第12話:発情3


どうすれば良いのか、アルベルトはわからなかった。


「ア…ル……」


守りたいと思っていた人の弱々しい声に、はっとアルベルトは我に返る。


――――何をやっているんだ、俺は!


目の前の被害を受けた愛しい人を放って、思考の海に呑まれそうになった自分に怒りを覚えた。


自分が触れるのは怖いだろうが、襲われ動けないだろう身体を湯で清めなければ……。


そう決めて、アルベルトは、何かを恐れるようにスバルへと近づく。


その恐れは、スバルが恐慌状態に陥ることか、それとも自身を恐れて拒否の言葉を掛けられることか……。


――――どちらとも、怖い。


近づけば、涙は零しているものの、スバルは恐慌状態に陥ることも、アルベルトを拒否することなく真っ直ぐと見上げる。


それに心の中でほっと安堵したアルベルトは、濡れた布の塊を退け、髪ごとスバルをシーツで包んだ。


それをされている間も、スバルは動かない。


「スバル。申し訳なかった」


アルベルトの謝罪に、スバルはこくりと頷く。


「……俺が触れても、怖くないか?」


その問いかけに、スバルはまた、こくりと頷いた。


少しほっとしながらアルベルトは、やけにゆっくりとスバルの頭に自身の大きな手を乗せた。


「どこか、怪我はないか?」


「……」


今度は、スバルは首を横に振る。


無言のスバルに、アルベルトは眉端を下げた。


「スバル?」


スバルの反応に、本当だろうかとアルベルトは心配になった。


恐怖で、自身の言っていることに肯定しているのではないか……と。


どう問おうかと考えたが、スバルの震える唇が言葉を発するように動きはじめたので止めにする。


「アルは、俺が嫌い?」


そのスバルの言葉に、アルベルトはかあっと頭に血が上がった。


「そんなことあるか!!」


また、叫んでしまった。


恐れられてしまう。怒鳴られるようなことをしたのは、自分の方なのに。


そうアルベルトが思っても、手遅れだ。


泣くのを忘れ、スバルが目を丸くしていた。


だからとついでに、言ってしまおうと何かがアルベルトに囁く。


「貴方を嫌いならば、今回の発情期で苦労はしない。 貴方が俺のもとに嫁ぎ、隣の部屋にいるというだけで発情するというのに、嫌うわけがあるか」


その言葉にスバルが、息を呑んだ。


このことに関しては、後悔はない。


国を治めることは器用に出来ても、スバルに関しては不器用だ。


素直に、真っ直ぐと伝えるしかできない。


だから、覚悟を決めた。


軽蔑や拒否の目を言葉をスバルから向けられようとも、構わないと。


しかし、そう覚悟した直後。


「良かったぁー」


そう言って、スバルはアルベルトを見上げ微笑んだ。






* * *






寂しくて、ぽろぽろと涙が零れて行く。


先程の行為に、罪悪感で離れて行ったアルベルトを見て、動揺からだとわかっていても、触れるなと怒鳴られて……スバルは、急激に寂しくなってしまった。


触れるなということは、もしかしたら嫌われたのかもしれない。と思ってしまった事も要因だった。


もしかして、平凡な男である自分の身体を見て、何か気に入らないところでもあったのだろうか?


それは、十分にあり得るとスバルは思った。


自分自身には愛らしい顔も、魅力的な身体も持っていない。


それを決定づけるように、近くに寄って来たものの、謝罪して質問をしてくるアルベルトは、どこかよそよそしい。


「アルは、俺が嫌い?」


だから、そう口から衝いて出た。


すると、スバルの予想に反して、


「そんなことあるか!!」


とアルベルトに怒鳴られた。


スバルの存在に、欲情しているからだとアルベルトは言った。


なら、嫌われていないのだ。アルベルトに。


そうわかるとスバルは、ほっとした。


「良かったぁー」


そう言って、アルベルトを見上げて微笑む。


すると、アルベルトはぽかんと口を開けて、スバルを凝視した。


それにクスリと笑ったスバルは、腰を浮かせる。


「アル」


スバルはアルベルトの唇に、自分のそれを合わせた。


「す、スバル!?」


慌てふためくアルベルトの声に、スバルは元に戻った位置から視線を上げる。


実は内心、今も行っている自分の大胆な行動に、恥ずかしすぎてどうにかなりそうだった。


するとそれを察したのか、アルベルトがいつものように優しく微笑んだ。


そして、傷つけないようにというように、ゆっくりとスバルの頭を撫でてくる。


「アルが好き……」


そう言って健気に笑ったスバルに、アルベルトは、この頃恒例の尻尾と耳と髪を逆立てた。


「スバルの好きとは、"そういう"好きで良いんだな?」


「はい」


確認してくる問いに、スバルは頷いた。


そしてアルベルトから離れ、正座をする。


「お慕いしています。アル」


そう告白してアルベルトを見上げたスバルは、頬を真っ赤に染めてはにかんだ。

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