第12話

 一方、ライズと分かれて調査を始めていたエミルも、マーブル模様の建物を発見していた。

 ドーム型の建物だ。かなり大きい。


「……決闘場みたい」


 この世界は、各都市にドーム型の決闘場がある。


(入った方が良いかしら……でも、ここは恐らく魔物のテリトリー内……)


 ドームを見て、エミルはどうするか悩む。

 Aランク以上の魔物の中にはテリトリーを作る者がいる。テリトリー内では、魔物が優位に戦闘出来るので、エミルが高位の冒険者と言っても、苦戦は必至である。


(怖気づいてどうするの……ここで逃げたらライズに失望されちゃうわ)


 ライズの事を考え、エミルは勇気を振り絞った。

 ドームには、複数の入り口があった。その一つから侵入する。

 すると、ガタンと扉が勝手に閉まった。

 扉はマーブル模様ではなくなり、魔法文字(ルーン)が刻まれている。


(この魔法文字(ルーン)は……硬質化の効果がある魔法文字(ルーン)! と、閉じ込められた!?)


 エミル焦る。


(い、いや、逃げるつもりは元からないし、関係ないわ……)


 冷静さを取り戻す。

 エミルはドームの中を探索する。


 ドーム内の構造はぐるりと一周するように通路があり、その通路の扉を通るとスタンド席とアリーナに出られる。

 スタンドとアリーナの床の色はマーブル模様ではない。

 大理石と、黒曜石、灰色の石などがモザイク模様になるよう敷き詰められている。観客席も同様の模様だ。


 スタンドの観客席にはぬいぐるみのようなものがびっしりと座っている。

 ぬいぐるみの種類はクマや犬など可愛らしい者から、やたらリアリティがあるグロテスクなタコみたいな生物のぬいぐるみまで、様々な種類がある。


(凄い光景ね……)


 エミルは率直にそう思った。


(このぬいぐるみ……襲ってくるかしら……それとも本当にただのぬいぐるみ?)


 今のところぬいぐるみは一切動き気配はない。魔力などが込められている感じもない。

 ただのぬいぐるみとしか考えられないが、何か仕掛けがあるかもしれない。エミルは警戒しながら探索を進める。


『ようこそ、シーラドームへ』


 天井から声が聞こえてきた。

 無機質な声だった。男か女かも分からない。

 それとほぼ同時。

 アリーナ中央の床が開き始めて、大きな穴がぽっかりと開いた。


 その穴から、二足で立っている、巨大な熊のぬいぐるみがせりあがってきた。


 三頭身くらいの体型だ。


 クマのぬいぐるみを体型そのままに巨大化させたような見た目である。

 目つきが鋭く、凶悪そうな表情をしている。さらに手には手全体を覆う、ナックルを身に着けていた。


『ここは創造者シーラ様の作った決闘場です。挑戦者はアリーナの上におあがりください3連勝すれば、ボスに挑戦可能です』


 声はそう言った。


(創造者シーラ。この建物を作った魔物の名前? 創造者が恐らく存在名かな? アリーナ上の敵を倒せば会えるの?)


 声を聞いてエミルはそう予想した。


(しかし、創造者って……いったいどういう能力を持ってるの!?)


 存在名を聞けば、ある程度魔物の能力を予測は出来るが、エミルは何の予想も出来ていなかった。


(このドームからは出られないし、ここは戦うしかなさそうね。あのぬいぐるみにはぱっと見勝てそう)


 エミルはそう思い、アリーナの上に上がった。

 アリーナにエミルが立った瞬間、円舞曲が流れ始めた。音楽に合わせて、客席に座っていたぬいぐるみたちが踊り始める。

 異様な雰囲気にエミルの緊張感は高まる。


「がおおおおおおおお!」


 くまのぬいぐるみが雄たけびを上げながらエミルに襲い掛かる。

 ぬいぐるみの動きは中々素早い。しかし、エミルほどの冒険者なら回避するのは容易かった。


 あっさりと見きって、最小限の動きで回避する。その後、凄まじい速度で雷轟剣を抜き、ぬいぐるみを斬った。

 すぱっとぬいぐるみは一刀両断される。

 ぬいぐるみは地面に落ちて、黒い靄となり消滅した。


『一回戦勝利おめでとうございます』


 無機質な声が響き渡る。


「この程度の雑魚じゃ相手にならないわね。最初からボスが出てきてもいいのよ」


 挑発するようにエミルは言う。


『二戦目です。難易度が上がりますのでご注意ください』


 エミルの言葉を無視してそう言ってきた。どうやら聞こえていないようだ。


「ふん、いいわ。分からせてやるまでよ」


 エミルは雷轟剣を構え臨戦態勢を取った。

 再びアリーナから何かがせりあがってくる。

 ピンク色の体毛を生やした巨大な羊だった。

 顔はつぶらな瞳をしていて、結構可愛いが、二本の大きな角を生やしており、攻撃力は高そうに見える。

 今までの奇妙な敵や建物の数々を考えると、一番まともな見た目をしていた。


「むむ、可愛い見た目……だけど容赦はしないわ」


 エミルは雷轟剣を力強く構える。雷轟剣の先端に、電気が集中し始める。

 その剣を振ると、雷撃が迸り、巨大羊の頭に直撃した。

 雷が間近で落ちた時の様な、轟音が部屋に鳴り響く。

 今まで近接で戦っているところだけ見てきたが、かなり強力な遠距離攻撃も、エミルは使えるようだ。


「グオオオオオオ!!」


 と羊が可愛い顔から似合わない雄たけびを上げた。

 これだけの巨体。耐久力は優れているのか、エミルの攻撃を受けても、一撃では倒れなかったようだ。

 頭を下げて、角をエミルに向け、巨大羊は突進してきた。


「遅い!」


 エミルは叫びながらジャンプして、あっさりと避ける。

 そのまま羊の頭の上に着地したエミルは、首元に剣を突き刺した。

 突き刺してから、さらにゼロ距離で雷を発生させて、再び強力な雷撃が迸った。

 流石に耐えきれるダメージではなかったようで、巨大羊は地面に倒れ伏せ、その後、黒い靄となって綺麗さっぱり消滅した。


「こんなもんね」


 二発強力な攻撃を放ったが特に消耗した様子はなく、涼し気な顔でエミルは言った。


『おめでとうございます。次の戦いで勝利すればボスへ挑戦できます』

 その声が聞こえてきた直後。流れていた曲が緊迫感のある曲に変わる。ぬいぐるみたちも踊るのをぴたりとうやめた。

 次の敵がせりあがってくる。

 今度は人間と同じサイズのぬいぐるみだった。

 顔はライオン。体は人間とほぼ同じだが、もふもふの毛が生えている。

 両手に剣を持っている。二刀流のようだ。


「我が名はブラシド」


「しゃ、喋った!」


 渋い老人のような声で、ぬいぐるみは喋ってきた。

 今まで喋る様子はなかったので、エミルは驚く。

「お主の名は?」

「え……エミル・トールよ」


 名を聞かれたので動揺しながらも、名乗り返す。


「それではエミル・トールよ。いざ尋常に……勝負!」


 エミルとブラシドの戦闘が始まった。


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