いつか忘れてしまうので~母と私の備忘録~

玉置寿ん

第1話 「大好きだから」


母が入院した。


そう聞いても、特に驚きもしない。


よくあることだったから。

むしろ母の入院中は、姉と私は祖父母の家に預けられるので、ちょっとラッキーでもあった。


退院したら、母はよくお菓子を作ってくれた。

カスタードやクレープ、ホットケーキ、シフォンケーキなんかも作っていた気がする。


私はなにもわかっていなかった。

母の病気を、なにもわかっていなかった。


よく体調を崩すので、少し面倒ではあったけど。

そういうときの世話は姉か父が親身になってしていたから、私の出る幕はなかった。

私が母にしたことなんて、なにもなかった。


まだ何もしていないのに……


高校三年生の秋の日、母は病院で息を引き取った。


最後の最後で、やっとのことでかけた言葉

「大好きだから、早く帰ってきて」


母に届いたかどうか、もう確かめられない。

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