ついてこーい。
孝彩
ついてこーい。―(前編)―
form:橘みゆき
To:llbm@○○○○
件名:写真を送ります
久しぶり。あの時の写真今送ります。
また遊ぼうね。
(写真添付)
今朝、スマホにこんなメールが届いた。メッセンジャーアプリでのやり取りが当たり前になっている今、メールで写真を送るなんて時代錯誤も甚だしいと思った。
「迷惑メール?変なサイトなんて見てないけどなぁ…そもそも“橘みゆき”ってだれだっけ?」
迷惑メールにありがちな怪しいURLもないし、添付されてきた写真はどこか海辺の綺麗な風景。そもそも名前に変換されているという事はスマホの連絡先に入っているということだ。だが、びっくりするほど顔が思い出せない。最近は仕事が忙しくて誰とも遊んでないし、新しい友達だとは思えない。ましてや彼女なんていない。送られてきた写真を見ながら色んな事を考えていると仕事に行く時間が迫っていて慌てて朝食と着替えを終わらせて家を飛び出た。
会社に着くと同期で昔からの友人が話しかけてきたので今朝のメールの事を話して実際に見せた。友人は最初こそ興味なさげに俺の話を聞いていたが実際のメールを見ると悪戯な笑みを浮かべ『返信してみるか?』と、ふざけた事を言ってきたので断ると友人は俺のスマホを取り上げ問答無用で返信した。
「おい!勝手なことするなよ」
「大丈夫だって!変なURLもないし、そもそも怪しいメールだったらこんな海辺の風景写真なんか送らねぇだろ」
確かに友人の言っていることは間違いないのだが、知らない相手にましてや異性にメールを送るなんて、後々トラブルになったらどうしてくれるんだと思っていると友人が続けて、「それに名前見てみろよ。絶対にかわいい子に決まってる」などと名前だけで想像して失礼なことを言う…だが、俺も密かに期待をしていないわけではなかった。
返信したことなど忘れて仕事をし、昼時。スマホのバイブレーションが鳴った。返信が帰ってきたのだ。
“返事が返ってきて良かった。私お手紙送るの慣れてないから、ちゃんと送れているか心配だったの”
帰ってきた内容を読むと違和感というか、少し文章が幼い感じがした。友人に返信が来たと言い内容を見せると『少し不思議系の天然ちゃんかもな』などと言うもんだから俺もそんな気がして、どんな女の子かどうかも分からないまま少しメールでのやり取りをすることにした。
―
しばらくメールでやり取りをしていると、相手とリアルタイムでやり取りが出来るメッセンジャーアプリとは違い“相手にちゃんと届いただろうか?”、“早く返事来ないかなぁ”と子供の頃にしていた昔懐かしい手紙のやり取りのようで少し懐かしく、そして楽しくなってきていた。話しているうちに彼女の住んでいる所と俺の地元が同じだという事、好きな事や好きな食べ物など共通点が多く話が弾んだ。
“あなたに会いたい。今度良かったら会いませんか?”
願ってもない嬉しいメールが届いた。俺はすぐに『会いたい、今度の日曜日に○○駅で待ち合わせしよう』と送った。今年の夏、俺はついに恋人が出来るかもと浮足立つ。今日は火曜日、彼女と会えるまであと5日…
(後半に続く…)
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