第36話入学式 ライside
これは入学初日、フィルの裏で紡がれたもう一つの物語。
「かぁ〜この制服きちいぜ」
制服のキツさに文句を言うのはライ、フィルとは学年が違う為一人で行動しなければならない。
しかもライにはフィルの様にルームメイトはおらずまさしく一人…いや一人と一匹。
『なぁライ〜早く行こうぜ〜つまんない〜」
「うるせぇうるせぇ、今から入学式なんだから黙ってろよ」
胸に紫苑の花をつけていざ教室へ。
制服の襟元を引っ張りながら、ライは一年生の教室に足を向けた。
「ここか?よいしょっと…」
扉を開けると、既に何人かの生徒が席に着いていた。ライは適当に空いている席を見つけて腰を下ろす。
『おい、あの子かわいくないか?』
(うるせぇよ…タイプじゃねぇ)
相棒が小声で囁いてきたが、ライは軽く舌打ちして無視した。
「ねえねえ、君も一年生だよね」
隣の席から明るい声が耳に入る。振り返ると、褐色の女の子が人懐っこい笑顔でこちらを見ている。短く切り揃えた黒髪が活発な印象を与えていた。
「あぁ、てかこの教室に居るんだから一年生だろ」
「そりゃそうだ!私、サンドラ・ロペス!よろしく!」
彼女は屈託のない笑顔で手を差し出してくる。その積極性に少し戸惑いながらも、ライは手を握り返した。
「ライだ、よろしくな」
「じゃあライって呼ぶね?私のこともサンドラでいいよ」
サンドラの声は教室に響くほど大きく、周りの生徒たちがちらちらとこちらを見ている。
『この子、めちゃくちゃ元気だな』
相棒の呟きに、ライは内心で同感した。
「ねぇねぇ、今日チーム決めするらしいよ」
「チーム決め?あぁ、あれか」
事前にライが調べた情報ではこの学園では一年で三人チーム、二年で四人チームを作るとのこと。多分その班決めのことだが…
『班決めかぁ、流石に慎重に決めなきゃな」
そう、三年間付き合って行く仲間、そして
(どうすっかな…)
突然サンドラが手を叩いて振り返る。
「ライ、一緒の班にならない?隣の席も運命みたいな」
「お前が隣に来ただけだろ、それに…」
サンドラは確かに明るくて悪い奴じゃないのは分かるが、まだ彼女の実力もわからないし…
「あー、悪いけど俺はまだパスだなぁ、様子見したい気分だ」
「えー、そうなの?強い奴と組みたいみたいな?私強いよ?ほら、バシバシって!」
勢いよく空に拳を振るうサンドラ。
「バシバシねぇ、まぁ強い奴と組みたいのは間違ってねぇよ」
「うーん、でも早く決めたほうがいいよ?このクラス四代貴族様がいるらしいからさ、みんなそっちと組みたがるって」
「あ?まじか?」
ライの目の色が変わる。四代貴族といえば、フィル兄がよく言ってたファスカ様って言う最強。幼い頃から最高峰の教育と血筋を持つ奴ら。
弱いはずがない。
「おい、どいつだ?」
「えーっと、まだいないよ」
サンドラが教室を見回していると、続々と人が入って席に着く。
そして最後にその男はいた。
現れたのは、黄金と呼べるほど美しい金髪の少年だった。整った顔立ちに、気品ある立ち振る舞い。まさに貴族らしい風格を漂わせている。
「あ、あいつ。アーサー・ペルシオン」
サンドラが小声で教えてくれた。教室がざわめく中、アーサーは傲然と顎を上げて歩いてくる。
『うわぁ、なんかいけすかない感じの奴だな』
相棒が呟いた通り、その美貌とは裏腹に、アーサーの表情には高慢と文字が書いてる様だった。
そんなアーサーが歩を進める、こちらの方へ。
「サンドラだな?班の件で話がある」
アーサーがサンドラの前に立ち止まった。
「え、あたし?」
「そうだ。君の固有魔法は
サンドラの顔が曇る。
「それが…どうかした?」
「僕のチームに入れ。その能力は有用だ。この僕が使うに相応しい」
命令口調で言い放つアーサー、まるで道具を選ぶかのような口ぶりだ。
「ちょっと待てよ」
サンドラが眉をひそめる。
「私、別にあなたと組みたいなんて言ってないけど?」
「?君に選択権はない、僕が入れと言ったら入れ。そんなことも分からないなんて、魔法は良くても頭の方には期待できないな」
その傲慢な態度に、サンドラの表情が更に険しくなった。
「はぁ?何それ、超むかつく」
四代貴族への言葉遣いに教室中の空気が凍る。
「むかつくだと?僕に向かってその言葉遣いは何だ?」
「言葉遣いって、あんたこそ人を道具扱いして」
「道具?違うのか?むしろ光栄に思ってほしいんだが」
サンドラが話にならないと呆れたように首を振る。
「あのさ、チームって仲間でしょ?対等な関係の」「対等?」
アーサーが鼻で笑った。
「四代貴族の僕とただの貴族の君が対等?寝言は寝て言うものだ」
「なんか勘違いしてない?私が入らないって言ったら入らなくてもいいんだよ?」
「もし入らないなら君の家を潰す。それが嫌なら君は僕のチームに入るんだ、それが決定事項だ」
これがもし、アーサー入っていなければ鼻で笑えた話だった。だが目の前にいるのは四代貴族、そんな戯言を現実にできる力がある。
サンドラは何も言えなかった、何も言い返せなかった。
クラスの中も今のアーサーの行動は流石に目が余ると、文句を言ってやりたかった。でも言えない、標的になりたくないから。
『おいおい、助けてやれよ』
ザックの言葉をライは無視した。ライだって助けてやりたい、でもそうはいかない。
(俺は
フィル兄だけには背負わせない。その為にライは問題を起こすわけにはいかない、ましてや首を突っ込むなんてそんな…
(情に流されるな、少し話しただけの奴だ。今後も関わることはない…)
『ほら困ってるだろ!助けてやれって!』
(俺はこのアーサーと組む、みりゃ分かる、こいつは強い。態度に見合う実力がある…)
今サンドラを助けても意味はない。あと少しで先生が来るんだからそれを待てばいい。
それでサンドラはどうだ、今後いじめられるかもな。
誰も班に入れないだろうな、四代貴族が圧力掛ければそんなもんだ。
それで…それでよ…こいつは一人になんだろうな。
行くなバカ…
またフィル兄に迷惑掛けんのかよ…
いいだろ、今あったばっかの奴なんて…
いいのかよ?見捨てて…
それで俺は胸張れんのか?
……
気づいたら、ライはアーサーの前に立っていた。
「ん?なんだ君は?下がっていたまえ、今彼女と話している」
「いやぁよぉ、俺こいつとさっき一緒の班になるって約束してんだわ。だから勝手に取られると困るんだわ」
サンドラの顔は分からない、でも安堵の空気は感じた。
「…この学園には愚か者しかいないのか?四代貴族に逆らうとどうなるのか、教えてやろう」
クラス中がなんでと言いたかった。今放置しておけばその女だけで犠牲は済んだのに、なんで突っ込んだと…
だがライは不敵に笑う。
「だっせぇなぁ」
「あ?」
ただの一言、それがアーサーの逆鱗に触れた。
「自分の思い通りに行かないからってママ〜助けて〜かよ、自分でけりつける気概ねぇならどっかいけ」
『よく言ってたぞライ!』
「ふふ、二言はないなゴミ、いいだろう、決闘だ!僕とお前で一対一のな!沢山の人間を集めて見せ物にしてくれる」
「沢山の人に見てもらえないと寂しくて戦えないのか?」
「見せ締めだよ、そうだな。僕が勝ったら頭を地につけ謝りここを去れ」
「いやちょそれは…」
流石に感化できないとサンドラが止めに入る、だがそれをライは止め、余裕な態度を崩さない。
「いいぜ?ただお前も負けたらサンドラに謝りな。そして二度近づくなよ?俺達にな」
「自分で吐いた唾だ、逃げるなよ」
「そっちこそビビってお漏らしとかやめろよ、見るに堪えないだろうからな」
鳴り響く鐘の音と共に二人は互いに背を向けた。
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