ!」
灯くんに背もたれ側からガバッと覆い被さるようにされて、私は限界オタクみたいな悲鳴を出した。
「今夜はボクとお揃いのパジャマ着ない?」
よく見ると、そう言う灯くんの手にはパステルカラーな水色と紫色のクマのパジャマがあった。
――あ、パジャマか。
「ありがとうございます、着ま――」
「ねえ、さっきから思ってたんだけど、雪ちゃん、なんで怯えてるの?」
起き上がってパジャマを受け取ろうとしたら、するりと横に灯くんが滑り込んできて、ソファに隣同士で座る形になった。金色の瞳が不思議そうに私を見つめてくる。
怯えてるのバレてる……!
こ、ここは正直にお話ししよう。
「あの、実は……ボクの番とか言って灯くんが東条くんとバトってるから、俺、サンドバッグにされるのかと。なんか闇くんだって光くんだって悔しがってたし」
なんか話してみたら自分でもよく分からないこと言ってるなと思った。
「なに言ってるの? ボクと晩くんが雪ちゃんサンドバッグにするために取り合ってると思ったの?」
ん? 取り合うってなんだ? まあ、いっか。
「そんな感じです。だって東条くん、たぶん、俺のこと居なくてもいいおもちゃだと思ってるし」
むしろ邪魔だと思われてるんじゃないかな、と思う。
東条くんだけじゃない。
闇くんだって、光くんだって、灯くんだって。
親衛隊は先生が勝手に決めただけだから。
四人は私なんかに守られなくても強いもん。
「ふっ」
私の横で、灯くんが笑った。
「どれだけ鈍感なのさ、面白すぎるんだけど、どうしたら、そんな思考になるの?」
笑いながらも少し怒ったように灯くんが言う。
「へ?」
――それって、私の考えが違うってこと?
「ボクたち、どっちかって言ったら、雪ちゃんのこと好きだよ?」
天使の光の中に少し黒いものが見えた気がした。
「生徒会のみなさんが、そんなことあります?」
「ボクらには雪ちゃんじゃないとダメなんだよ」
私の言葉にかぶせるように灯くんが言った。
「こっち来て、そんな勘違いする悪い子にはお仕置きだよ」
「え?」
――お仕置き……?
急に手を引かれて戸惑う。
そして、気付けば、私は灯くんの足の間に身体が収まるように座らされていて、後ろからぎゅっと抱きしめられていた。
「これ……、お仕置きなんですか」
思わず、すん、という顔をしてしまう。
お仕置きといえば、寒空の下ベランダの外に出すとか、鞭で叩くとか。
これは、まあ動けなくて困るけど。
「そう、ぎゅっとするお仕置き」
灯くんはそう言って、また私の肩に顎を置いた。
なんだか、小動物みたいだ。
「ふふっ、なんか可愛いですね」
人の膝に顎を乗せるウサギとかを想像したら可愛くなってしまって、私は笑ってしまった。
「わっ」
突然、灯くんの膝に座るように急に横抱きにされてびっくりする。
さすが天使、力持ちだ。
といか、こんなに可愛いのに……。
「ボクが可愛い? キミのほうが可愛いよ」
顎を掴まれて、視線を固定される。
――整った顔が近い……!
「俺、男ですけど?」
まずい、まずい、ここで戸惑っては私が女だってバレてしまう。
だから、さらっと言わせてもらいました。
「そうなんだよね、見てると錯覚を起こしそうになる」
灯くんの金色の瞳が本当に綺麗で、吸い込まれそうになった。
彼がニコッと笑って続ける。
「まあ、でもボクは雪ちゃんが女の子でも男の子でもどっちでもいいんだけどね」
私はそれを聞いてなぜだか天使っぽいなと思ってしまった。
だって、それって、男女どちらでもなく私の存在を認めてくれたってことだよね。
◆ ◆ ◆
――ん? これは新しいぞ?
翌朝、目覚めたら目の前にあったのはパステルカラーの紫色。
トクントクンって心地いい音がしてて……。
えっと、昨日はどうしたんだっけ?
灯くんが今日はシャワーにするからって言って
本当にすごい速さでお風呂から出てきて
カラスの行水だと思って
灯くんのことを小鳥だと脳内変換して可愛いなと思って
口には出さなかったけど、パステルカラーな紫色のパジャマが似合ってるなと思って……
私がカモミールのお風呂に入って、ちゃんとお揃いのパジャマ着て出てきたら
「雪ちゃん、着てくれたんだ? 嬉しいな」
とか灯くんが笑ってくれて
「雪ちゃん、一緒に寝ようよ」
って言われて、さすがに悪いからと思って断ってソファで寝たんだけど。
灯くんも何も言わなかったから、納得してくれたんだと思ってた。
「おはよう、雪ちゃん」
自分の頭の上のほうから灯くんの声が聞こえた。
やっぱり、私、灯くんに抱きかかえられるみたいに寝てたみたい。
「ふふっ、寝癖ついてる」
身体を少し離して、灯くんの指が私の髪に触れる。
「お、はようございます」
――ひぃぃぃぃ! やっぱり顔がいい! 魂取られる!
見えてなかっただけで、ちゃんと見てみたらやっぱり寝起きなのに灯くんは天使みたいに綺麗な顔をしていた。ううん、本当に天使なんだった。
じゃなくて、このパターンは本当に新し過ぎるって!
灯くんまで一緒にソファで寝てるじゃん! ベッドの意味!
だから、こんなふうに私を抱きかかえるように寝てたんだ。
「灯くん、なんで……」
一人でもベッドで寝たらよかったのに。
「雪ちゃんがどうしてもソファでしか寝られない体質なのかと思って」
寝起きとは思えないキラッキラのスマイルで灯くんは言った。
「いや、そんなことないですけど。っじゃなくて、一緒に寝る必要ありました?」
わざわざこんな狭いところで一緒に寝なくても、と思う。
というか、ベッドでも一緒に寝なくてもいい。
「なんでそんな寂しいこと言うの?」
――くっ、心が痛い。
きゅるんきゅるんの子犬みたいな表情で灯くんに言われて心にぐっと来た。
「なんか、すみません」
何を謝ってるのか、自分でもよく分からなかったけど、そうするしかないような力がいまの灯くんの表情にはあった。
「じゃあ、次は一緒にベッドで寝ようね」
上手く流されました。
灯くんはあざとかったです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます