第20話 Day.20 包み紙

「うわー!キレイ!この丸いの、なぁに?」

 遊びに来た文太が、ウキウキとした声をあげる。

 ちゃぶ台の上に置かれた、色とりどりなそれに、興味津々だ。

「これはチョコだよ、スイスの有名なヤツ」

「チョコ?みんな、キラキラしてるねぇ」

京義たかぎ君の好物なんやて」

 はくどーさんが、ジュースの入ったコップを並べる。

「たかにーちゃん、チョコすきなの?」

「ん、まあ……好き、だな」

 チョコレートが好きだなんて、子供っぽい気がして、わずかに言い淀んでしまった。

 甘いものが好きというわけではないのだが、このチョコは別かもしれない。

 先日来たあの人が、俺への土産に持ってきたリンツのチョコレート。

 俺の好物を、どうして知っていたのか。

 母にでも聞いたのだろうか?それとも彼か。

 土産にしては、いささか量が多い気もする。

 俺が知っている、一番大きな贈答品用サイズの倍はあるぞ。

 恐らく、どのフレーバーが好きなのか、悩んだ挙げ句に、全て選んでおけ!量も多めにしとけ!となったのではないだろうか。

「ぎょうさんあるなぁ」

 はくどーさんが笑いながら、腰を下ろす。

 多分俺と同じことを考えているのだろう。

 あの人が、何を考えてこれを選んだのかと考えると、少し面白い。

「これ、みんな、同じ味?」

 文太が持っているものをみて、俺は少し慌てた。

「文太、それはお酒が入ってるから、はくどーさんにあげな。えーと、こっちの赤いのは大丈夫だぞ」

「あかいのだけ?」

「この青いのは平気。でも文太には、ちょっと苦いかな?俺はこれのが好きなんだけど。あとは、えーと。知らないフレーバーもあるな」

 一覧をみながら、文太が食べられそうな味を教えてやる。

「わかった!このあかいの、もらうね」

「大きいから、丸飲みするなよ」

「しないもーん。いただきまーす」

 包みを開くと、勢いよく口へ放り込む。

 頬がボコッと膨らんで、ちょっとリスみたいだ。

 そんなことを考えながら、俺も一つ食べる。

「んんー!おいしい!もっとたべる!」

「やっぱり美味いな。文太、食べすぎると鼻血出るぞ」

「ピンクのもおいしい!」

「あー、このお酒は、ええものを使うてますなぁ」

 二人とも気に入ったみたいで、ニコニコと食べている。

 俺も久しぶりに堪能する。

 うん、おいしい。

 キラキラと輝く包み紙を眺めていると、昔の記憶が甦る。

 あれはバレンタインデーだったろうか。

 幼馴染みの彼女は、毎年このチョコをくれた。

 俺の好物だと知っていたから。

 けれど、彼女が中学生になった年。

 初めて手作りのチョコレートをくれたのだ。

 自分で包装したのだろう。綺麗なリボンと、可愛らしい包み紙だった。なんだか勿体なくて、俺は捨てられなくて、取っておいたっけ。

 本人は義理だと言っていた。

 けれど、手作りチョコを貰ったのは俺だけだったと、後から知ったのだ。

 だから、その、つまりはそう言う事なんだろう。

 俺は凄く嬉しくて、ホワイトデーには、彼女が好きなカフェに誘って……。

「たかにーちゃん!何つくってんの?」

 文太の声に、意識を引き戻される。

「え、なにって」

 手元をみると、ブルーに輝く折り鶴があった。

 どうやら無意識の内に折っていたらしい。

「小さいのに、器用に折るなぁ」

 はくどーさんの声に、少し恥ずかしくなる。

 考え事をしていると、手元にある紙で作ってしまうのは、癖なのかもしれない。

 ところが文太は、キラキラした折り鶴が気に入ったようで、その後全ての色の鶴を折る羽目になった。

 チョコも折り鶴も、喜んで貰えたようで、何よりである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る